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「食事でがんは予防できるのか」医師が示した最終結論

プレジデントオンライン / 2020年3月16日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RuslanDashinsky

食事に気を付けることは、がんの予防にどれくらい効果があるのか。医師の一石英一郎氏は、「確かに野菜や果物に一部のがんリスクを低下させるという研究結果はある。だが、食生活よりも先に改善するべきことがある」という——。

※本稿は、一石英一郎『親子で考える「がん」予習ノート』(角川新書)の一部を再編集したものです。

■食事ががんに及ぼす影響

食べものでがんは防げるのでしょうか? むろん、そうした研究は世界中で続けられています。

例えば2007年に、世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究機構(AICR)が報告した「食物、栄養、身体活動とがん予防:世界的展望」があります。そのなかで食物、栄養と、がんのリスクとの関連についてエビデンスの強さを5段階(「確定的」、「ほぼ確実」、「証拠が限られ示唆的」、「相当の影響があるとは考え難い」、「証拠が得られ結論が出ない」)で評価しています。

それによると野菜は口腔・咽頭・喉頭・食道、胃のがんに対してはリスク低下が確定的で鼻咽腔、肺、結腸・直腸、卵巣、子宮体部などのがんにはリスク低下がほぼ確実とされています。ただし、膵臓(すいぞう)、胆嚢、肝臓、乳房、前立腺、腎臓、膀胱(ぼうこう)などについてはその効果は触れられていません。

果物は口腔・咽頭・喉頭、食道、肺、胃のがんに対してはリスク低下が確定的で、鼻口腔、膵臓、肝臓、結腸・直腸のがんに対してはリスク低下がほぼ確実とされています。

牛乳は結腸・直腸がんでリスク低下が確定的とされ、膀胱がんでリスク低下がほぼ確実とされました。

一方で、アルコールは口腔・咽頭・喉頭、食道、乳房でがんリスク増加がほぼ確実(結腸・直腸は男性で確定的、女性でほぼ確実)、肝臓ではリスク増加が確定的とされています。

■食べ物に注意していた知人が、あっさりとがんで死亡

たいていのがんは一人前になるのに少なくとも10年以上はかかります。子どもの頃から野菜や果物を多めに摂るなど、リスクを下げることが確定的、もしくはほぼ確実な食生活や運動習慣を日々取り入れることが大切です。

だからといって、神経質になり過ぎてもいけません。私のようなお酒好きではないが“飲んだら飲める”体質の人にとっては、お酒を飲むと口腔・咽頭・喉頭、食道、乳房でがんリスクが増すと言われれば、なるほどお酒の量を少し控えたほうがよさそうだ、とは思います。しかし、これを食べたらがんリスクが低下すると言われても正直ピンときません。効果があるとはいえ、それがいかほどのものかと思わないでもありません。

私の知人でがんになるのは嫌だと言って、食べ物には最新の注意を払っている人がいました。やれ野菜がいいだの、カロテノイドがいいだの、トマトはリコピンが多いのでがんを予防するだの騒いでいましたが、50代で肺がんが見つかりあっさり亡くなりました。そうした苦い経験があるせいかもしれません。

■「罪滅ぼし」は逆効果

後になって、ヘビースモーカーが野菜や果物に含まれるβカロチンを摂ると、逆に肺がんが増えるという研究結果が報告されました。日々の食べ物ががん予防に大切なのはよくわかります。そのための研究が進められているのも理解しています。しかし、がんになりやすい要因は「食べ物」以外にもさまざまなものがあります。

私は、リスク増が確定的あるいはほぼ確実な食べ物は避けたほうがよいと感じていますが、好きな食べ物を我慢してイライラするのも身体によくないと思うのです。ストレス解消のためにせめて食べ物くらいは好きなものを食べてもいいのではないでしょうか。

ただ気をつけていただきたいのは先述のように、例えばヘビースモーカーや大酒家、まったく運動をしない怠け者が、罪滅ぼしにβカロチンを多く摂ったりウコンを過剰に摂取したり極端な断食を行うといったことが、往々にして発がんを促進したり、逆に肝機能異常を起こしたり、体調を崩すことにつながったりするものです。悪いことやよくないことはまず避けて行わないことが肝要というのが私の意見であり外来患者にもそのように指導しています。

■「魚の焦げを食べるとがんになる」は本当なのか

魚の焦げを食べるとがんになるという通説がありますが、どこから出てきたのでしょうか? 今ほどがんの研究が進んでいなかった頃には、がんになるメカニズムについてはさまざまな考え方がありました。遺伝による先天的な迷芽説と素因説、それに後天的な刺激説です。

刺激説を唱える学者は、それを証明する一番手っ取り早い方法として発がん性が疑われる物質を使って人工的にがんを作れば、がんのメカニズムは証明されたも同然だと考えて研究にしのぎを削りました。

そんな中、世界で初めて発がん実験に成功したのは日本人です。1915年、東京帝国大学教授の山極勝三郎博士が当時学生だった市川厚一氏を助手に、ウサギの耳にコールタールを660日間にわたり塗り続け、皮膚がんを発生させました。

これで刺激説が証明されたと喜んだ山極博士でしたが、海外から高い評価を得たものの、国内ではその成果に対して正当な評価は得られず、疑問の声が続出。「癌か贋かはた頑か」などと批判されたそうです。というのもタールの中のどの物質が発がん物質であるか明らかにできなかったからです。

■確かに実験では発がん性を示したが…

日本ではその後も発がん実験が続けられ、1932年には佐々木研究所の佐々木隆興博士、東大医学部病理の教授であった吉田富三博士がアゾ色素を使ってラットに人工肝臓がんを作りました。

一石英一郎『親子で考える「がん」予習ノート』(角川新書)
一石英一郎『親子で考える「がん」予習ノート』(角川新書)

その後、国立がんセンター名誉総長の杉村隆博士が世界で初めてラットに人工的に胃がんを発生させることに成功。さらに杉村博士は魚の焦げた部分から発がん物質を固定、その発がん物質からできたがんは遺伝子変異を起こしていたことを証明しました。

杉村博士が固定したのは魚や肉などのおこげに含まれるヘテロサイクリックアミンと呼ばれる物質でした。タンパク質やアミノ酸を高温で焼くときに生じ、体内に入って代謝されると発がん性を示しました。

ただし、これは実験での話です。一般の人が普通の食事をしていて「魚や肉などのおこげを食べるとがんになる」というのは正しくありません。なぜなら、ラットに与えた量は人間に換算すると毎日毎日、茶碗数杯分のおこげを年単位で食べ続けた場合であって、自然な状態ではないからです。つまり、おこげががんを誘引する可能性はあっても、普通に生活していておこげを食べてガンになることは現実的には考えられないのです。

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一石 英一郎(いちいし・えいいちろう)
国際医療福祉大学病院内科学・予防医学センター教授
医学博士。1965年、兵庫県生まれ。京都府立医科大学卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻修了。アメリカがん学会(AACR)の正会員(Active Member)。DNAチップ技術を世界でほぼ初めて臨床医学に応用し、論文を発表した。人工透析患者の血液の遺伝子レベルでの評価法を開発し、国際特許を取得。著書に『日本人の遺伝子』(角川新書)など

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(国際医療福祉大学病院内科学・予防医学センター教授 一石 英一郎)

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