元トラック運転手が教える「あおり運転」をする人の4大特徴
プレジデントオンライン / 2020年3月19日 11時15分
※本稿は、橋本愛喜『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)の一部を再編集したものです。
■悪質な煽り運転を受け、夫婦が死亡
2017年6月、神奈川県の東名高速道路で悪質な煽り運転を受けた末、夫婦が死亡、娘2人が負傷した事故は、ハンドルを握るほぼ全てのドライバーにとって、自身や周囲の運転マナーを見直す大きなきっかけになったはずだ。
事の発端は、事故現場から数キロ手前の中井パーキングエリアで、被害者の男性が被告に駐車位置を注意したこと。それに逆上した被告はその後、一家4人が乗ったワゴン車を執拗に追いかけ、煽りなどの妨害運転を繰り返したうえ、停車が原則禁止されている高速道路の追越車線にクルマを停めさせ、一家を死傷させる結果に追いやった。
追越車線にクルマを停めさせることは、殺人行為と断言できる。同車線を走るクルマの平均時速は約100キロ。このスピードでクルマが障害物に衝突すると、高さ39メートル(ビルの14階相当)から落下した際と同じ衝撃が生じるのだ。
しかも、この事故でワゴン車に追突したのは、「殺傷力」の高い大型トラックだ。本来、大型車は追越車線の走行を禁じられており、このトラックドライバーは道路交通法違反となる。
■「本当に複雑な気持ちになる」
しかし、夜の追越車線上に、まさかクルマを停車させた生身の人間が車外に立っているとは、誰も想像しない。
また、今回の場合、追突したのがトラックではなく乗用車だったとしても、危険を察知してブレーキを踏み、クルマが完全停止するまでの「停止距離」は相当必要となり、彼らを避け切るのは非常に難しく、夫婦はいずれにしても助からなかった可能性が極めて高い。
さらに言うと、皮肉なことだが今回のケースは、衝突したのがトラックでまだマシだったとさえ考えられる。車高が高く、車体も強いトラックだったからこそ、トラックドライバーの命は助かったが、これがもし乗用車だった場合、追突したほうのドライバーも死亡していた可能性があるからだ。
こうしたことから、追越車線を走行していたという落ち度はあれど、今回追突してしまったトラックドライバーは巻き添えを食った感が否めず、検察の下した不起訴処分も、道路環境からして妥当だったと言えるだろう。
被告の裁判で、「両親を奪い申し訳ない」と遺族に反省の意を表したトラックドライバーの心情を考えると、本当に複雑な気持ちになる。
■煽り運転は「する側」「される側」に特徴と原因がある
こうした危険運転は、この東名事故のように第三者をも巻き込みかねない「悪しき行為」だ。しかし、煽り運転そのものは、ハンドルを日々握るドライバーにとって、それほど珍しいものではない。
この事故のような悪質なケースは稀としても、普段、日常的に運転しているドライバーならば、誰しもが煽られた、または煽ってしまった経験があるはずだ。
現役当時、アイポイントが高いトラックの車窓から周囲の運転事情を観察していた筆者は、実に様々な光景を目の当たりにした。その中でも多く遭遇したのは、やはり煽り運転などの危険運転だ。煽り運転には、する側にもされる側にも、それぞれ特徴と原因がある。
■煽られやすい「運転弱者」「大型トラックと軽自動車」
まず、煽られる側の2つのタイプと原因を紹介しよう。
一つは、「運転弱者」だ。
初心者や女性、高齢者の中には、運転が得意ではない「運転弱者」が比較的多く存在する。彼らの場合、無意識のうちに無駄なブレーキを頻繁に踏んだり、車間が上手く取れず詰めすぎたり、スピードが安定しなかったりすることで、周囲のドライバーをイライラさせてしまうことがあるが、そんな彼らの運転が、「煽る側」の引き金になることがある。
中には、運転弱者ばかりを狙う悪質な煽りドライバーもおり、初心者や高齢者が理解を得るために貼っているマーク(ステッカー)がむしろ、彼らに向けた「目印」になっているのも事実だ。
そして、煽られやすいもう一つのタイプは、「大型トラックと軽自動車」。
トラックがノロノロ運転せざるを得ない事情は、第1回で説明した通りだが、遅いトラックは、高速道路でも一般道でも、とにかく乗用車などからよく煽られる。
中には「トラックは左車線だけ走ってろ」という声もあるが、これまで述べてきた通り現在の日本の道路事情と、時間との戦いを強いられる物流の現状からすると、そんなわけにもいかないのだ。
一方、こうしたトラックに匹敵するほど煽られている光景を目にするのが、「軽自動車」。
軽自動車が煽られるのは、ドライバーに前出の「運転弱者」が比較的多いというのが一因になっていると思われるが、このクルマは構造上、どうしても他車より衝撃に弱いため、事故を起こすと被害が大きくなりやすい。
ゆえに、軽自動車のドライバーは、後述する「煽られないための対策」や「煽られた時の対処法」をより強く検討したほうがいいかもしれない。
