医師が警鐘!コロナウイルスより怖い"風邪でも休ませない"日本社会の病

プレジデントオンライン / 2020年3月19日 6時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/AH86)

新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)の流行で、大手企業や外資系企業を中心に時差通勤やテレワークを採用する動きが広がっています。その一方で、「管理できない」「社員がサボる」など、時代錯誤な声もちらほら。パンデミックの状況でも出社にこだわる日本社会ってどこかヘンなの?『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)が話題の医師、木村知さんに聞きました。

■COVID‐19でわかった「ここがヘンだよ日本人」

前回の記事(医師が証言「一斉休校でも子供は公園で元気に遊んだほうがいいワケ」)でもお話ししましたが、COVID‐19は無症状から軽症、咳が長引くなどの中等症、そして肺炎や呼吸不全を起こしICU(集中治療室)での治療を必要とする重症まで、実に症状が多彩です。特に発症初期は一般的な風邪となかなか区別がつきません。ですから、在宅勤務やテレワークという働き方は、満員電車や人混み等での感染機会を減らすという意味で理にかなっています。

そもそもCOVID‐19に限らず、風邪やインフルエンザで辛いときは、仕事にならないのが当たり前。辛い間は身体を休めるしかないし、無理に出社をして周りの人に移すよりも休んだほうがいい。この極めて常識的な話が、なぜか日本では「非常識」扱いされてしまいます。

患者さんに無理をして職場に行っても集中できないし、咳き込みでもしたら同僚や仕事相手にも悪いよ、と指摘したところで「でも、やっぱり今日は休めません」と返事がかえってきます。いや、それはヘンでしょうと思いませんか。

■風邪をひくのは「自己管理が悪いから」ではない

日本人はどうも休むことに「罪悪感」を持っているのではないかと思います。しかも50代以上の今の管理職層は、子どものころから「風邪でも絶対に休まない」ことを一種のステイタスのように刷り込まれた世代なので、「無理をしない方がいい」という真っ当な判断に対して「自己管理が悪い」と断じがちです。

しかし、COVID‐19やインフルエンザをはじめ、ウイルス感染症は、簡単に人から人へ移ります。「はってでも出てこい」などと言う上司がいたとしたら、はなから管理責任を放棄しているようなもの。「たかが風邪で」と反論されそうですが、風邪の8~9割は「ライノウイルス」や「コロナウイルス」「RSウイルス」といったウイルスによる「感染症」なんですよ?

一般に人間が一生のうちに風邪を引く回数は、およそ200回だと言われています。人生80年として単純計算で年に2.5回です。COVID‐19でも明らかなように、感染症を完全に封じ込めることはできません。集団で社会生活を営んでいる限り風邪をひくのは当たり前。決して個人の体調管理がマズいせいではないのです。

■ドイツは6週間の「有休病欠」がある

ドイツでは普通の有給休暇(新入社員は24日間)とは別に「有給病欠」という制度があります。就労が不可能であると医師が判断した場合は、この制度に基づき会社が6週間まで給与を全額保障するので、給与付きで堂々と休むことができます。

その際の手続きも、初日に病欠の連絡を会社に入れることは必要ですが、診断書を求めてフラフラになりながら医療機関を受診する必要もなく、初日から3日目までゆっくり休むことができます。4日目以降は医師の「就業不能証明」を会社に提出する義務がありますが、病気について説明する必要は一切ありません。病気は個人のプライバシーですから従業員が使用者に対して説明しなければならない、というのはそもそもおかしいのです。

2019年1月9日、ドイツ大使館の公式ツイッターがこの制度についてツイートし、話題になりました。それによればドイツ人の年平均病欠日数は19日で、制度があるだけでなく、きちんと使えていることがわかります。万が一有給休暇中に病気になった場合も、条件を満たせば病欠扱いに変更できるそうです。たとえば有給休暇中にCOVID‐19に感染して2週間隔離された場合でも「有給休暇が足りない!」と焦らずにすむわけですね。

