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なぜ政府の新型コロナ対策は「信用できない」と感じられるのか

プレジデントオンライン / 2020年3月24日 11時15分

参院予算委員会の冒頭、新型コロナウイルスに関する政府対応を説明する安倍晋三首相(中央)=2020年3月2日、国会内 - 写真=時事通信フォト

新型コロナウイルスの感染拡大で、政府の対応に批判が集まっている。法政大学の上西充子教授は「今回の対応に限らず、『桜を見る会』や検察官の勤務延長など、安倍政権は国会で論点ずらしやはぐらかしの答弁を繰り返してきた。批判の根底には、不都合な事実を隠す姿勢の積み重ねがある」という——。

■乱発する「論点ずらし」が招いた不信感

——上西教授は安倍政権の答弁姿勢を継続して批判していますね。

はい。たとえば先の国会では2019年11月から「桜を見る会」をめぐって野党の追及が本格化しました。しかし安倍首相はいつもの手法で答弁し、追及逃れを繰り返しました。質問を正面から受け止めず、「論点ずらし」「はぐらかし」の答弁だと言えます。

田村智子(日本共産党)】総理、つまり、自民党の閣僚や議員の皆さんは、後援会、支援者の招待枠、これ自民党の中で割り振っているということじゃないんですか。これ、総理でなきゃ答えられない。総理、お答えください。総理でなきゃ答えられない、総理でなきゃ答えられないですよ。
安倍晋三(内閣総理大臣)】いや、今説明しますから。桜を見る会については、各界において功績、功労のあった方々を各省庁からの意見等を踏まえ幅広く招待をしております。招待者については、内閣官房及び内閣府において最終的に取りまとめをしているものと承知をしております。私は、主催者としての挨拶や招待者の接遇は行うのでありますが、招待者の取りまとめ等には関与していないわけであります。その上で、個々の招待者については、招待されたかどうかを含めて個人に関する情報であるため従来から回答を差し控えさせているものと承知をしておりますが、詳細についてはですね、詳細については政府参考人に答弁させます。
(2019年11月8日 参議院予算委員会でのやり取り)
上西先生(写真=)
上西充子教授(写真=菅原雄太)

桜を見る会は首相が主催し、国費で毎年開催されてきました。本来は「各界の功績・功労者」などを招くものですが、首相の後援会や支援者も数多く招待されていた疑惑が持ち上がりました。

野党議員が「招待枠を自民党の中で割り振っていたのでは?」と質問しました。対して安倍首相は「私は、主催者としてのあいさつや招待者の接遇を行うのでありまして、招待者の取りまとめ等には関与しておりません」と答弁しています。

この答弁はまさに「論点ずらし」です。

安倍首相は、招待者の募集、推薦、招待という一連のプロセスの最後の、推薦者を内閣府や内閣官房が取りまとめて招待状を送るプロセスに限定して、それに「関与していない」と答えているだけなんです。

その後、野党側が入手した文書によって、安倍事務所が後援会関係者を幅広く募っていたという事実が否定できなくなり、安倍首相も認めるに至ります。

けれども当初は、安倍事務所が後援会関係者を幅広く募っていた事実を隠し、あたかも募集には関与していないかのような印象をもたせる答弁を行っていたんです。

■「ご飯論法」が明らかにした答弁の不誠実さ

——「ご飯論法」の典型例ということですね。

そうですね。安倍首相は2020年1月の衆院予算委員会で「私は幅広く募っているという認識でした。募集しているという認識ではなかった」と答え、話題になりましたね。これは「ご飯論法」の失敗例になりましたね。

——「ご飯論法」という言葉が誕生した経緯を教えてください。

「働き方改革関連法案」が争点になった2018年の通常国会で、加藤勝信厚労相が意図的に質問の論点をずらした答弁を続けていた問題に気づいてほしくて、それを朝ごはんをめぐるやり取りにたとえてツイートしました。

1日で1000を超えてリツイートされました。これを見てブロガーの紙屋高雪さんが「ご飯論法」と名付けたことでさらに拡散されました。

出典:2018年5月6日、上西充子教授のツイート。
出典:2018年5月6日、上西充子教授のツイート。

「朝ごはんは食べましたか?」と聞かれているのに、「ご飯(白米)」を食べたのかを問われていると勝手に論点をずらし、「ご飯は食べませんでした」と答える。朝食を抜いたのかと思いきや、実際はパンを食べていた、にもかかわらず……。

上西充子教授
上西充子教授(写真=菅原雄太)

パンを食べていたというのが、明らかにしたくない不都合な事実にあたります。「朝ごはん食べましたか?」と聞かれて「何も食べていない」と答えれば虚偽答弁になってしまいますから、そうは絶対に答えません。けれども、パンを食べたことは隠し続けるわけです。詭弁(きべん)以外の何ものでもありませんが、安倍政権はこの論法を国会で多用してきました。

一見すると語り口は丁寧で誠実な答弁ですが、実際は、質問に正面からは答えていません。答弁を注意深く見てみると、随所に論点ずらしやはぐらかしがあります。

政権が野党から追及されると、ご飯論法が現れます。政権側と野党の議論はかみ合わず、質問時間だけが空費される。そんな国会審議が延々と続いているのが現状です。

■「図形の証明問題の補助線みたいなもの」

——2018年の新語・流行語大賞にもノミネートされましたね。

私自身はご飯論法という言葉だけが広まることにあまり意味はないと思っています。言葉だけが広がるのは、レッテル張りと同じですよね。

ご飯論法は、図形の証明問題の補助線みたいなものだと思っています。補助線を引くことによって見えてくるものがある。私はこの言葉を通じて、「パン」を見てほしい。隠された不都合な事実をしっかり見てほしい。ご飯論法は、そのためのツールです。

