「うちの子、国語ができない」と悩む親たちが知らないこと
プレジデントオンライン / 2020年3月24日 15時15分
■子供の国語力の基盤は、家庭内の会話
「うちの子、国語が苦手なんです。どうしたらいいですか?」
中学受験のカウンセリングで、国語の相談を受けることが多い。しかし、こうした漠然とした相談は、正直答えるのが難しい。
そこで、「どのような点でお困りですか?」と聞いてみると、「ちゃんと読みなさいって、言っているのに読まないんです!」と、とんちんかんな答えが返ってくる。こういう親は抽象的な問いが苦手なので、まずはこんな質問をしてみる。
「物語文と論説文のどちらが苦手なのですか?」
「記述問題と選択問題のどちらが苦手なのですか?」
「お子さんがちゃんと読んでいないことは、どんなことからわかりますか?」
こう問いかけると、ようやく本題に入れる。
中学受験の指導に関わるようになって40年以上。これまでたくさんの受験生の親から相談を受けてきた。そして、つくづく思うのは、「うちの子、国語が苦手なんです」と相談に来る親は、聞き下手か話し下手であることが多い。学生時代の成績はわからないけれど、自身が、自分の言語能力を伸ばそうとしていないんじゃないかと思うことが多々ある。
まず、「てにをは」ができていない。
「私 いつも 言っているんです」
「うちの子 ぜんぜん ダメなんです」
感情ばかりが先走り、「いつ」「誰が」「誰に」「何を」「どのように」のいくつもがすっぽり抜けている。こういう話し方をされると、困っている“核”を見つけるのに苦労する。また、同じことを何度もくり返して話す人も多い。では、どうしたら親の国語力は伸びるのだろうか。
■本棚を見ると、国語の実力がわかる
家庭教師として、これまでたくさんの家を訪問してきた。国語が得意か苦手かは、家の本棚を見るとおおよそ分かる。リビングの本棚に、科学、歴史、アートなどいろいろなジャンルの本が並んでいる家の子は、たいてい国語ができる。一方、リビングに本棚がなく、子供部屋の本棚に童話やライトノベルしか並んでいない家の子は、国語が苦手なことが多い。
よく「読書は好きなのに、国語の成績が上がらない」という相談を受ける。活字アレルギーではないのに、なぜ成績が伸びないのかと不思議に思う親は少なくない。確かに、本を読むことに慣れ親しんでいると、活字に対する拒否反応はないかもしれない。しかし、それと国語のテストで点が取れるかどうかは別問題だ。
■「読書好き」な子の盲点
本を読むのは好きだけれど、国語の成績がいまひとつという子は、ストーリーを追う読み方をしている。例えば、「ハリー・ポッター」シリーズが好きという子に多いのが、目まぐるしく変わる“出来事”だけを早く知りたがり、場面の情景や登場人物の心の変化を飛ばして読んでしまうこと。こういう読み方に慣れてしまうと、物語の内容が分かっているようで、細部に注意力が働かない。
ところが、テストや入試では、物語の場面情景や人物の心の機微が問われる。すると、ストーリーを追う読み方をしている子は、よく分からず、自分の気持ちに当てはめて答えたり、見当違いな答えを書いてしまったりする。
国語のテストとは、設問に対し答えるものだ。まず設問を綿密に読み、その後、例えば線が引かれているところについて質問されているのなら、線が引かれているその前後を綿密に読まなければならない。つまり、同じ文章を読むのでも、読み方が違うのだ。
■親が本を読まなければ、子供も読まない
誤解しないでいただきたいのは、読書をすることは意味がないと言っているわけではない。読書は、知らない世界を知ることができるし、言葉や表現を学ぶこともできる。ぜひ、子供にはたくさん本を読む機会を与えてほしい。そして、多くの親は、子供に本を読ませたいと思っているはずだ。
ところが、そう言っている親が、本を読んでいないということがある。よく「先生、おすすめの本は何ですか?」と聞かれることがある。小学生の子供にぜひ読んでほしいのが、『ウナギ 大回遊の謎』(PHP研究所)という本だ。日本ウナギの生態についてとても分かりやすく書かれていておもしろい。
