日本と海外をすぐに比較する「高学歴クソリプおじさん」の悲哀
プレジデントオンライン / 2020年3月18日 15時15分
■コロナ渦での落語会でやり場のない怒り
いやはや、コロナ禍でみなさま、お疲れさまでございます。
テレビをつければどのチャンネルもその話題ばかりで、なんだか嫌になります。それに追い打ちをかけるかのように、「各種ライブ、コンサートの自粛」であります。私も芸人、身体をそこに持っていってパフォーマンスをしないと身過ぎ世過ぎが成り立たない稼業ゆえ、非常に難儀しています。
そんな心の晴れない空気感が漂う中、2月28日、「第13回国立演芸場独演会」を開催しました。いやあ、開催というよりも敢行というようなレベルではありましたが。無論、会場入口にアルコール消毒液を設置したり、ご来場いただくお客さまにはマスクの着用をお願いしたり、恒例の書籍サイン会はお断りしたりと、こちらでもできる限りのことはやらせてもらいました。おかげさまで大反響と相成りました。
2月末に長野で企画していただいた「出版記念落語会」も、やはりご来場されるお客さまの中の「このモヤモヤ感をなんとか笑いに変えてもらいたい」みたいな空気をひしひしと感じたものでした。こんな状況の最中に駆けつけるお客さまはある意味おおらかなのでしょうが、そのアバウトさが逆に仇になって、携帯電話を鳴らす人が続出でした(笑)。事前に電源を切るというチェックがおろそかになるのでしょう。
なんとかそのアクシデントを乗り切って、オチにこぎつけようとした瞬間でした。今度は石油ファンヒーターからの燃料切れを知らせる「キラキラ星」が鳴り出したのです(笑)。いやあ、参りました。こればかりは仕方ありません。向こうにしてみれば当然の仕事なんですもの。やり場のない怒りを抑えて語り終えて、近づいてそのメーカー名を見たら「コロナ」だったという(爆笑)。
ほんと、人生いろいろであります。
■SNSに出現する「高学歴クソリプおじさん」の正体
ま、この騒動もいつかは落着するはずと信じて、空いた時間をこうして原稿を書いたり、読書をしたり、次の新刊のメールでの打ち合わせをしたりと、難局を乗り越えようとしています。
辛いのは私だけではないのですもの。
さて、在宅時間が長くなったのでしょうか。いつにも増してツイッターやらフェイスブックなど各種SNSで面白い人たちを散見するようになりました。
「かぶせおじさん」です。
かぶせおじさんとは私の造語ですが、「若年層(とくに若い女性)の書き込みに対して、知識やら経験を振りかざして、上から目線で聞いてもいない自らの主張をかぶせてレスポンスしてくるおじさん」のことを指します。
いや若年層のみならず、落語家に向かって「誰もが思いつくレベルのダジャレを連発してくる」のもそういうおじさんばかりです。「新型コロナ、気になりますね」とわざわざ「トヨタの車やビールの写真を添付してきた方」はおひとりだけではありませんでした。ま、それだけ落語家が突っ込みやすくまた親しみやすい距離感に位置する証拠なのかもしれませんが。
なんで「おじさん」と定義したのかというと、そのようなイラッとさせる「クソリプ」を返してくる人に、まず女性はいらっしゃらないからです。その経歴を見るとざっくり言って「高学歴」「定年退職」「フォロワーが少ない」という特徴がありました(決して高学歴で定年退職してフォロワーの数が少ないとそのようになるというわけではありません)。
■セクシー系の写真掲載の女性に燃え上がる
私の場合、最近こそそういう「ダジャレ連発おじさん」に遭遇するケースが増えてきましたが、もしかしたら時節柄パソコンに向かう時間が多くなったおじさんたちが、「知識ひけらかしたがり症候群」からか、逆らいそうにない健気な女性向けに本領を発揮しているのでは……とお見受けします。またターゲットとなるその女性もアイコンにちょいセクシー系の思わせぶり写真なんぞ掲載しているものですから、「かぶせおじさん」はますます燃え上がるのでしょう。
要するに、「あなたの書き込みに関しては、人生の先輩である私のほうがオーソリティですよ」というアピールで、あわよくば近づいて教えてあげたいという「大きなお世話」なのですな。聞いても頼んでもいないのに、です。
芸人のボケ発言に対して、「ダジャレ」ではなくもっと面倒くさい「マジレス」をしてくる人もそれに類するのかもしれません。私も含めて芸人は、前後の脈絡やら矛盾点やらを差し置いて、まずは目先のウケを優先して時事ネタなどをつぶやくものです。するとそれに対して鬼のクビを取ったかのように、自分目線しかない皮膚感覚にもとづいたレスを寄越してくる人がたまにいます。ボケはある種の確信犯的発言です。「それじゃ面白くないだろう」となぜ思わないのでしょうか。
