「消費税0%」コロナショックで安倍官邸が検討する禁断の一手
プレジデントオンライン / 2020年3月17日 19時15分
■経済立て直しは「ポイント還元」では足りない
「現在はあくまで感染拡大の防止が最優先ですが、その後は日本経済を再び確かな成長軌道へ戻し、皆さんの活気あふれる笑顔を取り戻すため、一気呵成(かせい)にこれまでにない発想で思い切った措置を講じてまいります。その具体的な方策を政府・与党の総力を挙げて練り上げて参ります」
3月14日夕、安倍晋三首相は首相官邸で開いた記者会見で声を張り上げた。今の経済状況は極めて深刻だ。会見から3日後の17日には日経平均株価(225種)の終値は1万7000円レベルだった。既に「危険水域」を突破しており、大胆な経済対策は待ったなしの状態になっている。
本来であれば新年度予算案の国会審議が続いている時に追加経済対策や補正予算の議論をするのはタブーだ。野党側から「ならば本予算案を組み替えればいい」と横やりを入れられて予算案審議がストップする恐れがあるからだ。しかし、今は、そんなことは言っていられない。野党も審議を拒否すれば、自分たちに批判が集まることを知っている。
現段階で経済対策の柱として語られているのは、キャッシュレス決済時のポイント還元の延長・拡充や、子育て世帯などへの現金給付などがある。だが、これらはいずれも「想定の範囲内」の対策だ。特に「ポイント還元」については、昨年10月に消費税率が10%に上がった際の景気冷え込み策と目されていたが、その期待を見事に裏切ったことは実証済みである。今は「異次元」の対応が求められる。
■「消費税率の引き下げ」の議論はあり得なかったが…
そこで浮上しているのが消費税減税論だ。消費税は1989年に導入されて以来、約30年の間に3%、5%、8%、10%と税率が上がってきた。1度も下がっていない。
それは、財務省が消費税減税に絶対反対の立場を貫き、多くの自民党議員も財務省に同調しているからだ。少子高齢化が進み社会保障費の増大が避けられない状態の中、安定的な税源である消費税は、税率を上げる議論をすることはあっても、下げる議論はあり得なかった。
消費税は税率を上げる際、大変な政治的エネルギーを要してきた。1度下げると、再び上げるのは途方もない苦労がいる。それは回避したかった。
しかし、それはコロナショック前の話。リーマンショック以上といわれるピンチの今、消費税減税もタブーとせずに議論すべきだという意見が高まりつつある。
■実質的には「消費税を0%にする」という意味になる
自民党の安藤裕衆院議員ら若手有志は11日、西村康稔経済再生担当相と面会し「消費税は当分の間軽減税率を0%とし、全品目に適用する」よう提案した。形式的には軽減税率の拡大だが、実質的には「消費税を0%にする」という意味になる。
「消費税0%」は、昨年の参院選、れいわ新選組の山本太郎代表が主張したことで知られる。当時は他の野党でも荒唐無稽と受け止められたものだ。しかし新型コロナ問題が起きてから一笑に付される対象ではなくなってきたようだ。
安藤氏ら以外にも、自民党若手・中堅を中心に消費税率の一時引き下げ論が高まってきている。
安倍氏は14日の会見で消費税減税について問われ「自民党の若手有志の皆さまからも、この際、消費税について思い切った対策を採るべきだという提言もいただいている。今回(昨年10月)の消費税引き上げは全世代型社会保障制度へと展開するための必要な措置ではあったが、今、経済への影響が相当ある。こうした提言も踏まえながら、十分な政策を間髪を入れずに講じていきたい」と発言。わざわざ若手の提言を口にして思わせぶりなことを言っている。
安倍氏はもともと財務省の「増税史観」に懐疑的で、消費税率アップを先送る決断も経験済みだ。自民党内では消費税増税には最も慎重な考えの1人ともいえる。もし、昨年の今ごろ「新型コロナ」がまん延していたら、昨年10月の「消費税10%」は先送りしていただろう。ならば、時限的に8%に戻す選択をしてもおかしくない。
■決断すれば一気に「史上初の消費税減税」に走りだす
安倍氏は13日、甘利明党税調会長を首相官邸に呼び、会談している。甘利氏は安倍氏とはウマが合う。しかも政治的嗅覚が鋭い。決断すれば一気に「史上初の消費税減税」に走りだす陣立てができあがるだろう。
消費税率引き下げについて、自民党内では今も反対論が多数派であることは事実だ。二階俊博幹事長も「(いったん税率を下げて)いつ元に戻すのか。誰が責任を取るのか」と語っている。しかし「新型コロナ」の感染と、それに伴う経済危機の拡大が続けば「危機を乗り切るには消費税減税しかない」という声が、オセロゲームのように急増するだろう。
自民党若手が提案しているように税率「ゼロ」にするのはさすがに現実的ではないが「5%」あたりが落としどころという声があがる。東京五輪・パラリンピックが延期になるのを見越して「五輪後まで2年間」減税するという案が浮かぶ。
■「減税」先食いで野党共闘分断という狙いも
実は政局面でも、消費税減税を行う「メリット」がある。ズバリ、野党勢力の分断だ。
先に触れたように、れいわ新選組の山本氏は「消費税ゼロ」を掲げている。野党内では次の衆院選に向けて「消費税」を旗頭に結集を目指そうという動きがある。
立憲民主党と国民民主党の合流が不調に終わるなど野党結集は遅々として進まない。しかしコロナショックは、野党を消費税減税で接近させる触媒になる可能性がある。野党連合が完成すれば、安倍政権にとっては脅威だ。
「その前に機先を制するという政治判断は、当然ある」
ある自民党中堅議員が語る。安倍氏はこれまでも、消費税増税を凍結する決断を争点に掲げて衆院を解散するなど、巧妙に野党との争点ぼかしをしてきた。今回も同じ手法が頭の中にあることだろう。
安倍氏は17日昼、首相官邸に岸田文雄党政調会長を呼び経済政策をまとめるよう指示した。会談後、岸田氏は「大筋の方向性は一致しました」と記者団に語った。「大筋の方向性」の中に消費税の減税も含まれているのか。今月中には結果が分かるだろう。
(永田町コンフィデンシャル)
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