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「新型コロナ特措法」すら政局に利用する安倍政権の苦しさ

プレジデントオンライン / 2020年3月10日 18時15分

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、会談に臨む安倍晋三首相(左から3人目)、公明党の山口那津男代表(右から3人目)、社民党の福島瑞穂党首(左から2人目)ら=2020年3月4日、国会内 - 写真=時事通信フォト

新型コロナウイルスの感染拡大に備えた特別措置法の改正案を巡り、安倍晋三首相が立憲民主党など野党党首に協力を呼びかけている。超党派の話し合いの枠組みができたようにも見えるが、実態は権力闘争の色彩が濃い。国民の健康が危機に瀕するなかで、繰り広げられた「政局劇」とは――。

■熊本地震以来、「4年ぶりの党首会談」だったが……

与野党の党首会談は3月4日夕、国会内で枝野氏、国民民主党の玉木雄一郎代表、共産党の志位和夫委員長、日本維新の会の片山虎之助共同代表、社民党の福島瑞穂党首の順で、それぞれ20分程度行われた。

与野党の党首会談は2016年4月、熊本地震の対応を話し合った時以来、4年ぶりだ。かつては国会や政策決定の節目で与野党の党首会談が行われてきたが、最近は回数はめっきり減っている。国会の中では「安倍1強」が進み、与野党で協調して議論を醸成しようという空気が乏しくなっていることの証左ともいえる。

会談は安倍氏が各党首に「ここ1、2週間が、感染が急速に拡大するのか、終息するのか、その瀬戸際だ。その中で最悪の事態も想定しながら、緊急事態宣言など、もう一段の法的枠組みの整備が必要であると判断し、その協力をお願いしたい。1日も早く、法案の成立をさせなければいけません。協力をお願いしたい」と呼び掛けた。

枝野氏は「協力は惜しまないが、現行法で対応できる」、玉木氏は「スピード感が必要なので最低限の特措法なら協力する」などと応じた。

■なぜ4年ぶりの党首会談となったのか「2つの疑問」

安倍氏がこのタイミングで党首会談を呼びかけた大義名分は、新型コロナに対応するための特別措置法の早期成立へ向け協力を求めることにある。特措法が成立させることで、新型コロナ対応のために緊急事態宣言を出すことも念頭に置く。

ただ、それでなぜ4年ぶりの党首会談となったのか。疑問が2つある。

まず、新しい特措法をつくる必要があるのか、という問題だ。実は、政府が成立を目指している特措法の概要は、既に存在する新型インフルエンザ等特措法の内容とほぼ同じだ。だから枝野氏などは、現行法を新型コロナに適用できると訴えている。

これに対し安倍氏は、現行法は「新感染症」が対象となっており、「(新型コロナは)原因となる病原体が特定されているので現行法に適用するのは困難」と説明、あくまで新しい法律が必要だと語っている。

■現行法の解釈変更は得意技なのに、なぜ今回は新法なのか

どちらが正しいかは置いておくとして、この論争が、極めて奇妙なものであることに気づいた人がいるかもしれない。

新しい事態が発生した時に「現行法を適用するか、新法を作るか」という議論が起きることは政治の世界では、しばしばある。しかし、ほぼ例外なく政府・与党が現行法を適用しようとし、野党側は現行法での適用は困難だという展開になる。政府・与党は一刻も早く政策を遂行しようとし、野党はそれを阻止するために、新しい法案を準備させて時間を稼ごうとするのだ。しかし今回は、その逆の展開になっている。

現行法や憲法の解釈を変更してまで、自らの思いを達成させようとしているという批判を受けることが多い安倍政権が、なぜ今回は新法に走るのか。

■もう1つの疑問「らしくない」安倍政権への協力要請

もう1つの疑問は、なぜ野党の協力を求めるのか、という問題だ。安倍政権は7年を超える長期政権になり、数の上でも衆参で多数を誇る。特に野党の協力を求める必要はない。

実際、与野党が対立する法案がある時、安倍政権は野党側の主張に耳を傾けて歩み寄ったり、熟議を尽くしたりする努力を怠ってきた。特定秘密保護法、安保法制など多くの法案は、野党側から「強行採決」との批判を受けながら不正常な形で行われてきた。

自分たちの信じる政策を遂行するためには、現行法の解釈にこだわらず、野党の反論には耳を貸さずに突っ走ってきた傾向のある安倍政権が、今回に限って野党が不要と言っている新法を目ざし、党首会談で野党に協力を呼びかけた。実に不可解だ。

■「特措法」の狙いは野党の分断か

一部報道では現行の新型インフルエンザ等特措法が民主党政権時に制定されたものであるため、安倍政権がそれを利用するのを嫌ったという解説がなされている。そういう要素もあるかもしれないが、真相は「高度な政治判断が働いた」ということではないか。言い換えれば政府・自民党は、特措法を巡る党首会談を、政局に利用した可能性があるのだ。

新型コロナ対応で新法を作るために党首会談を呼びかける。野党党首たちが応じればそれでいい。仮に応じなければ「野党はこの国難の中で協力しようという姿勢がない」という印象を国民に宣伝することができる。また、野党の足並みが乱れれば、今後の国会運営を有利に進めることもできる。どちらに転んでも、政府・与党として不利にはならないという判断があったのは間違いない。

野党側も、党首会談に応じないという道もあった。しかし、応じなければ国民の批判が野党に向けられるのは間違いない。そこを警戒して会談に応じた。

ただし、野党間の足並みは乱れ始めている。国民民主党の玉木雄一郎代表は、他党に先がけて安倍氏との電話会談に応じている。枝野氏は、現行法で対応できるので新法は不要との立場。共産、社民の両党は反対することになりそうだ。野党の間にくさびを打ち込んだことは、安倍政権にとって好ましい展開といえる。

■失地回復のパフォーマンスもしわ寄せは国民に

安倍政権は新型コロナ対応の初動に遅れ、国民からの厳しい目にさらされている。失地回復のために、根回しもないままに、小中高校などの全国一斉休校の要請や、中国、韓国からの入国制限の発表を行っていて、そのことにも批判が集まる。

そこで特措法を持ち出して野党を土俵に上げ、政府・与党の正当性を強調しようと考えているのではないか。

政治は権力闘争と密接不可分ではある。とはいえ、今回の新型コロナ対応問題は、国民の生命、安全に関わる話。もしパフォーマンスによって国民の健康が危機にさらされるとしたら聞き捨てならない話だ。

特措法は13日にも成立する方向となっている。しかし現行法を適用すれば、既に対策を講じることもできた。党利党略のために数日間の空白が生まれたと考えればこれは、背信と言われかねない。

(永田町コンフィデンシャル)

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