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「ワクチンは怖い」と思う人に知ってほしいワクチンの効能

プレジデントオンライン / 2020年3月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FatCamera

新型コロナウイルスを防ぐワクチンはまだない。一方、麻しん、おたふく風邪、風しん、インフルエンザなどの感染症にはきちんとしたワクチンがあり、接種すればリスクを小さくすることができる。東京慈恵会医科大学葛飾医療センターの堀向健太助教は「ワクチンをいたずらに怖がらず、効能を知ってほしい」と訴える――。

■「まじめ」だからこそ、怖くなってしまう

──なぜ、感染症を予防するためのワクチン接種をためらう親御さんがいるのでしょうか。

【堀向健太先生(以下、堀向)】ひとついえるのは、ワクチン接種をためらう親御さんも、皆さん「子どもの健康と幸せ」を心から願っているんですよ。時々「子どもにワクチンを打たせないのは虐待だ」という人もいますが、それはまた、行き過ぎた表現と思うのです。たまたま間違った知識を入り口にしてしまっただけで、むしろ思いが強いから突っ走ってしまうのかもしれません。

こうした親御さんはまじめなかたが多いので、本当に自分は正しい選択をしているのかどうか、インターネットでワクチンの情報を熱心に調べます。ところが今の検索サイトは、個人の閲覧・検索履歴から、検索した人が「好む」検索結果を上の方に表示する機能がありますよね。安心したくて情報を集めるほど、自分の行動を肯定してくれる「ワクチンは危ない」とう意見のサイトにかたよる可能性があります。

さらにインスタグラムなど同じ考えの人たちが集まったSNSのコミュニティで、同じ意見を交わして「いいね」と肯定し合ううちに、ますます「ワクチンは怖い」「私たちは正しいことをしている」という意識が強化されてしまいます。エコーチェンバー現象と呼ばれるものです。

■医療への不信を根付かせた「MMRワクチン問題」

──そこまで強くワクチンを拒否してしまう理由は何でしょうか。

【堀向】ワクチンが怖いという気持ちの背後には医療への不信があると思います。たとえば日本の場合は1993年に接種が中止されたMMRワクチン(麻しん、おたふく風邪、風しんの3種混合ワクチン)問題の影響が尾を引いています。

MMRワクチンは1989年4月1日、国産の3種混合ワクチンとして導入されました。ところが、接種が始まった1989年から1993年にかけてワクチンを接種した子どもたちのおよそ800人に1人に無菌性髄膜炎が発生し、重い後遺症や死者が出るなど大きな社会問題になりました。これが大打撃となってワクチンに対する不信が広がり、厚生省(現・厚生労働省)はワクチンの導入に対して消極的になってしまったのだと思っています。

私たち現場の医者は感染症の怖さが身にしみているので、ワクチンに対する不信感を少しでも払えるように親御さんと向き合っていますが、一方で不信感を悪用する医療者もいるんですよ。MMRワクチンと自閉症を結びつけたウェイクフィールド事件をご存じですか。

■「ワクチンで自閉症になる」説は嘘の論文が原因

──どんな事件ですか?

【堀向】1998年2月、当時イギリスに在住していたAJ.ウェイクフィールド医師以下13名の研究者が、自閉症と腸の炎症を患う12人の子どもを調べたところ、8人がMMRワクチンを接種した直後に腸炎を起こし、それが原因で自閉症を発症したという報告をしました (※文献1)。世界的に権威がある医学誌の「ランセット」に掲載されたため、あっという間に大騒ぎになりました。

※文献1:「Ileal-lymphoid-nodular hyperplasia, non-specific colitis, and pervasive developmental disorder in children」

※2010年に論文は撤回、著者筆頭のAJ.ウェイクフィールドは医師免許をはく奪されています。

ところが後で子どもたちのカルテを詳しく調べると、腸に炎症を起こした子どもと自閉症の子どもは全く関係がなく、彼らが主張したような子どもは一人もいなかったのです。結局この論文は「ねつ造」されたデタラメでしかありませんでした(※文献2)。

