コロナ休校で、ゲームとYouTube漬けになりそうな子どもをどうするか
プレジデントオンライン / 2020年3月16日 11時15分
■時間割を作っていませんか?
「長期の休み」「塾も習い事も休み」「子どもたちが家で過ごす時間が長い」となると、多くの親御さんは、1日をどう過ごすかをきっちり決めた、時間割を作っているんじゃないでしょうか? その発想の背景には、そうしないと危険な行動をしてしまうのではないか、ゲームやYouTube漬けのだらだらした時間を過ごすのではないか、という不安があると思います。
ただ、せっかくの機会ですから、視点を変えてみませんか?
親が子どもに望むのは、「将来、自立した大人になってほしい」ということでしょう。そして、そのための最大の障壁は「自己管理」です。大人であっても簡単なことではありません。やるべきことを後回しにしてなまけたり、誘惑に負けてだらだら過ごしてしまうことは多い。自己管理能力を磨くことは、人生の重要なテーマです。そしてそれは、子ども時代から始まっています。
■管理型教育では子どもは自立しない
自己管理能力は、時間割で縛るような「管理型教育」では身に付きません。
そもそも、「管理的な関わり方をしないと、子どもは自己管理できない」という発想は、子どもというのを危なっかしく、信用できない、未熟な存在とみなしているから生まれます。
でも、職場で部下を育成するときと同じで、あれこれ指図し、管理していては、本人のモチベーションはまったく上がりませんし、何より、指示待ち人間を育ててしまうことになります。
■なぜ親は「時間割」を作ってしまうのか
自己管理能力を育てるのは、「放牧型教育」です。転んだりつまずいたり、失敗を乗り越えて、子ども自らが力を獲得していく。子どもを信用し、尊重するからこそ放牧型を選ぶことができます。
そして、21世紀に求められる力を身に付けるうえで必要なのは、放牧型教育です。20世紀は管理型教育が主流でした。「子どもは何も知らない、空っぽのコップのような存在だから、そこに水をそそぐように知識を与えるべき」というのが、20世紀型の詰め込み教育です。子ども自身が自由に興味、関心を持ったことを自ら学びとる、21世紀の放牧型とは対極にあります。
そう聞くと、「21世紀型の放牧型教育がいいな」となるでしょう? みなさん薄々、管理型には限界がきていると気付いていて、放牧型に向かいたいと思っているはずです。でも、自分がそういう教育を受けてこなかったので、どうしていいかわからないし、「本当にうちの子はそれで学んでくれるんだろうか?」と不安になる。それで時間割を作ってしまうわけです。
■「放牧型」は「完全なる自由」ではない
確かに、完全な放牧型で大丈夫な子と、そうでない子はいます。比較的生真面目な子であれば、放牧型でも自己管理能力を身に付けられるでしょうが、自由奔放タイプの子だと、「やったー!」とゲーム三昧になるでしょうね。
ただ、放牧型というのは、完全なる自由を意味しているわけではありません。対話が必要です。
「今日はどうだった?」
「どういうところがいいカンジだった?」
「どこが残念な感じだった?」
「残念だったところをなくしていくには、どうしたらいいんだろうね?」
「じゃあ、明日はそういう工夫をしながらやってみようか」
などと、じっくり話をして、子どもの気付きを促すのです。親の方も忍耐が必要です。
■「マスト」意外はすべて「ベター」と考える
対話に加えてもう1つ重要なのが、「must(マスト)」と「better(ベター)」の視点を持つことです。マストの方は「しなくてはならないこと」、ベターは「できたらいいな、ということ」です。
まずは親自身が、自分に「子どもにとって、何がマストで何がベターなのか?」と問うてみてください。例えば、身の危険につながる「包丁を使わない」「火を使わない」「一人で夜出歩かない」などはマストでしょう。ほかにはどんなことがマストなのか。
そして、マストを定めたら、それ以外は全部ベターです。例えば、「朝、○時に起きる」というのは「起きなくてはならない」というマストではなく、「起きられたらいいね」というベターでいいのかもしれません。時間割は、「この通りにせよ。ここに書かれたすべてがマストだ」と言っているわけなので、マストだらけ。そこからできるだけマストを減らすのです。
■最初はマストを多めにしても良し
