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「会議中にどうしても意識が飛ぶ人」は睡眠障害かもしれない

プレジデントオンライン / 2020年3月18日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EXTREME‐PHOTOGRAPHER

よく眠ったはずなのに、昼間に睡魔に襲われることはないだろうか。スタンフォード大学医学部精神科の西野精治教授は「眠気が強すぎて起きていられない『睡眠障害』の中には金縛りや、失神したように突然眠ってしまう症状もあり、軽く見てはいけない」と指摘する――。

※本稿は、西野精治『睡眠障害 現代の国民病を科学の力で克服する』(角川新書)の一部を再編集したものです。

■健康な人でも睡眠不足が続くと起こりやすい

不眠と過眠は表裏一体なものです。

夜に眠れない日が続くから、昼間に眠くなります。逆に、昼間に居眠りすることが多くなれば、夜に眠れなくなります。

しかし、過眠症の患者さんの主訴は「日中眠くなる」というものが大半であって、その本当の症状を知ることは簡単なことではありません。不眠症と同じように、除外診断で考えられる原因を一つひとつ潰していかなければ、本当に眠くなる理由を突き止めることはできないのです。

過眠症は、「夜に十分に睡眠を取っているのに昼間の眠気が強く、起きていられない状態が続く」症状です。

健康な人でも睡眠不足が続くと、昼間に強い眠気が出現することがあります。打ち合わせをしているときや、取引先との商談中に、意識が飛んでハッとしたことがありませんか? ほんの数秒ですが、こうした瞬間的に意識脱落状態になることを「マイクロスリープ」と言います。

ほんの数秒ならまだいいのですが、なかには眠気が強過ぎて、起きていられない状態になることも。それが、過眠症です。過眠症になると、仕事や勉強に支障をきたすだけでなく、自動車を運転していたり、産業機械を操作していたりすると、大きな事故を招くリスクが高まります。

■過眠を引き起こす睡眠障害には2つの種類がある

過眠を引き起こす睡眠障害は、大きく2種類にわかれます。

ひとつは、慢性の睡眠不足を招くことで昼間に強烈な眠気をもたらす病気。睡眠中に起こる症状のため、なかには自覚できないものもあります。もうひとつは、脳の睡眠・覚醒を調節する機能がうまく働かず、日中に強い眠気が出現する病気です。難しい言葉では、原発性中枢性過眠症となります。

前者の病気としては、睡眠中に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群、就寝時に脚に不快な感覚が続くむずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)、夢に合わせて体が動くレム睡眠行動障害などが挙げられます。

後者の病気は、突然眠ってしまうナルコレプシー。わたしが長年にわたり研究を続けている睡眠障害です。

■無呼吸状態とは10秒間息をしていないこと

近年、睡眠障害の話で必ず取り上げられるのが睡眠時無呼吸症候群です。日本の睡眠専門のクリニックを訪れる患者さんの7~8割もが、睡眠時無呼吸症候群だとされます。医療機関にかかっていない潜在的な患者を含めると、300万人以上の人が治療を必要としているのではないかと推測されるほどです。

睡眠時無呼吸症候群は、寝ているときに、ときどき呼吸が止まる病気で、呼吸が停止するたびに覚醒反応が起きています。睡眠時無呼吸症候群が問題なのは、本人に呼吸が止まっているという自覚がないのが多いことでしょう。もちろん、何度も覚醒していることにも気づいていません。

夜間に何度も覚醒すれば深い睡眠を得ることができないので、慢性睡眠不足に陥り、日中に眠気が出現するようになります。

睡眠時無呼吸症候群の症状を具体的に解説すると、まず無呼吸状態とは、10秒の呼吸停止のことを言います。これを1回とカウントし、呼吸が止まらない「低呼吸」も含めて、1時間に何回の停止があるかで診断します。

■首周りに脂肪がついていると気道が狭くなる

1時間に5~15回くらいだと軽症。15回以上になると中等度の睡眠障害と診断され、治療の必要性が出てきます。

1時間に15回ということは、単純計算すると4分に1回は呼吸が止まるということ。症状が悪化している場合は、1分に1回止まる人もいるほどです。そのたびに睡眠が中断されるわけですから、十分な睡眠が取れるはずもありません。

どうして呼吸が止まるのでしょうか? 睡眠時無呼吸症候群の呼吸停止の多くは、中枢性の問題からくるものではなく、閉塞性によるものと考えられています。

わたしたちの体は、睡眠状態に入ると弛緩、脱力します。気道や舌周辺の筋肉も脱力して緩みます。特にあお向けに寝た時には重力で舌が落ち込み、狭くなった気道を塞いでしまうのです。睡眠時無呼吸症候群に肥満の人が多いのは、首まわりに脂肪が沈着することで気道を狭くしてしまうからです。

実際、欧米では患者に肥満気味の男性が多いという報告があります。

日本では肥満気味の人ばかりではなく、女性でも、子どもでも発症しています。これは、アジア系人種特有の骨格が原因ではないかとされています。下顎が欧米人より小さく奥まっているため、骨格的にもともと気道が狭くなっているのです。

■失神したように突然眠る「ナルコレプシー」とは

睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群などとは異なるタイプの過眠が、わたしの研究の専門分野でもあるナルコレプシー。慢性の睡眠不足ではなく、睡眠を阻害するような病気もなく十分に睡眠が取れているのに、昼間に強烈な眠気に襲われ、失神したように突然眠ってしまうという怖い病気です。