※文献2:「How the case against the MMR vaccine was fixed」

※英国の権威ある医学誌「BMJ」に掲載されたウェイクフィールド事件の全容報告です。データのねつ造が丁寧に検証されているほか、ある団体からウェイクフィールド氏への利益供与が指摘されています。

最終的には2010年にランセットが論文を撤回、ウェイクフィールドは医師免許を取り上げられてアメリカに移住しました。最近の大規模な研究でも、MMRワクチンと自閉症との関係は完全に否定されています(※文献3)。ただ残念なのは、いまだに彼の捏造論文の影が残っていることですよね。その結果、かからなくてもいい感染症の後遺症に苦しむお子さんが出てきてしまう。本当につらいことです。

※文献3:Jain A, et al. Autism occurrence by MMR vaccine status among US children with older siblings with and without autism. Jama 2015; 313(15): 1534-40.

■「接種しよう」という気持ちがうせてしまう理由

──そこまで激しい拒否ではありませんが、「ワクチンを打って何か良いことがある?」とは思ってしまいます。

【堀向】そうですよね。人間って、ある行動の直後に良いことがあると、その前の行動が強化されて何回もくり返したくなるんです。逆に悪いことが起こると、その前の行為を続ける気持ちがマイナスの方向に強化されてしまいます。ワクチンはすぐ目に見える効果はないのに、注射は痛いし、赤くなったり痒くなったり直後は嫌なことばかりです。それに副反応の心配まで重なると「接種しよう」という気持ちがうせてしまいますよね。これはワクチンが構造的に持っている問題といえるかもしれません。

副反応はワクチンを接種することで生じる免疫反応にともなって起こります。軽いものでは、発熱や注射した場所の腫れなどです。重い場合はけいれん発作や脳炎などが生じることもあります。ただ、その頻度はとても稀です。厚生労働省が公開している「予防接種後副反応報告書集計報告」によると、平成19年度の麻しん、風しん混合ワクチン(MRワクチン)の副反応例は、29例でした。接種した人は193万7568人ですから、およそ0.0015%です。

一方、自然感染で麻しんや風しん、おたふく風邪にかかった場合、麻しん脳炎は1000人に1人、風しん脳炎は4000人~6000人に1人、おたふく風邪脳炎は1000人におよそ2人~2.5人の割合で生じるとされています。おたふく風邪の場合、無菌性髄膜炎も怖いのですが、これは100人のうち4人~5人が発症する可能性があるのです(※文献4)。

※文献4:岡部信彦、多屋馨子著「予防接種に関するQ&A集 2019」一般社団法人日本ワクチン産業協会編,p.28 Q15

■命がけで「自然に感染」する必要があるのか

【堀向】実際に2013年から定期接種できるようになったHib(ヒブ:インフルエンザ菌b型)ワクチンを例にすると、ワクチンが承認される前、日本では10万人あたり3.3人の子どもがヒブ感染から細菌性髄膜炎を発症していました。この子ども達のおよそ5%はどんなにがんばっても救うことができません。運良く助けられたとしても、およそ25%に難聴や知的障害が残ります。でもヒブワクチンが打てるようになったことで、ヒブ髄膜炎の数は98%も激減しました。2014年、2015年は一人も報告されていないのです(※文献5)。

※文献5:厚生労働科学研究費補助金 Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究 平成26年度 総括・分担研究報告書 庵原俊昭「小児細菌性髄膜炎および侵襲性感染症調査」に関する研究(全国調査結果)菅秀ほか

また、2018年にタイに渡航歴がある台湾からの観光客に端を発する沖縄県での麻しん流行から、愛知県や福岡県に飛び火した麻しんの「アウトブレイク」(一定期間、限られた場所で予想外の感染症が集団発生すること)は記憶に新しいところです。沖縄県では当時、麻しんワクチンの2回目の接種率が9割を切っていたため(※文献6)、集団免疫──つまり、免疫がない人に対しても間接的に予防効果を期待できる接種率の95%を大きく下回っていたわけです(※文献7)。この二つのケースからしても、ワクチン接種の効果がわかると思います。

※文献6:麻しん風しん予防接種の実施状況(2020/3/4アクセス)

※文献7:van Boven M, et al. Estimation of measles vaccine efficacy and critical vaccination coverage in a highly vaccinated population. J R Soc Interface 2010; 7:1537-44.