——答弁を引き出せないのは「聞き方」に課題があるのではないでしょうか。

野党議員の聞き方、質問力も問われますが、決してそれだけではありません。野党議員の中には、ゆるい質問を繰り返す人もいないわけではないですが、しっかり勉強をして緻密に質問を練り上げ、論で詰めようとする人もいます。

質問する側の問題と言うよりは、答弁する安倍首相や閣僚の姿勢の問題だと思います。野党の追及が甘いという見方は、まさに政権の思うつぼでしょう。

「働き方改革」や入管法の改正、統計不正の問題でも答弁姿勢は同じです。政権にとって不都合な事実が隠されたまま、議論は深まらずに時間だけが過ぎていく。国会が正常に機能しているとは言えません。

■ご飯論法は「不都合な事実を隠す」ための手段

——国会では、新型コロナウイルスに関連する議論が中心になっています。

上西充子教授(写真=菅原雄太)
上西充子教授(写真=菅原雄太)

桜を見る会や、検察官の勤務延長など、今年の国会でもご飯論法がたくさん登場しています。ご飯論法が出てきたら、政権にとって不都合な事実が隠されていると言っていい。

私は、ご飯論法が出てくるたびに論点をすり替えて、常に国民を騙(だま)し続けていると考えています。その過程で生まれていった不信感の積み重ねが、新型コロナウイルスの政府の対応への批判の根底にあるのではないでしょうか。

新型コロナウイルスの感染が広がっている、その不安の中で暮らすのは大変です。でも、政府の言うことをうのみにしない姿勢は常に持っておくべきだと思います。

そんな緊張関係があって初めて政府はまともに政策をやるんだと思います。私たちが安心しきってお任せにしちゃっていると根拠がないまま、好き勝手にやってしまいますから。

国会は疑惑追及だけでなく、新型コロナウイルスの生活への影響など国民に身近な疑問を政権にぶつける場でもあります。閣僚の答弁が信用に足るものなのか、しっかり見ていく必要があります。

■新型コロナ対応で「政権がどこを向いて仕事をしているかが分かる」

——新型コロナウイルスをめぐる国会審議は、どんな点に注目していますか。

私の専門は労働問題なのですが、大規模な自然災害と同じで、弱い立場にある人により大きなしわ寄せが行くことになります。飲食店やホテルなど、すでに多くの業界でコロナショックのあおりを受けています。

企業は苦しくなれば、非正規で働いている人を真っ先に切るでしょう。「もう来なくていい」と言われてしまえば、持ちこたえる体力もなく、生活に行き詰まってしまいます。そういった方の生活を支える政策がどうなるか、注視をしています。

正社員であれば、時短勤務や一時休業で雇用を維持しようと企業も努力するでしょう。事業活動の縮小を余儀なくされた企業に対しては、休業手当として支払ったお金が助成される制度もある。

けれども、非正規はいきなり切られるリスクが大きい。そうなるとダメージは大きいですよね。そういう方の生活をしっかり守るのか、切り捨てるのか、そもそも苦境を見ないことにしてしまうのか。政権がどこを向いて仕事をしているかが分かる。

■国会をみよう、と訴える本当の理由

——新著『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)では国会の「正常化」が必要だと訴えていますね。

上西 充子『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)
上西 充子『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ)

端的に言えば、聞かれたことにちゃんと誠実に答える国会です。

現状では、論点ずらしやはぐらかしが横行して、正面から質問に答えようとしません。そんなやり取りを平然と続けているのが今の国会です。論理的なやり取りが成立する状況にしなければいけません。

国会パブリックビューイングやご飯論法という言葉は、国会を可視化させるための手段です。多くの人がリアルな国会を見るようになって、「お前らいい加減にせい!」と声が上がれば、状況は改善されると考えています。

野球やサッカーなどのスポーツ中継は、選手の紹介や戦術の特徴が紹介されます。さっきのプレーはどうだったか、スローモーションで解説もありますよね。同時解説はできませんが、国会もそうなればもっと身近なものになると思います。

■「おまかせ」や「お客さん」のままではダメ

——まずは国会を見てみよう、ということですね。

国会を可視化することで国会の正常化を目指したいと考えています。編集された映像ではなく、ありのままの国会審議を見てほしいと思います。審議の過程にこそ注目してください。

上西充子教授
写真=菅原雄太
上西充子教授 - 写真=菅原雄太

野党議員が何をどのように追及しているのか、各党の法案への向き合い方も見えてきます。もちろん答弁する安倍首相や閣僚の姿勢も見えてきます。政治が私たちの暮らしに直接かかわる問題であることが見えてくれば、「おまかせ」や「お客さん」のままではダメだと実感してもらえると思います。

まずは、国会を見ることからはじめましょう。

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上西 充子(うえにし・みつこ)
法政大学 キャリアデザイン学部教授
1965年奈良県生まれ。東京大学教育学部卒業後、同経済学部に学士編入して卒業。同大学院経済学研究科第二種博士課程単位取得満期退学。日本労働研究機構(現在の労働政策研究・研修機構)の研究員を経て、法政大学キャリアデザイン学部教授、同大学院キャリアデザイン学研究科教授。専門は労働問題。2018年6月より、「国会パブリックビューイング」の代表として、国会の可視化に向けて取り組んでいる。2018年の新語・流行語大賞トップテンに選ばれた「ご飯論法」の受賞者のひとり。2019年、日隅一雄・情報流通促進賞の奨励賞を受賞。

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(法政大学 キャリアデザイン学部教授 上西 充子 構成=菅原雄太)

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