私が「売り上げ月2万円、負債2億8000万円」の会社を引き継いだワケ
プレジデントオンライン / 2020年3月24日 15時15分
戦国時代を終わらせ、天下統一を果たした天才。貪欲な情報収集と腹心の活用が偉業達成のカギだった。
■既存のルールを壊し新しいシステムを打ち立てた
子供のころ、父の書棚から歴史関係の本を引っ張り出して読んだのが織田信長との最初の出会いです。当時から「この人の考え方はいいな」と感じていました。大人になってビジネス経験を積んだ今は、「私は信長に似ている」と勝手に親近感を覚えています。
信長は既存の仕組みを破壊して新しい仕組みを創造しました。その発想は、現状のよくないところの課題点を新しいビジネスに転換するという、私たちのやっていることと似ているのです。
有名な桶狭間の戦いで言えば、今川義元の2万人とも4万人ともいわれる大軍に、数千人の兵力で立ち向かったわけです。家臣たちは城に籠もるしかないと言った。まともに戦って勝てるはずがないと、誰もが思っていた。しかし信長はそうは思わなかった。
今川義元を討ち取れるとまで思っていたかどうかはわかりません。けれど少なくとも、あの圧倒的な劣勢を挽回するアイデアが彼にはあったんだと思う。世間の常識にとらわれず、自分の頭で考えるから、アイデアが湧いてくる。アイデアが湧いたら、試してみたくなるじゃないですか。
■月2万円くらいしか売り上げがなく負債は2億8000万円
私が「出前館」を引き受けたときも同じでした。ネットを窓口に出前を仲介する出前館のサービスは、大阪でスタートしたばかりで、当時月2万円くらいしか売り上げがなかった。負債は2億8000万円もあった。誰もが反対しました。ビジネスとして成立してないんだから、それが当然ですよね。
だけど私はそのうまくいっていないところを、なんとかできるんじゃないかと思った。いろいろアイデアが湧いてきたわけです。
当時私は自分で企画会社をやっていて、業績はよかったんです。その仕事をやめて、そのうえ多額の負債まで背負うことになる。リスクを冷静に計算したらできなかったと思います。
けれど出前館の事業は、本当にブレークしたらものすごく大きくなる可能性がある。外食市場が縮小に向かい宅配市場が伸びるといわれているなかで、社会はますますIT化が進んでいく。出前館はその2つの変化に合致していて、お店にもユーザーにも絶対に喜ばれる。うまくブラッシュアップできれば、世の中に支持されるのは間違いない。今は売り上げが月2万円でも、200億円、2兆円の会社になる可能性がある。
自分の会社はその時点で年商3000万円くらい。それを3500万円、4000万円にすることはできるだろうけど、スケール感がぜんぜん違うわけです。それで最終的には、お金が返せなくても殺されるわけではない、と腹をくくって引き受けることにしました。将来性と面白みに懸けたんです。
桶狭間の後の論功行賞で、義元を討ち取った毛利良勝より義元の居場所を伝えた簗田政綱を、信長が高く評価したという話があります。歴史家の間には異説もあるようですが、私は絶対そうだったろうと思う。義元の首を取るという華々しい武功より、発想を変えるような重要な情報とかアイデアを持った人を信長は評価した。あの戦いの勝利そのものより、そこが信長の優れたところだと思います。
戦いの前にもし多数決を取っていたら、そういうことは起こらなかったわけです。籠城しようということになって、みんなで清洲城に籠もっていたかもしれない。その後の天下人・信長は、おそらくなかったですよね。
私も多数決が嫌いです。多数決で決めれば、みんなが納得するかもしれないけれど、それでは大きな成功はありえない。たとえ100人が反対してもやる、という心構えがリーダーには必要で、そのためには情報やアイデアが何より重要です。信長はそのことを、よく知っていたのだと思います。
■信長だけではムリ? 天下統一には「秀吉」が必要だった
ただ信長にも欠点はありました。残念ながら、そこも私は似てるなあと感じます。権限は与えるけれど、成果が出ないと見切りをつけるのも早い。「やると言ったのに、なんでせえへんの」という感じで、具体的に言えば、ダメなら躊躇なく降格させる。
「これを実現しますから、報酬はこれだけください」とか「権限をください」と要求してくる、イキのいい人が私は好きなんです。ただ、実際にはできない人のほうが圧倒的に多い。
そういった評価は2カ月くらいで定まります。ですから幹部社員として中途採用した人ならば、試用期間内にダメならダメと告げたほうが、お互いに幸せだと思うんです。何年も引っ張ってからダメ出しするよりも、2カ月で結果を出したほうがましですよ。だから、「冷たい」とか「1年くらい待ったほうがいい」と言われることもありますが、それができない。
では、どうしたらいいか。
信長が天下を取れたのは、部下に豊臣秀吉がいたからだと思います。秀吉は人の動かし方がうまい。性格が明るくて、インセンティブを与えて上手に人を動かすことができる。
そうした自分にはない才能を見出したから、信長は秀吉を重用したのです。信長と秀吉は相性がよかった。私のところも、何人かは秀吉のような人が育ってきているので、ある程度は彼らに任せて、その先は言わないように一所懸命心がけています。蜂須賀小六が信長には仕えないけれど、秀吉には仕えたように、私の下では育たない人が、そこで育ってくれるかもしれません。
若いころの信長は「全部自分でやる」タイプ。戦に出陣するにも自分一人で真っ先に駆け出すようなことをしていましたが、天下統一が視野に入ってきたころから、何人かの家臣に大きな権限を与えて任せるようになります。
実は出前館も今、その段階に入っています。宅配代行のサービス網をつくっているんですが、現在全国に260の拠点があります。これを3年以内に500に増やします。だからこの3年が勝負です。3年後にウチが消えているか、それとも電気や水道と同じような社会のインフラに育っているか。
この戦いに勝つために、今は何人もの「秀吉」が必要なんです。
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出前館社長
1964年、富山県生まれ。高岡高校、関西大学卒。リクルート、ハークスレイなどを経て、2001年夢の街創造委員会取締役。02年から社長。19年、現社名に変更。
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(出前館社長 中村 利江 構成=石川拓治)
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