どうすれば、圧倒的な新サービスをつくる「アイデアマン」になれるのか
プレジデントオンライン / 2020年3月19日 11時15分
■行きたくなかった、100万円のツアー
実家は、「いせや」という名の石材屋だった。大正時代の創業だが、父が営業、母が経理を務める小所帯で、会社や組織と呼べるほどのものではなかった。子供のとき、「お父さんの仕事は何?」と聞かれたので、「石屋だよ」と答えると、「お墓屋さんね」と言われた。蔑(さげす)まれたと勘違いし、ショックを受けたが、今は霊園や墓にかかわるこの仕事に誇りを持っているし、愛してもいる。
大学生になると、父が体調を崩した。家業の手伝いを始めて1年が経ったころ、父は他界してしまった。まだ22歳だった私は、自分なりに見聞きして、営業のスタイルを作っていくほかなかった。そんな中、墓石だけでなく墓地も売るようになる。大手霊園が墓地の売り手となる石材店を募集していたので、その流れに乗った。
時は過ぎ、38歳になった私に大きな転機が訪れる。ヨーロッパの墓地を視察するツアーに誘われたのだ。当時の私には、時間的にも経済的にも余裕がなかった。参加費100万円以上と聞いて、本心では行きたくなかった。しかし、父の代からお世話になっている方からの誘いだったため、断わりきれなかった。泣く泣く参加したこのツアーが、私の運命を変える。
■なんて、美しい霊園なんだ
欧州視察ツアーでは、まず、イタリア・ローマに入った。世界的彫刻家・ミケランジェロの国だけあって、彫刻を施した墓石に衝撃を受けた。墓石というより芸術品だ。そのときに撮影した写真を眺めると、今でもうっとりしてしまう。自分が売っている墓石とレベルが違いすぎて、無力感だけが募った。
「高いお金を払って自信を失うなんて。来なきゃよかった」と落胆して、スイスに移動した。スイスの墓石は、シンプルだった。御影石の土台に、長方形のプレートを被せた墓石は、パッと見は日本のものと変わらなかったが、得も言われぬ上品さをまとっていた。
墓地全体の雰囲気も、日本とはまるで違う。緑が多く、まるで公園のようだった。イタリアでは打ちのめされたが、スイスでは「これなら私にも作れるかもしれない」と心が躍った。日本で、この美しい霊園を再現するイメージがすぐに浮かんだ。
■誰ともイメージを共有できない
帰国して、石材組合の人たちに「スイスの霊園が公園のように美しかった。一緒に作りましょう」と話すと、「ムリムリ」と取り合ってもらえなかった。というのも、日本の霊園では、植栽しないのが常識だったからだ。理由は管理が大変になるから。草が生えると除草にコストがかかるため、コンクリートで固めたり、砂利を敷いたりする。それでも雑草の勢いは止められず、多くの霊園がうっそうとしていて、「霊園=暗い」というイメージが定着していた。
結局、美しい霊園の実現に向けて、私一人で動くこととなった。霊園そのものをつくるノウハウもガーデンニングの経験もなかった。あるのは、イメージだけだった。
■美しいが、何かが足りない
スイスの霊園を目標に動き出したが、何かが足りないと感じていた。しばらくして、それが「花」だと気づいた。お墓参りに来られる方の多くは、花を手向けて帰られる。しかし、花はすぐに枯れてしまう。いっそのこと、霊園自体にいつも美しい花が咲いていたらどうだろうか。ご家族もうれしいだろうし、眠る人をいつも癒やしてくれるに違いない。花を植えるなら、バラがいい。清楚(せいそ)であでやかで華やぎもあるからだ。
欧州視察から9年を経て、千葉県佐倉市にイメージ通りの霊園「佐倉ふれあいパーク」をオープンさせた。花が咲き乱れるガーデニング霊園として、話題になり、花柄やローマ字書きの名前が彫刻された墓石も評判で、とにかくよく売れた。背伸びして投資した10億円は、わずか3年で回収でき、銀行が驚いた。
■全員が反対した、霊園での葬儀
もう1つ、私が霊園に持ち込んだものがある。それは、葬儀だ。葬儀は、自宅か葬儀屋で行うのが常識で、霊園で行うことはなかったのだ。ある日、私が「霊園で葬儀をやってみたらどうだろう」と、幹部が集まる会で提案した。幹部社員らは「霊園で葬儀や法要をやる人なんかいない」という常識に縛られていて、全員が反対した。おまけに銀行も反対した。「それは本業じゃない」と。
