あなたvs手土産「誰か」との距離を縮めるチョコレート
プレジデントオンライン / 2020年3月27日 9時15分
■脳に“報酬”を与えるプレゼント効果
3月14日はホワイトデーでしたが、バレンタインのお返しを手渡す人も多かったのでは。また、春はお世話になった人にプレゼントを渡したり、もしくは新しい環境で出会う人に贈り物をする機会もあるかもしれない。特別なイベントがなくても、誰かにプレゼント、とりわけ“食べもの”をあげるという行為は、「相手との距離を縮める」ことが脳科学研究でわかっている。
長年「記憶の仕組み」について研究を重ねてきた大阪大学名誉教授で、脳情報通信融合研究センターの苧阪(おさか)満里子氏によると「食べものを贈る行為は、相手の脳に“報酬”を与えている」という。
「社会的な関わりで働く脳を『社会脳』といい、社会脳には『報酬系』というものがあります。報酬は人間の行動を導く強い動因となっています。報酬系が働くと、ポジティブな思考になったり嬉しさや楽しさなどの感情が得られたりするんですね」
報酬には3種類――生命維持のための食べものや性行動と関わる「生理的報酬」、毎日仕事をして金銭を得るなどの「学習的報酬」、そして自分と他者との関係によって得られる高次な「社会的報酬」がある。特別な食べものをプレゼントすることは相手に生理的報酬を、そして目に見えない自己と他者の心のつながりである社会的報酬を与えているのだ。
■気持ちを込めた言葉を添えるとより効果的
「社会脳では報酬を得ると、黒質(図)から神経伝達物質であるドーパミンが分泌されます。これが線条体という部分に届くと、人に充足感をもたらすんです。贈り物を渡す際に、気持ちを込めた言葉を添えるとより効果的でしょう」(同)
![チョコレートの効果](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/1/450/img_11b07e0483f7cb1ecceb757ec0c3b680757626.jpg)
贈られた側は、脳が報酬を得て「嬉しい」「幸せ」と感じる。すると、贈り物をくれた人のことや、そのシーンがより記憶に残りやすいというから驚きだ。東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授が「感情と記憶の関係」を説明してくれた。
「ものすごく嫌な経験も記憶に残りますが、日常生活の範囲ではポジティブな感情と記憶のほうが結びつきやすい。感情を司る扁桃体と、記憶を司る海馬が近い位置にあって、お互いに影響を与えるんです。ですから贈られたほうが嬉しいと感じると、記憶に残る。記憶として残るとfamiliarity(親密度)が上がります」
ちなみに恋愛感情は「親密度が高いほど起きやすい」という報告があるため、何かの機会を口実に好きな人においしいものを贈る行為は花マル。女性から男性だけでなく、ホワイトデーのように男性から女性へのプレゼントもいい。多くの研究から女性の脳は「共感性」が高い傾向があるとされているため、男性から女性に贈り物をすることは「“あなたを想っている”と脳の共感に訴える行動で、想いが受け入れられやすい」(瀧教授)とのこと。
そして冒頭に記したように、特別なイベントでない日常でも、さらには恋愛だけではなくビジネスの場面でも、「食べもののプレゼント」は親密度アップに役立つ。
神経内科専門の医師で作家の米山公啓氏から興味深い話を聞いた。最近のMR(製薬メーカーの営業マン)がつまらないと言うのだ。
「かつてのMRとは一緒にゴルフをしたり食事に行ったり、楽しい時間を共有することが多かった。私が書いた本も読み、その感想を話してくれたり、こちらの趣味を研究して新情報を教えてくれることもありました。ところが今は業界団体の規制もありますが、好奇心旺盛な人が少なくなって薬の話しかしないMRばかり。面白い話題がなく、相手の話を聞く気も起きません」
お互いに相手への興味がわかず、距離が縮まらない状況では、とても信頼関係は築けないだろう。信頼性が低い相手からの話は聞きたくもなく、結果的にビジネスチャンスが広がらないという悪循環に陥る。
■チョコ×サプライズで効果倍増
ビジネスで取引先と親しくなるための第一歩は「手土産」を持参することだ。お勧めはチョコレート。高級品でなくても産直物や歴史あるチョコを選べば会話のきっかけになるし、素材が厳選されたものなら相手の幸福度や健康に貢献するからだ。
働いている30~40代を対象に、菓子と自律神経機能との影響を調べた研究がある。すると、キャンディやビスケットよりも、チョコを食べたときのほうが副交感神経の活動が高まり、脳がリラックスすることがわかった。
「相手の脳を心地よくさせることが大切。心地よいと記憶に残りやすいですから」と米山氏が補足する。
原料であるカカオには、カカオポリフェノールが豊富に含まれ、幸せホルモンといわれる神経伝達物質の「セロトニン」を増加させるのだ。砂糖からくる甘さがなくても、人の幸福度に貢献する点が素晴らしい。
管理栄養士の望月理恵子氏も「チョコには、気分を変える効果がある」と説明する。
「カカオポリフェノールにはカフェインのような興奮作用が少なく、不安を減らし、気持ちを落ち着かせるという報告が複数あります。毛細血管を広げて全身の血流を促したり、善玉コレステロールを増やして悪玉コレステロールを減らす、高めの血圧を下げるなどの生活習慣病予防の効果もあるんです」
カカオ70%以上のチョコを1日25グラム(1枚5グラムを5枚)、1カ月摂取すると酸化ストレスが低下し、記憶や学習などの認知機能と関連するBDNF(神経栄養因子)に良い影響があるという報告も。
シンプルな原材料で作られるビターなチョコとともに「こんな効果があるんです」と一言添えて手渡してみてはいかがだろう。ちなみに渡す際には“サプライズ”がベスト。相手の脳が「予想外の報酬」と感じて、喜びが大きくなる。
ちなみに私の場合は、初めて先方(主に編集部)に伺う際は食べものの代わりに「企画案」を数多く持参する。そして2回目に会える機会があれば、会話が広がりそうな、チョコレートをはじめとした好きな菓子を持参する(プレジデント編集部のみなさん、そうでしたよね?)。
要は恋愛でもビジネスでも、相手との距離を縮めたい場面で「手ぶらで行くな」ということだ。
さて、もしあなたが贈り物をもらう立場になったら? ぜひ笑顔を返してあげてほしい。贈り主はあなたの笑顔を“脳の報酬”として受け取るからだ。
双方が「嬉しい」「渡してよかった」という気持ちになれたとき、お互いの脳にしっかりと記憶され、親密度がぐっとアップするに違いない。
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ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)など。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子 写真=Getty Images 図版作成=大橋昭一)
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