あなたvs感染症「アルコール消毒15秒で菌が1000分の1に」
プレジデントオンライン / 2020年3月13日 9時15分
■防ぐべきは飛沫、接触感染
これを記している2020年1月末現在、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が心配されている。政府は今回の新型をSARSとMERSと同様の「2類感染症相当」とみなした。
呼吸器専門医で、新著に『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理』(日経BP社)がある大谷義夫医師(池袋大谷クリニック)は、こう話す。
「SARSの致死率が約10%、MERSは約34%。今回の新型肺炎の致死率は今のところ数%ですが、未知のウイルスであることからもインフルエンザよりは怖い可能性がある。しかし感染経路から、手洗い、うがい、そしてマスクも正しく使えば有効になります」
新型肺炎ばかりに気を取られがちだが、インフルエンザ流行シーズンでもあり、正しい感染症対策を行いたい。
インフルエンザを含めた風邪、医学的には「上気道炎」(鼻や口に近い、上気道で炎症を起こしている状態)を起こすウイルスや細菌は200種類以上あるとされる。原因となる病原体は約9割がウイルスで、残り1割が細菌。溶連菌感染症などの細菌による感染症には抗生物質が効くが、コロナウイルスを含めたほとんどのウイルス感染には根本的な治療法はない。炎症が上気道を通り越して気管支に広がると「気管支炎」に、それが肺に到達して悪化すると「肺炎」になる。治すのも、予防するのも自分の免疫力や生活習慣が物を言うのだ。
風邪もインフルエンザも、新型肺炎も、何より「ウイルスに感染しない」ことが大切。そのためにどうすればよいか。ここが重要なのだが、ほとんどのウイルスは「空気感染」をしない。咳やくしゃみによってウイルスが飛び散る「飛沫感染」や、ウイルスの付いたドアノブなどを触ることによる「接触感染」が主流だ。よって、この2つを遮断することが対策の要になる。
■アルコール消毒15秒で菌が1000分の1に
手に付いたウイルスを落とすには「手洗い」が重要。電車のつり革やドアノブなどに付いたウイルスがどのくらい生存しているか、ご存じだろうか。
東京医科歯科大学医学部附属病院の貫井陽子医師によると、「インフルエンザウイルスは最長で2日間」という。
「たとえばインフルエンザウイルスに感染した人がドアノブを触れば、丸2日間もそこに生きたウイルスが付いている。誰かが触って、周りの物に触れれば、どんどん広がっていく。だからこそこまめな手洗いを」
だが「石鹸+流水」では30秒手を洗っても、手指に付く細菌量が「100分の1」になる程度。大抵の人は30秒も手を洗っていられないだろう。効率がいいのはアルコール性手指消毒薬だ。
「手をアルコールで15秒間、消毒すると“1000分の1”まで菌が減ります。15秒なら歩きながら手をこすっていれば時間が経ちますよね。ただしウイルスの性質が異なるので、嘔吐や下痢の症状がある人に触れたときには石鹸+流水が必要です」(貫井医師)
アルコール製剤はどんな市販品でもいい。丁寧に拭くならウエットティッシュでもOKという。
続いてうがい。うがいはしないよりも、したほうが確実に感染症対策になる。ヨード液と水うがいで比較するなら、水で十分だ。また緑茶を用いたうがいについては、インフルエンザの予防効果に対する報告がある。静岡県立大学の山田浩教授が、65歳以上の老人ホーム入所者を対象にうがいに緑茶カテキンを使った群(市販のペットボトル緑茶の半分のカテキン濃度)と、水でうがいをした群を比較すると緑茶でうがいのほうがインフルエンザの発症率が明らかに低かった。カテキンの抗菌・抗ウイルス作用が働いたと考えられる。
大谷医師は「15分に1回程度、ごく少量の緑茶を飲む習慣がある」という。緑茶うがいはのどのウイルスを外に出すという方法だが、緑茶を飲んでしまえば、のどのウイルスが胃に入って胃液で死ぬ。のどを湿らせることで、のどから肺に至る気道の内壁を覆う「線毛」の働きもよくなり、細菌やウイルスなどの異物を体外に排出しやすくなる。流行シーズンは緑茶でうがいか、緑茶を飲むと覚えたい。
■マスクは性能より使い方
さらにマスクの話。巷にはウイルスカットを掲げた商品があふれるが、意外にも多くの研究でインフルエンザに対するマスク単独での効果は認められていない。WHOのガイドラインでもマスクの日常的な使用を勧めていない。
「マスクは本来予防というより、咳などの症状を持つ人がほかの人に移さないためにつけるもの。インフルエンザの家庭内感染を調べた研究では、マスク着用群の感染率が約16%で、マスクをしない群が15%。ただし、マスクを着用してかつ手洗いをすれば、インフルエンザの発症率を35~51%に減らせる報告があります」(貫井医師)
感染者が咳をしてしぶきが飛んだとき、近くにいた人がマスクをしていればその表面に付着するので、感染者と非感染者のお互いがマスクをすれば感染防止になる可能性が高い。
最も大切なのはマスクのつけ方で、鼻が出ているような状態はもちろん×。そしてマスクのつけ外しは、ガーゼの部分ではなくゴム紐の部分を持つこと。
「多くの人がマスクを正しく使えていません。マスクをつける前、また食事時などにマスクを外した後は手を洗いましょう。19年末に海外から出た論文で、高機能マスクのほうがインフルエンザ感染率が高いという報告がありました。マスクの性能を高めるより、市販の使い捨てマスクを一日数回交換したほうが予防に有効だと考えます。なぜならマスクの表面にはウイルスがたくさん付いていますから、うっかり触れて感染してしまう可能性が高い。マスクの再利用はNGです」(大谷医師)
最後に特別に注意を要する人として、肥満者がインフルエンザに感染すると重症化しやすいという報告がある。肥満による慢性炎症が関係しているとみられる。平成横浜病院の東丸貴信医師は「持病のある高齢者、低栄養の人」にも注意を呼びかける。
「実際に新型肺炎にかかった人の約3割近くが高血圧や糖尿病、心臓血管病といった持病があったことが、つい先日、ランセットに論文報告されました」
大谷医師は「年を取るほど日光を浴びることを心がけるとよい」という。ビタミンDの血中濃度が保たれると、呼吸器感染症やインフルエンザ発症を抑えられるという確かな裏付けがある。ビタミンDの生成には日光が不可欠だ。
睡眠時間と風邪発症の関係を調べた研究報告には、5時間以下の睡眠の人は7時間睡眠に比べて4.5倍も風邪を発症しやすいとある。睡眠と栄養を十分に取り、日光をしっかり浴び、新型も“旧式”ウイルスも撃退しよう。
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ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)など。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子 写真=PIXTA)
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