新型コロナ対策で一体いつまでマスク着用を続けるのか
プレジデントオンライン / 2020年3月9日 18時15分
■一般的にコロナウイルスは寒さに強く、暑さに弱いが…
新型コロナウイルスの感染が世界中で広がっている。厚生労働省などによれば、3月8日午後9時15分時点の日本国内の感染者は1190人(うち死者14人)。米ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センター(CSSE)などの集計によると、日本時間の3月7日午後、世界の感染者は10万3735人、死者は18カ国・地域で計3519人となった。
新型コロナウイルスは一体いつになったら終息するのか。一般的にコロナウイルスは寒さに強く、暑さに弱い。新型コロナウイルスも、気温の上昇とともに私たちの周りから消えていくと考える専門家は多い。ただし、もし4月ごろに気温上昇で感染拡大が収まったとしても、気温が下がる秋には再び流行する恐れがある。今年10月ごろから来年3月ごろにかけ、第2波、第3波の流行がやってくる。
だから春に流行が収まっても安心せずに、秋からの流行に備えるべきである。通常、大勢の人々が免疫を獲得していくことによってその病原体は力を失っていくが、一度の流行だけでは免疫をもつ人が足りない。これは過去の新型インフルエンザの流行を考えてみると、よく分かる。
これまで新型インフルエンザウイルスは、スペインかぜ(1918年)、アジアかぜ(1957年)、香港かぜ(1968年)、さらにアメリカ南部で発生したとみられるブタ由来の新型インフルエンザ(2009年)と、過去に計4回出現した。いずれも第2波、第3波と流行を繰り返し、免疫をもつ人が増えることで徐々に力を失っていった。
■コロナウイルスは「冬の風邪」の原因になってきた
コロナウイルスは常在化すると、冬の寒い季節に活発になって風邪の原因になる。これまで見つかっている人に感染するコロナウイルスは計6種類。人間界に常在化して人に感染する4種類と、コウモリなどの動物を自然宿主としていたものが、突然変異を起こして人に感染するようになり(初めから人に感染する性質を持っていたとの説もある)、重症の肺炎を引き起こす2種類だ。
後者の2種類は、2002年~2003年にかけて中国を中心に流行した重症急性呼吸器症候群のSARS(サーズ)コロナウイルスと、2012年以降に中東で確認され、いまも流行している中東呼吸器症候群のMERS(マーズ)コロナウイルスである。
新型コロナウイルスはSARSやMERSの仲間で、武漢(ウーハン)市の海鮮市場のタケネズミのような動物を宿主としていたものが、人の世界に入り込んだとみられている。
■SARSは発生から半年後に「終息宣言」を出せたが……
SARSは広東省で発生した後、香港、シンガポール、台湾、アメリカ、カナダなどで市中感染を起こし、最終的に32の国・地域へと感染が拡大した。感染者は8096人(うち774人が死亡)だった。
病院や介護施設など人と人とが密接に接触する場所で集団発生が次々と起き、1707人の医療従事者も感染した。1人の感染者が多くの人に感染させる「スーパー・スプレッディング」と呼ばれるケースも確認された。
結局、WHO(世界保健機関)が終息宣言を出したのは、最初の発生確認から半年以上経過した2003年の7月5日だった。
SARSの症状は発熱、筋肉痛、咳、呼吸困難、下痢。飛沫感染と接触感染で感染していく。新型コロナウイルスとよく似ている。しかし、SARSの致死率は9.6%と、新型コロナウイルスの致死率(約2%)よりもかなり高い。
■新型コロナは感染者の8割以上が軽症で済んでいる
さらにSARSは症状が比較的はっきりしている。患者・感染者を特定しやすいうえ、発症して初めてほかの人に感染する。発症前から感染する新型コロナウイルスとは違う。感染源と感染ルートを把握しやすい。このため防疫がしやすく、SARSコロナウイルスは人間の世界から忽然とその姿を消したように思われている。
それに比べ、新型コロナウイルスは大半の感染者が不顕性感染と呼ばれる無自覚症状だったり、感染しても軽症で済んでしまったりしている。そうした患者・感染者が知らぬ間に感染源になっている。新型コロナウイルスの感染源と感染ルートは非常に見えにくく、防疫が難しい。