かつては私の発言に対しても「ふざけるな」と言ってくる人がいるなど、何度かいわゆる「炎上」も経験しました。「芸人はふざけるのが仕事」なのになぜご理解いただけないのでしょうか。ほんと面倒くさいですよねえ。
■「なぜ誰も振り向いてくれないんだ」という悲しい叫び
さて。
絡んできた方が「高学歴」「定年退職」「フォロワーの数が少ない」という点を再度考慮してみます。
高学歴で定年退職というと、老後もある程度保証されたご身分のはずで、暇な時間があるからこそSNSに向かうこともできるのでしょう。そして「フォロワーの数」は、「ネット内における発言の影響力」の数値化・可視化でもありますので、その絶対数が少ないイライラ感が、芸人の発言やら経験値が低いと判断した若い女性の書き込みに向かうのでしょう。
心の中には、「いろんな意味で物事を知っているはずの上位に位置する俺の言葉に、なぜ誰も振り向いてくれないんだ!」という悲しい叫びが聞こえてきそうな感じがしますよね。あ、無論これらは私の仮説から派生するたんなる想像です。人物を特定しているわけではありませんのでくれぐれも噛みついてこないでくださいね(笑)。
たとえばツイッターは、私個人としては「顔も見えない中での落語会の案内、ギャグや新刊などの紹介のためのウインドウショッピング」としてとらえています。一方、フェイスブックは「一見さんお断り」システムを取っていまして、「一度でもお会いしたことのある方との茶飲み会」のような感じに差別化しています。
■「本場イギリスのアールグレイは日本と全然ちがう」
そんな内輪の茶飲み会で「やっぱりアールグレイは美味しいね」とみんなで話したことに対して、見ず知らずの通りすがりの方が「私は本場のイギリスのカフェで飲んだことがありますけど、日本のアールグレイとは全然ちがいますよ」みたいな発言はやはり不要なのです。そんな野暮な発言には「紅茶の話だけど、セイロン(正論)はお断りします」というしかないのです(笑)。
ま、こういう「かぶせおじさん」の出現は、本屋さん回りをすれば、しみじみ仕方ないのかなという気分にもなります。だってビジネス書や自己啓発本コーナーには、「自分の個性の演出の仕方」とか「上手な会話術」といった「発信者側」の立場しか考えていない書籍だらけですから。
現代の「俺が俺が」という風潮の犠牲者なのかもしれませんなあ。被害者だと思うと許せる気分も少しは芽生えます。ましてやこの新型コロナウイルスのせいで、外に出て大手を振って歩いてゆけない閉塞感があるのですもの、なんとなく「かぶせおじさん」に同情したくもなりますなあ。
ここまで書いてきてなぜ「かぶせおじさん」に辟易するのか、その理由に気づきました。それはコメントを発した際の「ドヤ顔」なのです。ベタなダジャレや誰もが気づいている正論や常識をくり出した際に、「どうだ!すごいだろ」というご満悦顔が浮かんでくるのがイラつかせるのでしょう。
これは自戒を込めたいと思います。
「上手いことや面白いことを言った時、自分もこうなっているかも」と自己チェックする姿勢は肝心なのかもしれません。人間って「されたことをしてしまう」悲しい生き物なのです。
では、そういうおじさんにならないようにするためには、どうしたらいいでしょうか?
■言いたくなったら、腕立て伏せ100回やろう
さあ、みなさん!
そんな時こそ、「自宅筋トレ」です。行きつけのジムもしばらく閉鎖という状況の中、自宅で自重トレーニングなんぞいかがでしょうか。
自戒を込めてですが「ついつい言いたがりだなあ」と反省したら、私は「腕立て伏せ100回」をやることにしています。ひとまず10回を目標にやってみましょう。「無理だよ」という人は膝をついた状態からでも構いません。とにかく継続させることです。じわじわ続けてゆけば、10回が20回、30回、40回……と増えてゆくはずです。
こんな日々を積み重ねてゆけば、コロナ騒動明けの暁には、きっと強靭な肉体に出会えるはずです。同じかぶせるなら筋肉を身体の上からかぶせるおじさんを目指しましょう。
いや、そこでまた筋肉がついたことを写真でアップしたりすれば、元の木阿弥かもしれませんが(それは私でありました)。
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立川流真打・落語家
1965年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ワコール勤務を経て、91年立川談志に入門。2000年二つ目昇進。05年真打昇進。著書に『大事なことはすべて立川談志に教わった』など。
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(立川流真打・落語家 立川 談慶)
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