ナルコレプシーの情動脱力発作

その人と対峙している人はびっくりですが、10~15分間ほど眠ると目覚め、また2~3時間すると、同じように強い眠気が出現します。

ナルコレプシーには、過眠以外の症状も現れます。

ひとつは、情動脱力発作。笑ったり、怒ったり、恐怖を感じたりなどの感情の高ぶりがあるときに、全身の筋肉の脱力が起きる症状です。たとえば、笑っているときに、突然、全身の力が抜けて、頭がグラグラ揺れたり、ろれつが回らなくなったり、まぶたが下がったり、ときには腰が砕けるように崩れ落ちることもあります。

もうひとつは、金縛りです。これはレム睡眠の異常と関係していて、通常、レム睡眠は入眠してから70~100分くらいしてから出てきますが、ナルコレプシーの場合は入眠初期に出てきます。

■覚醒を引き起こす神経細胞が機能しなくなる

入眠時にうとうとしているときに、近くに誰かが座っていたり、天井から誰かが出てきたりといった幻覚を見ることもあります。声を出したいけれど、睡眠麻痺で体が動かない状態になっているので声が出ないし、体も動きません。

金縛りに関しては、生活パターンが乱れたりすると健常な人にも起きる現象で、起きたからといって異常というものではありません。

ただ、幻覚や金縛りの症状があることで、ナルコレプシーの病態が明らかになるまではヒステリーの一種として精神疾患に分類されたこともありました。

現段階ではっきりわかっていることは、発症のメカニズムです。

ナルコレプシーは、視床下部にあるオレキシン神経細胞が後天的に脱落することで、オレキシンの神経伝達障害が起きます。オレキシン神経細胞の脱落は、腰椎穿刺による脳脊髄液の検査で、脳脊髄液中のオレキシンの異常低値が認められれば臨床的に診断できます。オレキシンは覚醒を引き起こし、レム睡眠の出現を強く抑える物質なので、機能しなくなると正常な覚醒が維持できなくなり、レム睡眠の異常も出現します。

しかし、その原因まではまだわかっていません。自己免疫の機序で脳のオレキシン神経細胞が脱落することは想定されていますが、なにに対する自己免疫なのかがわかっていないのです。

■自己免疫の仕組みが関わっている2つの理由

脱落の原因が自己免疫ではないかと想定できる理由のひとつは、ナルコレプシーの患者さんの9割以上が、白血球の血液型と言われるHLA(ヒト白血球抗原)の特定の型(HLA‐DQ6の中でもDQA1*0102/DQB1*0602)を持っていることです。この型は日本人の2割が持っていますので十分条件とは言えませんが、必要条件とは言えるでしょう。

ナルコレプシーに限らず病気のほとんどがそうですが、たとえ疾患感受性遺伝子が見つかっても、その病気が単一の遺伝子の変異で発症するかどうかは決まりません。病気の発症には複数の遺伝子が関与することが多く、遺伝要因のほかに、環境要因も関与してくるからです。

もうひとつの理由は、2009年に起きたインフルエンザのワクチンの作用です。

2009年に世界的に流行したインフルエンザの対策として、世界各国でワクチンがつくられました。そのワクチン接種によって、ヨーロッパとカナダでナルコレプシーの発症率が5倍くらいに増えたのです。しかし、アメリカや日本では増えることはありませんでした。

ヨーロッパやカナダとアメリカのワクチンのちがいは、アジュバント。アジュバントとはワクチン効果を高める物質で、ヨーロッパやカナダとアメリカではちがうアジュバントを使っていたのです。ちなみに日本で用いられたワクチンにはアジュバントは使われていませんでした。

■ナルコレプシーの治療は対症療法になる

そこで想定されるのは、本来ならワクチンで強化された免疫システムがウイルスを攻撃するのですが、アジュバントによって過剰に反応してしまった免疫システムが、自分のオレキシン神経細胞を攻撃したのではないかということです。これに関しては、まだ結論は出ていません。

西野精治『睡眠障害』(KADOKAWA)
西野精治『睡眠障害 現代の国民病を科学の力で克服する』(角川新書)

ナルコレプシーの研究は、もはや睡眠ではなく、免疫学の分野にまで広がってきています。なにに対する自己免疫かという肝心なところにたどり着かなければ、本質的な治療をしたり、予防したりすることができないからです。

治療法としては、オレキシン神経細胞が脱落してオレキシンを生成できないなら、オレキシンを補充しましょうという方法はあります。ただ、ビジネス面の問題からナルコレプシーの治療薬ではなく、不眠症の治療薬の開発を先行することになりました。患者数を比べれば、それは当然の戦略です。

ただし、オレキシン受容体作動薬を開発したとしても、ナルコレプシーの根本的な治療法にはなりません。根本的な治療はオレキシン神経細胞の脱落を防ぐことなので、いままでの治療法よりもよくなる可能性があるということです。

ちなみに、現在のナルコレプシーの治療は、眠気にはモダフィニルなどの覚醒系薬剤、情動脱力発作にはレム睡眠を抑える抗うつ剤が使用されています。これらは、どちらも対症療法になります。

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西野 精治(にしの・せいじ)
スタンフォード大学医学部精神科教授
同大学睡眠・生体リズム研究所(SCNlab)所長。医学博士、精神保健指定医、日本睡眠学会専門医。2019年5月に睡眠に特化した健康経営のコンサルティングなどを手がけるブレインスリープのCEOに就任。

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(スタンフォード大学医学部精神科教授 西野 精治)

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