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なぜワークマンは顧客も従業員も幸せにするのか。なぜ買い物したくなるのか

プレジデントオンライン / 2020年3月19日 15時15分

■目玉が飛び出るワークマンの拡大劇

作業服のイメージがあった「ワークマン」が注目されています。国内の出店数ではユニクロの817店舗(2019年8月期)を上回り、837店舗(19年3月期)に拡大。ポストユニクロと呼ばれるほどの勢いです。業績も堅調で、直近の営業利益率はファーストリテイリングの11%を大きく上回る20%を達成する優良企業です。

ワークマンが属する国内ユニフォーム業界は、市場規模が縮小しており、その傾向は今後も続くと予想されます。経済産業省「工業統計調査(品目編)」における「織物製事務用・作業用・衛生用衣服」の出荷金額は、00年には1520億円ありましたが、17年では約半分に減少しています。そのような厳しい市場環境のなかでワークマンが増収増益に成功している理由は大きく3つあります。1つ目は商品開発力です。

ワークマンと言えば、かつて工事現場や農業用のワーキングウエアの販売をしているイメージが強かったですが、そのイメージに反してオシャレな商品を置いている意外性が着目されています。ワーキングウエアで培った品質・機能性を応用し、デザイン性も高いアウトドア・スポーツ用品、レインウエアを開発、そして低価格であるため、コストパフォーマンスが高いと評判なのです。例えば、「透湿レインスーツSTRETCH(4900円)」は、単なるレインウエアとしての機能だけではなく、ストレッチ性があり、スポーツシーンでも使えるカジュアルなデザインで45万着以上を売り上げています。

■フランチャイズは未経験の個人オーナーでも取り組みやすい

2つ目が、個人オーナーに対して魅力あるフランチャイズモデルを提示することによる拡大です。フランチャイズと言えば、まず、コンビニや飲食店を思い浮かべますが、アパレル業界において、フランチャイズを大規模に展開している企業はほぼありません。アパレル企業のワールドは、SHOO・LA・RUEというブランドをフランチャイズ展開していますが、メインターゲットは個人オーナーではなく法人企業。そんななか、ワークマンのフランチャイズは未経験の個人オーナーでも取り組みやすい設計となっています。

作業服・作業用品の「ワークマン」が展開するスポーツ・アウトドア専門店「WORKMAN Plus」。デザイン性が高い、色鮮やかな服が並ぶ。
作業服・作業用品の「ワークマン」が展開するスポーツ・アウトドア専門店「WORKMAN Plus」。デザイン性が高い、色鮮やかな服が並ぶ。(時事通信フォト=写真)

ワークマンとオーナーの契約タイプは店舗の売り上げに応じてAタイプ・Bタイプの2つに分かれています。

年間売上高が基準値の6300万円を超える店舗を運営する場合、Aタイプのフランチャイズ契約となります。報酬は荒利益分配方式という成果報酬型であり、粗利の60%を本部へ納め、残り40%を加盟店側が得ます。これを基にオーナー側はどれだけの収入が見込めるのか試算します。有価証券報告書に記載のAタイプの1店舗当たり平均売上高は約1億円となっており、ワークマン経営者募集ガイドに従いシミュレートすると、オーナー側収入は月額57万円稼ぐことができる計算です。最も売り上げが高い都道府県の店舗売り上げは約1億5500万円で、月113万円も収入が見込めます。

売上高が基準値を下回る店舗の加盟希望者はBタイプの契約となります。これはフランチャイズ契約の前段階として、加盟希望者は店舗売り上げにかかわらず固定報酬を得られます。このBタイプでは、低いリスクで店舗運営のノウハウを習得することができます。つまり、軌道に乗るまでの間、オーナー側は一定の収入が見込めるBタイプ契約をすることで、安心して店舗経営を行うことができるのです。開業資金も、セブン-イレブンなどのコンビニは250万円以上かかるのに対し、ワークマンはBタイプであれば150万円から申込金が低く抑えられています。

昨今、コンビニでは必要なアルバイトを確保できず、ブラックな職場となっていることが問題となっています。オーナー側にとっても労働環境は重要な問題となっていますが、ワークマンではホワイトなフランチャイズを目標として掲げています。店舗休日を年間で22日設け、正月元日の閉店、病気などで店舗運営ができない場合は本部社員による代行運営システムがあります。