■煽り運転をしがちな人の4大特徴
反対に、煽る側の特徴と原因には、次の4つのようなものがある。
一つ目は、「時間的余裕のないドライバー」だ。
一番シンプルな煽り運転発生の原因になるのが、「急いでいる」というもの。約束の時間ギリギリという時、人は法定速度で走る前のクルマにさえもイライラすることがある。が、原因が単純だと解決方法も単純で、この場合、時間に余裕を持って自分が早めに出発すればいい。これで全てが解決する。
次に「高級車に乗った凡人」。
筆者の個人的見解だが、煽り運転は、「凡人」が「高級車」に乗ると起きやすいように感じる。“中身(=ドライバー)”と“外見(=クルマ)”に差のない「ホンモノの高級車乗り」は、金・時間・心に余裕がある。
そのため、運転も自然と余裕を持ったものになるのだが、背伸びして高級車で乗り飾った「凡人」は、その「勘違いなグレードアップ」に気を大きくし、前のクルマを煽ることで、必然的に周囲から注目を浴びるシチュエーションを作り上げて、目立とうとするのだ。
2019年8月に常磐道で発生した煽り運転殴打事件の犯人は、まさしくこれに該当する。
こう考えると、高級車の煽り運転ほどカッコ悪いものはない。筆者は勝手に「煽り運転をする高級車の“中身”は、実に大したことない」と思っている。
■「行き過ぎた正義感」は禁物
三つ目は、「行き過ぎた正義を振りかざすドライバー」だ。
本来、安全確保のために存在する「交通ルール」だが、昨今、この存在に固執しすぎる一部のドライバーの「行き過ぎた正義感」によって、煽り運転が生じているように思えてならない。
正義感が強すぎるドライバーは、自分が優先である状況の中、相手の無理な割り込みや、「お礼の合図がない」など、ちょっとしたルール・マナー違反でも見過ごすことができず、追いかけて「罰」や「制裁」を与えたくなるのだ。
そんな彼らによる煽り運転は、日本がルールやマナーに非常に厳格な国だからこそ起こり得ることだと考えられる。実際、日本よりもルールやマナーに幅を持たせるアメリカや韓国では、ものすごいスピードで走ったり、車内で汚い言葉を連呼したりするドライバーは数知れないものの、煽り運転においては、日本ほど多くない。
そう考えると、「行き過ぎた正義」や「自分にあるはずの優位性の侵害」から起きる煽り運転は、かつて日本で問題になった、店員に土下座を強要するクレーム客の心理に似ているのかもしれない。
■「運転弱者」を物色したり、「煽り」を楽しむ悪質者
そして最後の四つ目は、「悪質ドライバー」である。
煽る側には、先述通り「運転弱者」を物色したり、「煽り」そのものを楽しむ悪質なドライバーがいる。前出の東名高速死亡事故の被告は、この部類に属する。
他ドライバーのミスやマナー違反などに難癖をつけて煽るのだが、彼らの本当の動機は、日頃に溜めたうっぷんを晴らしたり、“快感を”得るためだったりするので、とにかくしつこい。
こうした悪質ドライバーには、東名死亡事故をきっかけに法律の厳罰化も検討されており、今後、積極的かつ厳しく取り締まってもらいたいところだ。
このような煽り運転に巻き込まれない方法としては、ルールやマナーを守らない周囲のクルマに寛容になりつつ、自分はそれらをしっかり守ることが、一つの打開策になる。
また、ドライブレコーダーの取り付けは、トラブルになった際の証拠になるだけでなく、搭載している旨を知らせるステッカーをクルマの後部に貼っておくことで、不要なトラブルを未然に防ぐこともできるため効果的だといえる。
■煽り運転に巻き込まれないために注意すべきこと
それでも悪質なドライバーに煽られたら、車外に出たり煽り返したりせず、とにかく道を譲り、やり過ごすことが重要だ。執拗に追いかけられる場合は、その足で警察署や交番に向かえば、大抵のドライバーは去っていく。
連日続いた報道や、ドライブレコーダーの普及によって、ひと昔前よりは減少したと感じられる危険運転だが、感情を持つ人間がハンドルを握る以上、その行為を道路から完全になくすことは難しいだろう。
特に大型連休などには、久しぶりに長距離や渋滞の中を運転するペーパードライバーが増えることで、イライラする、またはさせるドライバーも増えるだろうが、皆が帰るべき場所に帰れるよう、各人思いやりを持って安全運転に心掛けてほしい。
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フリーライター
元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化祭、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆や講演を行う。
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(フリーライター 橋本 愛喜)
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