しかし、新型コロナウイルス感染症は、WHOによれば致死率は低く、多くの人々にとって死に至る病ではない。病原性(毒性)は弱く、患者感染者の8割以上が軽症だ。感染力もインフルエンザと同じか、少し低いぐらいである。いまのところワクチンや特効薬はないが、熱を下げたり、咳を止めたりする対症療法で十分に治る。
新型コロナウイルスは、毎冬のインフルエンザや風邪とあまり変わらないと考え、落ち着いて行動すべきだと沙鴎一歩は強調したい。にもかかわらず、新聞やテレビなどの報道は私たちの不安を煽るようなものばかりに思えてならない。
■どうして店頭からトイレットペーパーがなくなったのか
たとえば3月4日付の産経新聞の社説(主張)だ。この社説は「新型肺炎とマスク 製造と配分の努力不足だ」との見出しを付け、こう訴える。
「デマの拡散に端を発して、各地の小売店でトイレットペーパーやティッシュペーパー、生理用ナプキンなどの紙製品が買い占められた」
「政府や自治体、関係業界は、生産や在庫の正確な情報を繰り返し国民に伝え、供給にも力を入れることで混乱を回避してほしい。国民の側もデマに踊らされない冷静な行動が求められる」
製造を中国に依存しているマスクの供給がストップするのはよく分かる。しかし、トイレットペーパーやティッシュペーパーまでどうして店頭からなくなるのだろうか。産経社説はこの疑問に答える。
■「マスクは感染症流行時の必需品」は間違いである
「インターネットのSNS(会員制交流サイト)で、『トイレットペーパーやその原材料を中国に依存している』などの誤った情報が出回り、買いだめが始まった。生活必需品の急な品薄を知った消費者は不安を募らせ、買いだめに走る連鎖が起こった」
そこで産経社説は主張する。
「だが、日本家庭紙工業会や政府が説明するように、生産量も在庫も十分だ。ほとんどが国内で生産され、原材料も中国に依存していない。最初に誰がどのような意図でデマを流したのか、経緯を解明しなければならない」
ここまでは問題ない。十分、納得のいく主張である。問題はマスクについての以下のくだりである。
「消費者がデマに乗せられたのは、マスクを容易に入手できない状況も影響している」
「3月中にマスクの国内製造は月産6億枚になるという。政府はメーカーの製造ライン増設の補助金を設けたが、先週の段階で3件の決定では到底足りない。増設のインセンティブを強める思い切った手を打つべきだ。マスクは感染症流行時の必需品だが、中国からの輸入に7割も依存する状況を放置し備蓄も十分でなかった。平和ぼけであり政府は反省すべきだ」
産経社説は「マスクは感染症流行時の必需品」とまで言い切るが、これは間違いである。感染症の問題に疎い論説委員が知ったかぶりで書いたのではないか。こうした間違いがマスク不足を助長し、人々の不安を募らせてパニックを呼ぶのである。
■「首相の決断」が人々の不安を煽る結果となっている
マスクは使い方が難しい。脱着を誤ると、感染を広げてしまう危険性がある。とくにインフルエンザウイルスと同じように飛沫感染したり、接触感染したりする新型コロナウイルスには、マスクよりも手洗いのほうが効果的だ。マスクは「着用しないより、着用したほうがベターだ」ぐらいに考えたい。
詳細は2月12日の記事「新型コロナには効果の薄いマスクを、なぜ人々は必死で求めるのか」で書いたので、ここでは繰り返さない。
産経社説は「緊急時に政府は、国民のために権限をふるうことをためらってはいけない」とも主張するが、これにも驚かされる。「国民のために権限をふるう」という表現自体がおかしい。読者も納得しないだろう。
現在の安倍政権は、自らの権力維持のために新型コロナウイルスを逆手に取っている。新型コロナウイルスに対する一連の政策を見ていると、「首相の決断」が人々の不安を煽る結果となっている。安倍晋三首相が私たち国民のことをどこまで本気で考えているのか、疑問に思う。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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