ちなみに、日本人の有給休暇(有給病欠ではありません)は、フルタイムの正社員が半年間勤務した後に10日間、その後は1年勤務するたびに1、2日増えますが、最大で20日間どまりです。仮に年2回の風邪で合計7日間休むと有給休暇の3分の1が消えてしまいます。

■雇い止めが横行する社会は感染症に弱い社会

有給休暇など望めない非正規雇用の人たちはさらに悲惨です。風邪を引こうが熱があろうが、あるいは一斉休校で小さい子どもに一人で留守番をさせることになろうが、生活を守るために仕事を休めない人が沢山いるのですから。なんとか無給の病欠が認められたとしても「身体が弱い、やっかいな人員」と見なされ、解雇や雇い止めを喰う恐れもあります。

こうした人たちは症状をひた隠しにして無理をしてでも仕事に行こうとするでしょう。風邪で安心して休むことができない社会は、そのまま新興感染症に弱い社会なのです。

COVID‐19は日本人が目を背けてきた雇用格差や働き方の問題を浮き彫りにしました。実は2009年に新型インフルエンザが流行した際に「念のため受診」や「陰性証明」を求めて比較的元気な人が病院に殺到したときも、すでにこうした問題は明らかでした。私は当時から「体調が悪いときは休みなさい」「病気は社会が引き起こす」と訴えてきたのですが、一人の医師ができることには限界があります。

日本社会の構造的な欠陥が明らかになった今、私たち一人ひとりが「体調が悪いときは休む。それが社会人としての常識です」と声あげ、病欠のときの所得補償や休業保障を要求し、理不尽な解雇や雇い止めを違法とするよう働きかけていくことが必要なのだと思います。

■今つくるべき“ポスト・コロナの新常識”

COVID‐19の流行は長期化する見通しで、私たちはPost‐COVID‐19社会の新常識をつくる必要に迫られています。私が考える新常識は次の通り──。

新常識I

①体温が37度以上、少なくとも37.5度以上の微熱が4、5日以上続き、

②咳など呼吸器の症状があり、

③インフルエンザやマイコプラズマなど他の感染症が否定されたケース については、検査の有無、陰性・陽性にかかわらず、社会的診断として全て「新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)」として取り扱うこと。

新常識II

また、無症状やごく軽微な症状の人の中にも感染者が含まれていることを踏まえ、強い呼吸器症状がなくても、「全ての風邪のような症状は『疑似COVID‐19』とみなし、会社都合で休ませること」。

会社の「防疫」のために休むのですから、会社都合は当然です。「COVID‐19」の陰性証明や「出勤(登校・登園)許可書」のために医療機関を受診し、貴重なリソースを無駄にすることもなくなるでしょう。

■休業もリモートワークも認めない管理職をどうするか

頑なに「休業」も「リモートワーク」も認めようとしない管理職や経営者には、COVID‐19の感染力の強さや、陰性・陽性の検査結果があてにならないこと、無理を強いて社内でアウトブレイク(限られた場所での感染症の集団発生)し、会社自体がクラスターとなってしまったら、一社員の休業では済まされないという事実を淡々と説明してください。

風邪で休むことが結果的に社会の利益を守るという理解が浸透すれば、多くの人が「風邪でも休めない」社会はゆがんでいるのだという認識に変わります。働き方の多様性も受け容れられて、子育て中の女性や障害者の働き方も変化するのではないでしょうか。

COVID‐19の流行はまさに未曾有の災厄です。しかし、この災難の教訓を生かすことができれば、日本社会を変えるパラダイムチェンジにつながる可能性があるのです。ピンチをチャンスに変えましょう。

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木村 知(きむら・とも)
医師
医学博士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。1968年、カナダ生まれ。2004年まで外科医として大学病院等に勤務後、大学組織を離れ、総合診療、在宅医療に従事。診療のかたわら、医療者ならではの視点で、時事・政治問題などについて論考を発信している。ウェブマガジンfoomiiで「ツイートDr.きむらともの時事放言」を連載中。

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(医師 木村 知 構成=井手ゆきえ 写真=iStock.com)

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