ただ、心配性な親御さんだったり、自由奔放でちょっといいかげんなタイプの子どもであれば、最初はマストを多めにしてもよいと思います。そのほうが、親御さんの心の平和のためにも良いでしょう。例えば、一日中時間割通りに過ごすのではなく、午前中だけ時間割を作ることにしてもいいでしょう。子どもと対話しながら、少しずつマストを減らしてベターを増やします。
どこまでをマストにして、どこからをベターにするかは、子どもによって違います。
例えばわが家の場合、現在小4の長男はとてもしっかりしていて、小2の時から弟や妹のめんどうを見ながらの留守番ができました。とても安心感があり、信頼できます。彼については、マストはほとんどなくていい。
しかし、現在小2の2番目の娘は全然違います。とても留守番はさせられそうにありません。ずっとYouTubeを見ているでしょう(笑)。それに、そもそも留守番を頼んでも「ムリー!」と言いそう。彼女は長男よりもマスト多めです。
子どもによって違うとはいえ、できるだけマストを少なくしてベターを増やしていくことが目標であることに変わりはありません。やがて子どもたちは、親の元を巣立ちます。誰もマストやベターを決めてくれなくなり、自己管理をしなくてはならなくなる。突然の長期休校という「ピンチ」を、こうした視点を持って、自己管理能力を高めるための「チャンス」に変えるのです。
■テレビやゲーム三昧の子どもをどうすればいいのか
大枠の考え方は「放牧型」で、マストとベターの視点を持ち、子どもと対話しながら決めていけばいい。とはいえ、「うちの子は、マストのことをやる時間以外は、結局テレビやゲームで過ごしそう」「実際、そうなっている」と、頭を抱えている親御さんもいるでしょう。
なぜ子どもたちはゲームやテレビが好きなのか? 子どもたちは、「楽しいか、退屈か」という軸にしか反応しないからです。この軸で、すべての行動を決めています。
一方、親の判断軸は、「正しいか、悪いか」。グラフの4象限で表すと、ゲームやテレビは左上の「楽しい」&「悪い」ゾーンですが、漢字練習や算数ドリルなどはおそらく右下の「退屈」&「正しい」ゾーン。子どもたちを「楽しい」&「悪い」ゾーンから「退屈」&「正しい」ゾーンに引きずり込むのはものすごく難しいのです(図表1)。
■親は「正しくて楽しいこと」をどれだけ知っているか
しかし親にも子どもにもハッピーなゾーンが1つだけあります。「楽しい」&「正しい」ゾーンです。子どもをここに誘い込むことは難しくありません。でも親の方が、ゲームでもテレビでも、漢字練習や計算ドリルでもない別のもの、「楽しい」&「正しい」ゾーンにあるものをどれだけ知っているでしょうか?
まずは親の方が発想の軸を変える必要があります。親はだいたい、グラフでいうと右下の「退屈」&「正しい」ゾーンしか視野に入っていません。発想を変え、右上の「楽しい」&「正しい」ゾーンにあるものを、調べ、発見し、学ぶのです。
実は、テレビや漫画、ゲーム、YouTubeも、全部が全部「悪い」わけではありません。視点を変えてみると、この中にも「楽しい」&「正しい」ゾーンにあるものはたくさんあります。それを紹介することはもちろん可能ですが、この休校期間を、そういうものを親が見つけ出して、子どもと体験する時間にしてみてほしいと思います。
「正しい」「悪い」の価値観は人によって違いますし、「楽しい」「退屈」も子どもによって違います。自分が「いいな」と思い、かつ子どもが「楽しい」と思うものを探究してみてください。それができたなら、この1カ月も「なんで『やっておきなさい』って言ったことができてないのっ⁉」と、ケンカを続けずに楽しく過ごせそうですよね。
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「探究学舎」代表
1981年東京生まれ。3兄弟の長男で、一風変わった家庭教育を実践する父のもと育つ。高校は中退し、大検を取得して京都大学に進学。弟2人も京都大学へ。父から受けた独特な家庭教育とそのノウハウを著した『強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話』(徳間書店)が後に話題となる。2011年「探究学舎」設立。プライベートでは5児の父で、自宅は必ず公園の近くにするというこだわりを持つ。
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(「探究学舎」代表 宝槻 泰伸 構成=大井 明子 撮影=プレジデントウーマン編集部)
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