■夫婦間での勤務時間の調整を可能

開店・閉店作業についても、最短5分で終わるように業務設計がなされており、ゆっくり出社し、仕事が終わったら直ちに退社できるよう工夫されています。さらに、加盟店オーナーになるための条件を厳しくすることで、店舗運営が安定する配慮がされています。店舗近隣に住んでいる者をオーナー募集することで通勤時間を短縮、夫婦経営を条件にすることで、夫婦間での勤務時間の調整を可能としています。

これらの加盟希望者に対して魅力的な条件を提示することで、店舗数を順調に増やし、高収益率を実現しているのです。ワークマンの店舗のうち、87%がフランチャイズ店となっています。総営業収入約670億円のうち、フランチャイズ店からの収入は約25%の172億円を占めます。フランチャイズ収入は直営店と比較してコスト負担が小さく、利益率が高いのです。

3つ目が、独自の出店戦略です。ワークマンは、ドミナント戦略とスクラップアンドビルドを可能とする出店方式を組み合わせることにより効率的な経営を実現しています。

日本ロジスティクスシステム協会発表の19年における売上高物流コスト比率の平均値は4.9%でした。これに対して、ワークマンの同比率は2.1%と半分以下であり、物流費を低く抑えることに成功しています。

ワークマンは、他のフランチャイズと異なり、立地の決定権がオーナー側にありません。出店場所は本部が100%決定する方針であり、希望者の通勤圏に出店予定がない場合は加盟ができません。一方で、通常のフランチャイズであればオーナー側に裁量権が認められているケースが多いのです。コンビニや飲食店では、オーナー側から希望の立地を伝え、それに基づき候補地を本部が提案する等、出店場所に対してオーナーにある程度の裁量権が認められています。

しかし、ワークマンは、本部決定により徹底したドミナント戦略を実行しています。例えば、東京近郊におけるSHOO・LA・RUEの店舗間の距離を調べると、各店舗間の距離が10~15キロメートル程度であるのに対して、ワークマンの店舗間の距離はおおむね2~3キロメートル以内、隣店から離れた店舗でも10キロメートル以内に出店しています。それにより、配送効率を高めています。

■ワークマンは非常に店舗投資を低く抑えられている

また、ワークマンは、迅速な出店と撤退ができる出店方式を取っています。ワークマンの1店舗当たりの固定資産の平均は約1000万円です。これを、同じくアパレル業界のうち、国内店舗情報を公開しているしまむらと比較してみます。しまむらは1店舗当たりの固定資産は約8000万円。すなわち、ワークマンは非常に店舗投資を低く抑えられていることがわかります。なぜ店舗投資をそこまで低く抑えられるのか。それはワークマンは、出店時に土地を購入せず賃貸としているためです。

さらに、建物も通常購入するのではなく、リース契約にすることで実質的に分割購入としています。つまり、出店ごとに多額のキャッシュアウトが一時に発生しないようにしています。店舗型ビジネスにおいて、出店時の高額支出が最大のボトルネックになることがあります。出店を進めれば進めるほど、資金需要が高まり、もし資金調達が間に合わなければ出店自体を諦めなければなりません。しかしワークマンは店舗出店にかかるキャッシュアウトを低く抑えられ、好立地を見つけられたタイミングで、迅速な出店が可能です。

さらに、フランチャイズ契約のAタイプでは、6年ごとに契約を継続するか本部と加盟店の双方で交渉をすることになっています。Bタイプでは1年ごとに交渉が必要となっています。すなわち、これは採算性の悪い店舗については、更新の都度、本部と加盟店側で撤退も含めた協議ができることを意味します。仮に撤退したとしても、固定資産を低く抑えているため撤退時の損失も低く抑えることができます。

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鳥山 慶(とりやま・けい)
鳥山総合公認会計士事務所(KT Total A&C)代表
1985年生まれ。公認会計士、行政書士。慶應義塾大学卒業。Big4(大手会計士事務所)で、法定監査、IPO支援、ターンアラウンド、事業承継等を経験。その後、外資系戦略コンサルティング会社でM&A戦略、費用削減戦略、新規事業立案等に従事。

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(鳥山総合公認会計士事務所(KT Total A&C)代表 鳥山 慶 図版=鳥山 慶 写真=時事通信フォト)

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