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エコノミストが「コロナショックはリーマンショックより厄介」と考える理由

プレジデントオンライン / 2020年3月12日 15時15分

2008年9月15日のリーマン・ブラザーズ、ニューヨーク本社。この経営破綻を発端に、連鎖的に世界規模の金融危機が起きた - 写真=EPA/時事通信フォト

■パンデミックを前に対応が後手に回る各国政府

新型コロナウイルスの大規模な流行を受けて、世界経済への悪影響が深刻化している。当初は感染の拡大が見られなかった欧米でもコロナウイルスの感染者が急増しており、米ジョンズ・ホプキンス大学がリアルタイムに公表している特設サイトによれば、日本時間3月11日正午時点で世界の感染者数は11万8000人を超えたようだ。

今後も感染者数の増加は続くと見込まれる。各国で検査体制が整えば、それだけ感染者数の発見が進むと考えられるからである。またこれまでの世界的な流行の経緯を振り返ると、局所的なホットスポットがあるにせよ、かなり前から新型コロナウイルスは世界的に拡散していたと考える方が自然な見方ではないだろうか。

感染が発覚した11万人程度のうち死者は4000人程度、それもその多くが発症元とされる中国の武漢での惨事である。中国の場合、地方都市では医療へのアクセスがいまだ悪く、気がついた頃には重篤化していた事例が多いようだ。言い換えれば、新型コロナウイルスは、発症しても適切な対処療法が行われれば十分に完治が見込めるということだろう。

それに新型コロナウイルスの予防対策も、従来のインフルエンザなどと同様に、手洗いの徹底などオーソドックスなものであるようだ。適切に対処できていればそれほど恐れる必要はなさそうだが、近年まれに見るウイルス感染症の世界的流行(パンデミック)を目の前に、各国とも対応が後手に回ってしまっているというのが実情と言えよう。

■国土の全面封鎖でイタリア景気は腰折れ

筆者が専門的にウオッチしている欧州の場合、代表的なホットスポットは北イタリアとなる。感染者はすでに1万人を超えており、残念ながら600人以上の死者が出ている模様だ。連立与党の一翼を担う民主党のジンガレッリ党首も新型コロナウイルスに感染したようだが、幸いなことに容態は安定しており、自宅静養に努めているそうだ。

イタリア政府は3月8日、コロナウイルスの封じ込め対策として商業都市ミラノを含むロンバルディア州や世界的な観光都市ベネツィアをはじめとする14県を封鎖した。さらに10日には、封鎖の対象をイタリア全土に拡大する措置に踏み切った。イタリア経済は実質的に機能不全に陥り、景気は腰折れを余儀なくされた模様だ。

もともとイタリア経済は、北部の製造業が米中貿易摩擦にともなう世界景気の減速や自動車産業の不調を受けて低調であり、最新19年10~12月期の実質GDPが前期比0.4%減とほかのEU諸国と比べても景気停滞が顕著だった。それに今回のコロナウイルス流行による悪影響が加わり、1~3月期の成長率は記録的なマイナス成長になると予想される。

こうした状況を受けて、イタリア政府による財政拡張観測もくすぶりはじめた。今財政を拡張したところで、経済の中心である北イタリアの経済が動かなければ望ましい効果など得られないだろうが、生活費の補償なども不可欠である。欧州連合(EU)の執行部である欧州委員会も、理由が理由なだけにイタリアの財政赤字拡大を容認する方向だ。

■ヒトとモノが回らなくなった経済危機

新型コロナウイルスの流行が経済に与える悪影響を2008年秋に生じた米投資銀行大手リーマンブラザーズの経営破綻にともなう世界的な金融危機となぞらえる向きもあるが、あの危機はカネが回らないことにによる現象であった。しかし今回の場合は、イタリアのケースが端的に物語るように、ヒトとモノが回らなくなった経済危機と言えよう。

そのため、金融緩和や財政拡張でカネ回りを良くしても、ヒトとモノが動かない限り経済が息を吹き返すことが見込みにくい。米国の中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が3月に政策金利であるFFレートを0.5%も引き下げ、金融緩和を強化したものの相場が好転しなかったことは、ある意味当然だったと言える。

新型コロナウイルスのパンデミックという非常時の危機管理を行う上で、ヒトとモノの流れをある程度制限することは致し方がないことだろう。とはいえ、それで経済活動そのものがクラッシュしてしまえば元も子もない。収束の時期が見えないことは確かであるが、言い換えればコロナウイルスの存在を前提に経済を回す必要もあるのではないか。

最も重要なことは正確な情報の提供だろう。日本ではトイレットペーパーがなくなったように、ドイツではパスタがパニック買いの対象になった。緊急事態に直面した人々は、世の東西を問わず根も葉もない情報に踊らされがちである。各国政府や企業、それに報道機関は正しい情報提供に努め、そうした人々の不安心理を和らげる必要がある。

■求められる徹底的な検証

なお欧州でもパニック買いが生じたという事実は、欧州経済を専門に見てきた筆者にとってもある意味で新鮮に映った。今回の新型コロナウイルスの流行のような経験を欧州があまり経験してこなかったことの証左と言えるだろう。またドイツ人は合理的であり冷静沈着であるというイメージを持つ人々にとっても、衝撃的だったかもしれない。

日々情勢は変わるが、小中学校の閉鎖や国境をまたぐ移動の制限などの諸政策がどの程度の医療的メリットをもたらし、一方で経済的デメリットをもたらしているのかという分析も、可能な限り同時進行で進めていく必要があるのではないか。さしたる医療的メリットがなく経済的デメリットが顕著となった対応策もあると考えられる。

たとえばイベント自粛の要請を考えると、閉鎖的な屋内でのイベントは中止でも、開放的な屋外でのイベントは継続しても良いのかもしれない。観光施設についても同様のことが言えるのではないか、そうしたことを検証すべきなのだろう。一律に自粛を要請するようでは、それこそマインドがいたずらに悪化し、景気の命取りとなる。

■株安と円高に歯止めをかける条件

それに、今生じている世界的な株価の暴落や円高は、世界経済の停滞がいつまで続くか分からないことへの不安を反映した現象だ。逆を言えば、世界経済が再び回りはじめそうだという認識が広がってはじめて、株安と円高に歯止めがかかる。金融市場の動揺を鎮めるためにも、過度な行動制限を見直し経済への負荷を解いていく必要があるのではないか。

医療面と経済面のバランスをどうとるかは難しい話だが、後者も重視しなければ、われわれの日々の生活が回らなくなってしまう。今回のコロナウイルスの流行は、総合的な便益(ベネフィット)と費用(コスト)の観点から、今後も生じる世界規模での感染症予防対策のあり方を考える良いきっかけかもしれない。

世界経済が持続的に成長するうえでは、ヒトモノカネの自由な移動は不可欠である。感染症のパンデミックが意識されても、それらの流れを完全にシャットアウトすることなどできない。新型コロナウイルスの流行もいつかは収束し、経済も平常運転を取り戻す。根拠なき楽観と同様に、過度な悲観もまた禁物ではないだろうか。

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 研究員 土田 陽介)

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