こうやってすすめると、すぐに興味を持ってアマゾンで注文する家の子供は、成績が伸びやすい。聞いておきながら、親が興味関心を示さない家の子は、好奇心が育ちにくく、勉強でも伸び悩む。
子供を読書好きにさせたかったら、親が楽しそうに本を読むことだ。子供を勉強好きにさせたかったら、親が世の中に関心を持ち、さまざまなことに興味を持つことだ。子供は親の姿を見て育つ。親が楽しそうに取り組んでいるものに興味を持ち、それをやりたがる。子供に何かを望むのであれば、親自身が変わらなければならない。
■国語力は「家庭の中」で育まれる
子供に本を渡したら、その本について親子で会話をしてみよう。どこがおもしろいと思ったかを、親子で伝え合うのもいいだろう。わからないことがあったら、親子で一緒に考えてみるのもいい。
よく「うちの子、国語が苦手なんです」と相談にくる親は、「何をやらせればいいですか?」と聞いてくる。しかし、国語は、算数のようにたくさん問題を解いて身に付けていくものではないし、理科や社会のように知識を学び覚えるものでもない。なぜなら、国語力とは家庭で育まれていくものだからだ。
それは、親子喧嘩で使う言葉にも表れる。中学受験での親子喧嘩はどの家でも一度は経験することだろう。つい感情的になって叱ってしまうことは、誰にでもあるはずだ。
だが、同じ叱るにしても、国語力のある親とそうでない親とでは大きな差がつく。いつも同じ「売り言葉に買い言葉」で言い争っていては国語力は身につかない。こういう時は、こういう言い方をした方が相手に伝わるのではないか、いやこういう言い方の方が響くかもしれないといった工夫が大切なのだが、そのためには親がたくさんの言葉を繰り出す必要がある。
■言葉を使い分けられる親は、子供の心を動かせる
「やる気がないなら受験なんてやめちゃいなさい!」
「そんなんで、合格できると思っているの?」
相手にダメージを与えれば、変わると思っているかのような、いつものセリフ。でも、そう言われて、心を正す子などいるだろうか。「うるせぇ、ばばぁ」と、反抗するのがオチだろう。
親が時と場合に応じて言葉を使い分けていると、相手の心を動かすことができる瞬間が出現する。励まし上手な親の子は、いろいろな言葉や言い回しを使い分けている。
子供は親の言葉を吸収しながら、言葉を覚えていく。相手が子供だからといって、簡単な言葉ばかり投げていては、子供の国語力は育たない。親子の会話の中でも、ときどき難しい言葉を入れてみたり、慣用句やことわざを使ってみたりすると、子供は言葉を覚える。
幼い子供は、ときに間違った言葉を使ってしまうことがある。そんなときは、「ま、いいか」と流さずに、親は正しく教えてほしい。わが子に言葉を教えるのは、親なのだ。また、子供が新しい言葉を使ったら、ほめてあげてほしい。子供は使うことで言葉を覚えていく。
■「辞書で調べなさい」の落とし穴
分からない言葉があると、よく「辞書で調べなさい」と親は言う。けれども、子供にとっては辞書に書いてある言葉が分かりづらいこともある。なぜなら辞書は、抽象的な事柄を、別の抽象的な言葉を使って説明してあることが多いからだ。そういう場合は、親が子供にわかりやすい言葉で、似ている事柄を教えてあげるといいだろう。
子供の国語力を伸ばしたければ、「本読み」だけにこだわってはいけない。聞くことと話すことの質量が大切なのだ。上手に話せるようになった子は、少しの練習で上手に書けるようになる。
そして、「聞く」「話す」の練習の中心はどうしても家庭になる。親の言葉を聞いて語彙を増やし、親の言い回しをまねて、文章力を高めていくことを忘れないでほしい。
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プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。
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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
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