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値上げでもファンが離れない「ココイチ1億通りのカレー」の吸引力

プレジデントオンライン / 2020年3月19日 11時15分

2018年9月には、お客と店員が「何種類くらいあるんだろう」「ほんの1億種類くらいです」というやりとりのCMも放映された。 - 画像=壱番屋プレスリリースより

「カレーハウスCoCo壱番屋」の業績が底堅い。昨年3月に実施した値上げの影響で客数は減ったが、客単価の上昇で、この1年の既存店売上高はプラスになった。店舗運営コンサルタントの佐藤昌司氏は「ココイチには1億通り以上というカレーの品揃えがある。このため値上げをしても、競合に客が流れづらい」と分析する――。

■ポークカレーは税込み484円から505円へ

「カレーハウスCoCo壱番屋」(ココイチ)を運営する壱番屋で既存店の客数が減っている。3月4日発表の2020年2月期の既存店客数は、前期比1.5%減と前年割れに転じた。これは19年3月1日に実施した値上げの影響だとみられる。

ココイチは、コメなどの食材価格の上昇や人件費の上昇を理由に、国内全店舗のうち約8割でポークカレーなどの主力商品の価格を引き上げた。東京23区など都心部の店舗の場合、ポークカレーは税込み484円から505円と21円引き上げた。

この値上げ以降、客数減が目立つようになった。18年9月から値上げ直前の19年2月まで、客数は6カ月連続で前年を上回っており、6カ月の合計では前年同期比2.4%増と客数は増えていた。しかし、値上げ実施月の19年3月は0.2%減となり、それ以降はマイナスの月が目立つようになっている。

ネット上では「値上げで行く回数を減らした」「高くてもう行けない」といった悲鳴に近い声も聞かれた。こうした状況から、19年3月に実施した値上げでは客離れが起き、失敗だったとの見方がある。しかし、筆者はこの値上げは「成功」と考えている。客単価の上昇で既存店売上高はプラスになっているためだ。

■値上げで業績が悪化した鳥貴族と大戸屋

20年2月期の客数は前述の通り1.5%減だったが、客単価が2.1%増と大きく伸びたため、既存店売上高は0.5%増で着地した。昨年の台風19号や消費増税といった特殊なマイナス要因が加わった中でプラスを確保したのは、健闘したといえる。

値上げ後、客数減を客単価増で補えず売り上げを落としてしまう外食チェーンは少なくない。焼き鳥チェーンを展開する鳥貴族は、17年10月1日に商品を一律税抜き280円から298円に値上げした。その後の12カ月間は、客単価こそ全ての月でプラスだったものの、客数が11の月でマイナスとなり、結果として既存店売上高は10もの月でマイナスとなった。

定食チェーンの「大戸屋」を展開する大戸屋ホールディングス(HD)でも、同様のことが起きている。大戸屋で19年4月下旬に定食の一部を値上げしたほか、安価で人気のあった定番商品「大戸屋ランチ」を廃止して価格帯を引き上げた。その後の客単価はおおむね上昇したものの、客数が20年2月までの11の月全てでマイナスとなり、結果として既存店売上高も全ての月でマイナスとなった。

結果、両者はどちらも値上げ後の決算が思わしくない。鳥貴族は18年7月期の単独最終利益が前期比31.6%減と大きく落ち込み、19年7月期は最終赤字に転落した。大戸屋HDは19年4~12月期の連結売上高が減収となり、最終損益が赤字に転落している。

■ココイチ値上げ後の決算は好調

一方、壱番屋は値上げ後の決算が好調だ。19年3~11月期連結決算は、売上高が前年同期比2.4%増の383億円、営業利益が25.4%増の42億円、純利益が19.5%増の27億円と増収増益だった。同社ではこの理由を19年3月の値上げが寄与したと分析している。やはり、ココイチの値上げは成功したと言っていいだろう。

なぜココイチは値上げで成功したのか。大きな理由としては、ココイチがほかで代替しづらい存在であることが挙げられる。カレーを提供する店は数多く存在するが、ココイチほどメニューが充実していて、「カレーを提供する店」としての知名度とブランド力がある店はない。

■ライバルになるカレーチェーンの不在

同業のカレーチェーンには脅威となるブランドはない。ココイチは国内に1200店超を展開するのに対し、業界2位とみられる「ゴーゴーカレー」は約70店にすぎない。

では、カレーを提供する異業種はどうか。たとえば牛丼チェーンの「すき家」(国内店舗数約1900店)と「吉野家」(同1200店)、「松屋」(同1000店)でもカレーを出している。これら3社のカレーは高い競争力がある。

