1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

新型コロナで「外国人は怖い」と思う人に伝えたい米国最高裁の知恵

プレジデントオンライン / 2020年3月10日 9時15分

2月7日、韓国ソウルのカフェで見かけた「中国人お断り」と書かれた張紙 - 撮影=金 武偉

■「入国お断り」と避け合う日中韓

日本で中国語を話す人にとって、肩身の狭い時期だ。今年1月には、店先に中国語で「中国人入店禁止」という張り紙を掲示した神奈川県の駄菓子店が話題になった。そればかりではない。この記事を書いている3月9日、日本政府は中国と韓国からの入国を制限する新たな措置を発動した。発行済みの査証(ビザ)の効力を停止するほか、検疫を強化する。

一方、海外では「日本人お断り」という動きもある。中国では2月、日本から江蘇省蘇州市に来た人に対し、14日間の自宅隔離と医学的観察に協力する求めを出した。山東省威海市でも日本から来た人については、ホテルに集中隔離し、14日間経過観察するとしている。

新型コロナウイルスは人々の外国人嫌悪と人種差別の意識を表面化してしまった。ウイルスの恐れがある外国人を「怖い」と思う気持ちはわかる。だからといって、特定の国籍や民族を名指しする、憎悪むき出しの対応は正当化されるべきだろうか。そもそも一体、正当な「区別」と不当な「差別」の境はどこにあるのか。本稿では、この問いを考えてみたい。

■生まれ持ったステータスで「仕分け」ていないか

筆者は米国で法律家を生業としていたこともあり、「区別」と「差別」について米国最高裁の考え方に注目する。米国は英国から独立したという自由主義・人権主義の社会的ダイナミズムと黒人奴隷という歴史をあわせもつ。このため人種差別・性差別などの「壁」を法廷で一貫して争ってきた。

そんな米国最高裁の判例は、どこまでが合憲の「区別」で、どこからが違憲の「差別」なのかを深く議論している。その積み重ねで確立されてきた判断基準は、あらゆるシチュエーションでの差別問題で参考になる。

かいつまんでいえば、米国最高裁は対象事件での「仕分けの性質」を問うことにした。具体的には「黒人ならこれはダメとか、女性ならあれはダメ」など、自分ではどうすることもできない、生まれ持ったステータスをもってして、特定の権利を受ける人・受けられない人を「仕分けていないか」を問うのである。

■米国最高裁の判断基準

裁判所は差別を審理する際、「性犯罪歴がある人は児童教育従事禁止」「運転免許を持ってないなら公共バス運転手になれない」など、個人の自由意志にもとづく「行為」での仕分けなら、そのルールが施行された民主的立法政策や手続きをできるだけ尊重する。

他方で、「人種」や「性別」など、生まれつきの、当の本人がどうしようもないステータスで仕分けがされていると判断された場合、米国最高裁はそれをとても高いハードルで吟味する。すなわち、その仕分けの「目的」は重大且かつ正当なのか、そして仕分けの「基準」は十分テーラーメイド(吟味調整)されているかを問うのである。

その結果、「あえて人を『人種』で仕分けるほどその州法の目的は重要ではない。むしろ、根底にある真の目的は許されない差別である」と認められる場合は、合衆国憲法の条文に照らし合わせて違憲判断を下すのだ。

■男女で飲めるアルコール飲料の年齢制限がちがう

具体例をあげよう。米国では一時期、黒人の子供が入学できない、白人専用の学校を許す州法がまかりとおっていた。「分離されど平等」なら合衆国憲法上問題ないという発想が、長らくあった。ところが1954年になって、米国最高裁は人種を基準に仕分けることが、社会的平等を生むことなどあり得ないと断じ、公立学校における人種分離を違憲と判示した。

性差別でも似たケースがある。1976年、連邦最高裁判所は、弱アルコール性ビールを販売してもよい年齢制限につき、男性と女性の間で年齢格差を設けたオクラホマ州法を違憲と判示した。性別という仕分けで飲めるアルコール飲料の年齢制限がちがうことは、「女性は社会的にこういう存在であるべき」という女性蔑視的偏見に満ちた立法目的があるにほかならず、不平等で違憲であるという論理だ。