またよく「自然に感染したほうが、免疫がつく」という方もいますが、ワクチンよりはるかに毒性が強い“ラスボス級”のウイルスや細菌に命がけで感染させる必要があるのかな、とは思います。免疫ができたとしても大きな後遺症をもたらす可能性があるのですから。そこは科学的根拠(エビデンス)と数字を示して、工夫をしながら説明をくり返していくしかないでしょうね。

■卵アレルギーでもワクチンは接種できる

──先生のアレルギー外来でも、ワクチン接種に否定的な方はいるのでしょうか。

【堀向】卵アレルギーがあるので「ワクチンを打ってはダメだと言われていました」という親御さんは結構おられます。これは正しい知識を伝えていない医療者側も問題で、黄熱ワクチンなどの一部のワクチンを除き、多くの場合は卵アレルギーがあるからといってワクチンを打てないことはありません。

例えば、製造工程で卵が使われているワクチンのなかで、卵タンパク量が一番多いのはインフルエンザワクチンですが、ワクチン内に含まれる量は1ccあたり、1ng(ナノグラム)なんですよ。1gの1000分の1が1mg、その1mgの1000分の1が1µg(マイクログラム)、そのまた1000分の1が1ngです。3歳未満のお子さんへの投与量は0.25ccですから、さらに4分の1になるわけですね。その量で卵アレルギーの症状がでる人は、基本的にほぼいません。

──そんなに少ないんですか!

■ハウスダストに含まれる「卵タンパク」の方が多い

【堀向】そうなんですよ。実は卵のタンパク質ってハウスダストのなかにも含まれていて、その量がワクチンに含まれる量よりもはるかに多いことがわかっています。環境省の研究費で行われている「エコチル調査」の事前研究に参加してくれたご家庭で、お子さんのベッドのシーツの表面を掃除機で吸い取り、ホコリのなかの卵タンパク量を測定したんですね(※文献8)。

文献8:Kitazawa H, et al. Egg antigen was more abundant than mite antigen in children's bedding: Findings of the pilot study of the Japan Environment and Children's Study (JECS). Allergol Int 2019; 68:391-3.

そうすると、全てのご家庭のホコリの中から卵タンパクが検出されたほか、ホコリ1g中に60µg以上の卵タンパクが含まれているご家庭のほうが多かったのです(中央値43.7µg/g)。インフルエンザワクチンに含まれている卵タンパク量の6万倍以上です。普段、そのなかで暮らしているのですから、ワクチンの卵タンパクにはまず反応しません。もちろん、卵以外の食物アレルギーがあるお子さんも、ふつうのお子さんと同じようにワクチンを打つことができます。

■アトピー性皮膚炎があっても接種していい

──アトピー性皮膚炎の子どもはワクチンを接種しても良いのでしょうか。

【堀向】はい。ふつうに接種できます。ただ注射をする場所に湿疹があったり、薬を塗ったばかりという日は接種を避けたほうがいい予防接種があります。順番としてはアトピー性皮膚炎をきちんと治療して、症状が落ち着いてから予防接種をすると安心です。もちろん、ワクチンそのものにアレルギーがあり、アナフィラキシーショック(急性アレルギー症状)を起こす可能性は誰にでもありますから、接種後に30分間、様子をみることが推奨されています。それにアナフィラキシーに対してきちんと対応できる病院で接種すると、さらに安心して受けられると思います。

私の外来でも初診から数年たって、アレルギー症状が落ち着いたあたりで「やっぱりワクチンを受けようかな……」っていう方もでてきます。「いきなり同時接種はハードルが高いですか? では、1種類だけ打ってみましょうか?」という感じで少しずつですね。先日も中学生のお子さんにおたふく風邪のワクチンを接種したばかりです。もし、アレルギー疾患に対する不安でワクチンを避けているのであれば、ぜひ、近くの小児科医とよく相談してくださいね。

※記事中の情報ソースについて、表記のないものはすべて2020年2月27日にアクセス

(医療ジャーナリスト 井手 ゆきえ)

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