基本となるプレーンなカレーでいうと、すき家の「サラ旨ポークカレー」(並盛り税込み490円)、吉野家の「スパイシーカレー」(同税抜き328円)、松屋の「創業ビーフカレー」(同税込み490円)はいずれも安価で、コストパフォーマンスは高い。ココイチの「ポークカレー」(税込み514円or493円/地域によって異なる)と遜色ない。

■1億通り以上の組み合わせが人気を支える

だが、ココイチにとって牛丼チェーンのカレーは脅威とはならない。ココイチは圧倒的な品ぞろえを構築しているからだ。ココイチのカレーは、ソースが5種類、ライスの量は100グラム単位、辛さは普通から10辛まで、甘さは5段階、トッピングは40種類以上から選べる(3月現在のメニューブックより)。このため1億通り以上の組み合わせが可能とされている。この豊富な品ぞろえが、「ほかで代替しづらい存在」の根幹となっているのだ。

ココイチにしろ牛丼チェーンにしろ、プレーンなカレーはコストパフォーマンスの高い商品だが、さすがに毎回では飽きてしまう。牛丼チェーンはあくまで牛丼の店であり、カレーの品ぞろえはココイチほどではない。カレーだけで飽きさせないようにするのは困難だ。しかし、ココイチは品ぞろえが豊富なため、客は好きなように変化を加えられる。こうして考えるとココイチには大きな競争相手が存在しないことがわかる。

「ほかで代替しづらい存在」であれば値上げして大きな客離れは起きず、収益性の低下を避けられる。むしろ収益性が高まることもある。この観点で考えると、大戸屋が値上げで業績を悪化させた理由がわかる。大戸屋は「ほかで代替しづらい存在」とは言い難い存在なのだ。

■同業にも異業種にも代替されやすい大戸屋

大戸屋は全国に約350店を展開し有力な定食チェーンではある。だが「まいどおおきに食堂」(約410店)や「やよい軒」(約380店)など、同業で強い競合がいる。つまり、業界で突出した存在ではない。

また、定食店はほかの専門店など異業種にも代替されやすい。ホッケの定食など魚系の定食であれば海鮮系居酒屋に、とんかつの定食であればとんかつ店に、野菜や肉を炒めたり揚げたりした定食であれば中華料理店に代替されてしまう。

このように大戸屋は、同業にも異業種にも代替されやすいポジションにある。そのため値上げすると客離れが起きやすく業績悪化につながりやすいのだ。

■ココイチ同様に「唯一無二」のQBハウス

一方で「ほかで代替しづらい存在」であるがために、ココイチのように値上げで業績向上につながったところもある。外食店ではないが、キュービーネットHDが展開するヘアカット専門店の「QBハウス」がそうだ。

QBハウスは19年2月1日に、通常料金を税込み1080円から1200円に、シニア料金を1000円から1100円とする大幅な値上げを行った。だが、その後の12カ月間の既存店売上高は全ての月がプラスとなっている。プラス幅も大きく、19年10月(3%増)以外はいずれの月も6%超の大幅増を達成している。2つの月では10%超もの増加だ。同社は客数と客単価の増減率を公表していないが、おそらく客数が減った一方で客単価が大幅に上昇し、既存店売上高が増えたと考えられる。

キュービーネットHDの業績は好調だ。19年7~12月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高が前年同期比10.1%増の111億円、営業利益が43.0%増の12億1400万円、純利益が35.4%増の7億9400万円と大幅な増収増益を達成した。同社は増収増益について19年2月の値上げが寄与したと分析している。

QBハウスが大幅値上げを実施したにもかかわらず業績が好調なのは、「ほかで代替しづらい存在」だからだ。値上げしてもほかと比べてまだまだ安い。最近は「1000円カット」をうたう理美容店は増えているが、QBハウスのように高い知名度とブランド力を有し、好立地にある競合はいない。消費者はQBハウスが高くなったからといって簡単に店を変えることができない状況にある。

ココイチとQBハウスの好調な業績が示しているように、値上げの成否は「ほかで代替しづらい存在」という点に大きく左右される。ココイチはおそらく今後も値上げを仕掛けてくるだろう。限界はどこにあるか。その見極めが重要となる。

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佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。

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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)

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