四面楚歌ではあったが、葬儀のサービスを始めてみると、瞬く間に予約で埋まった。草花があふれる花葬儀をメインにしたのだ。お客様が知っている葬儀とは美しさのレベルがまるで違っている。既存のお客様に葬儀をご案内したら、オープンして少しの間に2000人が見学に来られた。世の中にない新しい感性の葬儀だから、「すごくいい雰囲気ですね」と多くのお客様が言ってくださった。
■どうすれば、面白いアイデアが浮かぶのか
どうすれば、そんな面白いアイデアが浮かぶのか――。そう聞かれることがある。強いて言えば、私の場合、アイデアが浮かびやすい要因がいくつかあると思う。
1つは、知人や友人、妻から多くの影響を受けている。私の性格なのかもしれないが、わかったふりはしない。わからないときはわからないと言い、もっと知りたくなったら、何度でも人に会いに行き、教えてもらう。たとえば、妻は花の知識、それを使うセンスに長けている。彼女のアレンジメントを見るたび、私のなかで何かが生まれてくる。1つは、美しいものをたくさん見ること。たとえば、オペラを観に行くと「この美しい演出をお通夜に応用したらお客様はどう感じてくださるか」と考える。いずれにしても、何をしているときでも、仕事と結び付けて考えている。経営者の皆様は同じ感覚を持っていると思うが、私の中には「仕事の時間」「遊び時間」という区別がまるでない。何をしていても、根底ではいつも仕事のこと、もっと言えば、お客様のことを考えている。
また、インスピレーションを受けたら、必ず試すことにしている。幾度となく結婚式に出させてもらったが、いつも気持ちが動く。結婚式には、出席者を感動させる演出が数々あるのに、なぜ葬儀にはないのか。結婚式の演出の1つに、照明のコントロールがある。また、高いグレードのお花を使ったディスプレーがある。それらを葬儀に取り入れてみたらどうなるか、と考えた。すぐに実行に移すと、ご遺族が非常に喜んでくださった。
■オリジナルに、自分の感性を加える
「世の中のすべては模倣だ」と言われる。たしかに、ビジネスアイデアをゼロから創造できる人など、そうはいない。しかし、ビジネスアイデアを丸ごとパクるのは無理だと思っている。私がつくったガーデンニング霊園を、何社もパクろうとしたが、本質的なところをパクれた霊園は、これまでに1つもなかった。なぜか。
ガーデニング霊園も、霊園での葬儀も、元からあった商品・サービスに、私がこれまで見聞きしてきたものを組み合わせたものだが、いずれも私の感性が入っているからだ。ビジネスパーソンはもっと「自分の感性」を信じ、大切にしたほうがいいと思う。美しいと思えないものを「美しい」と言う必要はない。そこの一線をかんたんに譲ってしまう人とは、私は仕事をしたくない。
そうやって、自分の感性を追求する性質だから、私は儲けるのがうまくない。ロボットをフル活用した回転寿司のようなビジネスモデルが効率的とわかっていても、自分で握る鮨屋しかできないのだ。70歳を超えたが、自分の感性が業界の常識とは違う方向に働いているうちは、まだまだやれると思っている。
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ココ・プランニング会長
1947年、生まれ。青山学院大学卒業。大学在学中に父親他界、以来家業の石材店(現・株式会社いせや)を約50年間経営。1995年、日本に初のガーデニング霊園「佐倉ふれあいパーク」を開園。2015年に後継者にいせやを譲り、新たにココ・プランニングを開設し、寺院ならびに霊園のリニューアル化の仕事を主として展開中。日本全国にガーデニング霊園を開設(またはコンサルティング)しているほか、中国の各地にもガーデニングの指導(コンサルティング)を行っている。
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(ココ・プランニング会長 中本 隆久 構成=荒川 龍 写真=小川 聡)
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