この「仕分け方」の考え方は、実はあらゆる事案を考察するのに有用である。昨年、米国南部の名門デューク大学でこんなことがあった。ある教授が学内向けに送ったメールにこう書いてあった。

「学校内では留学生は中国語による会話は慎み、100%英語を話すように」

このメール発信の直後から、「明らかな人種差別」「ではそういう貴方が中国に留学したとして、二度と英語を話さないのか」といった批判が相次いだ。この教授は問題のメール送信から数日で辞意を表明した。

■真の一流は「相手は中国人だから」とはいわない

留学生に英会話を奨励するのもいいし、館内のホールで静粛を要請するのも正当だ。ただ、「中国語」で仕分けた途端、「真の目的はそもそも中国人蔑視では」「留学生の英会話能力向上なら中国人以外の仕分け方があるべき」といった議論になる。それだけ、生まれ持った、本人にはどうしようもないステータスで人を仕分けることは、やはり社会的に極めて危険な発想なのである。

ビジネスシーンでも、「○○人はやりづらい」などの会話は常に起こり得るし、それを体験した読者もいるだろう。だが少なくとも、筆者が現在運営する投資ファンド「ミッション・キャピタル」では、「交渉相手は中国系なので、これまでの約束を守ってくれるかは未知数だ。価格にもうるさいと思う。なにせ相手は中国人だから」といった発言をする人材には、職を辞してもらうことにしている。そういう仕分けしかできない人に、真の一流はいないと思うからである。

■日本が大好きで来日した方を前に身構える日本人

話を箱根にもどす。個人レベルでウイルス感染を防ぐためには、ウイルスにさらされる環境に身を置かないことが大切だ。したがって予防的観点からいえば、箱根の店主による「ウイルス撒き散らす中国人は入店禁止」という対応は、人種・国籍差別と同列に断じられない部分がある。

ただ、個々の事案の対応を揶揄糾弾するのが本稿の目的ではない。本稿の狙いは、人が他人に課す「区別」がいつから許しがたい「差別」になってゆくのかを体系的に考える方法、そしていかに本人のコントロールがおよばない、どうしようもない「ステータスで人を仕分けること」が危険な発想なのか、という考え方を共有することだ。

2月15日、名古屋市在住の60代夫婦が、ハワイから帰国後に新型コロナウイルスに感染していたことがわかった。今から約80年前、日本軍はそのハワイのパールハーバーを奇襲攻撃した。それを受け、米国政府は、10万人以上の日系人を「軍事スパイ集団」と言わんばかりに強制収容所へ収監した。

その時の「日系人」の仕分け基準を、みなさんはご存知だろうか。その基準とは、「日本人の血が16分の1以上」というものだった。4世代さかのぼって1人でも日本人がいたら、たとえあなたが米国籍保持者でも、どんなに米国政府に忠誠を誓った経歴があっても、収容所に強制抑留されたのだ。ノーベル平和賞を受賞したオバマ政権下でさえ、広島・長崎の原爆投下への謝罪を拒否している米国政府であるが、この日系人抑留の仕分けと仕打ちに対しては、1988年に公式に謝罪と賠償をしている。

現代の日本社会には、日本人と中国人のハーフの子供もいれば、渡来系の血筋をもつ日本国籍者も、そして中国人・韓国人を伴侶にもつ日本人もいる。日本が大好きで来日した方に「○○人お断り」と身構える前に、「○○人」という仕分けと表現で、無意識にそして不必要に、人の権利や気持ちを蹂躙していないか。明日は我が身のグローバル社会で生きる一地球人として、考え直したい。

----------

金 武偉(キム・ムイ)
ミッション・キャピタル マネージング・パートナー
1979年京都府生まれ。UCLA卒業後、ゴールドマン・サックス証券入社。ボストン大学ロースクール履修後、ニューヨーク州で弁護士資格を取得。サリヴァン・アンド・クロムウェル法律事務所で約5年間国際案件に携わった後、ユニゾン・キャピタル投資チームに参画。その後、ベンチャー経営に転身し、2018年8月より現職。

----------

(ミッション・キャピタル マネージング・パートナー 金 武偉)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください