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少子化&出版不況なのに「学習参考書」が右肩上がりにある4大理由

プレジデントオンライン / 2020年3月24日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227

少子化にもかかわらず、学習参考書の市場が拡大している。ライターの飯田一史氏は「この10年で参考書のトレンドが大きく変化した。それまで参考書は『勉強のできる子向け』だったが、『勉強嫌いの子向け』の参考書が増えて、市場が拡大している」という――。

■「全国一斉休校」で“特需”の学習参考書

新型コロナウイルスに伴う全国一斉休校の余波で家庭学習ニーズが高まり、学習参考書(学参)の売れ行きが好調だ。

出版取次大手の日本出版販売が3月3日に発表した「総合週間ランキング(2月24日~3月1日、3月3日調べ)」では、売れ行き上位20冊のうち、5冊の学習参考書がランクイン。前週まで学習参考書は1冊もなく、全国一斉休校で急浮上したと言える。

※出典:日販ウェブサイト

「特需」に沸く学参市場だが、実は、少子化が進んでいるにもかかわらず、近年は市場規模が拡大している。

出版科学研究所『出版指標年報』によると、2018年の学参市場規模は前年に大ブームを巻き起こした小学生向けの『うんこ漢字ドリル』(文響社)が落ち着いた影響もあって457億円(前年比5.9%減)にとどまったが、書籍市場全体が縮小している中で2011年から7年連続で成長を続けてきた。

書店店頭でのPOSデータ(金額ベース)の対前年比でみると、2011年約6%、12年約3%、13年約2%、14年約6%、15年約7%、16年約4%、17年約8%のプラスと、学参市場は少子化にもかかわらず右肩上がりで成長してきた。

この10年の市場拡大の裏には、大きく4つの変化がある。学習参考書の市場をリードしている学研プラスの編集者の話を交えながら解説しよう。

■「なんでも載っている参考書」からの脱却

▼ポイント1.「やりきれる」ように量を絞る

この10年で最大の変化は「基礎向け」の参考書が増えたことだ。掲載する情報量を絞り、勉強が好きでない子でも「やりきれる」ことに重点が置かれている。『ひとつひとつわかりやすく。』(2009年刊、中学シリーズ全25点で累計333万部)は、その代表例だ。

1冊あたりは100ページ程度で、見開きで1つのテーマを解説して盛り込む内容を極力抑えている。例えば、中1英語の主語と動詞について解説するページでは、「英語の文には主語と動詞が必要、ということだけを知っておくだけでOKです」という具合だ。イラストや図解が大きく示し、練習問題は勉強が苦手な子でも簡単にこなせる内容だ。

『ひとつひとつわかりやすく。』
写真提供=学研プラス
『ひとつひとつわかりやすく。』 - 写真提供=学研プラス

刊行当初は「思い切って削っている」と言われた『ひとつひとつわかりやすく。』は、今では「スタンダードな参考書」と言われるようになったという。

これまで参考書を愛用していた「勉強をする/勉強ができる層」に加えて、「それほど勉強しない/勉強が苦手な層」に対象を広げることで、学参市場そのものが拡大していった。

■存在感を放つ「コラボ」学習参考書

▼ポイント2.人気アイドル、ブランド、キャラとの「コラボ」

「普通の子向け」の学参が増えたことから、中身を削るだけでなく、外側も取っつきやすくする流れが生まれた。それがアイドルやブランド、人気キャラクターとコラボした「ライト学参」だ。

アイドルの代表例としては、AKB48が表紙や参考書の中に起用された『AKB48学習参考書』シリーズ(2011年刊)。ブランドの代表例としては、セシルマクビーとコラボした女子中学生向け参考書『セシルマクビー スタディコレクション』(2015年8月刊)、メゾピアノとコラボした女子小学生向けドリル『メゾピアノ ドリルコレクション』(2016年4月刊)がある。

写真提供=学研プラス
『セシルマクビー スタディコレクション』
写真提供=学研プラス
『セシルマクビー スタディコレクション』 - 写真提供=学研プラス

こうした「ライト学参」は子どもたちの勉強に対する気持ちをアゲる効果があるだろう。またファッションブランド側も、「弊社からの提案に対しては『今までにない方法でブランドを周知できる』と先方も乗り気になってくれました」とのことだ。

■子どもたちが勉強するきっかけを作る

人気キャラクターとコラボでは、ボーカロイドを用いた楽曲で英単語や理科、社会などを学ぶ中高生向け参考書『ボカロで覚える』シリーズ(2016年4月刊、シリーズ4点で58万部)、『スター・ウォーズ』の名台詞の原語と日本語訳を収録した『スター・ウォーズ英和辞典 ジェダイ入門者編』(2014年11月刊)も話題になった。

『ボカロで覚える』シリーズ
写真提供=学研プラス
『ボカロで覚える』シリーズ - 写真提供=学研プラス

しかし、こうした「ライト学参」で本当に学力は上がるのだろうか。買っても本当は勉強していないのではないか。学研の担当者は「まずは勉強してもらうことが重要だ」という。

「堅苦しい学参であれば手に取りすらせず、テスト前にも勉強しなかった子が『これならやれる』と思って机に向かう、テスト前に本を開いてみるだけでも大きな変化ですよね。そこから勉強の楽しさに目覚めてほしいと思っています。その結果、いつもよりテストでいい点を取れたら、ほかの参考書や教材もがんばれるようになります。実際、弊社にもそういう声が届いています」(学研プラス 小中学生事業部・宮崎純氏)

■机以外の場所でも使える参考書が市場を広げた

▼ポイント3.「机に向かう」を前提にしない

「内容」だけでなく、「勉強する場所/シーン」に対して提案する学参も出てきた。たとえば『寝る前5分暗記ブック』(2013年4月刊、シリーズ3点で約129万部)は「寝る前5分の暗記」にフォーカスして持ちやすいハンドブックサイズで展開して大ヒット。

また、中学生になるとノートではなくルーズリーフを使う子が増えることに目を付け、コクヨとの協業のもと、一枚一枚外して自分が普段使っているルーズリーフと組み合わせて持ち運ぶこともできる『ルーズリーフ参考書』(2017年2月刊)が生まれ、さらにリングカード式のやはり切り取って持ち運べる小学生向けの『小学全漢字覚えるカード』(2017年10月刊)も登場した。これらは一枚ずつでは非常にコンパクトなサイズになり、移動中の勉強需要にも応えるものになっている。

従来の「勉強する子」に「あまり勉強しない子」を加えて顧客層を広げただけでなく、従来の「机に向かって勉強」以外に「寝る前のベッドや布団」「通学中」といった利用場所も広げることで、さらに市場を広げたたわけだ。

■自ら学び、考える力を養う参考書

▼ポイント4.暗記以前の「学び方」教える

そんなに勉強が好きではない子たちに対して、いったいどんな学習手段を提供すればいいのか。そこから生まれたシリーズが『わけがわかる』シリーズだ。

コンセプトは「脱・丸暗記」。たとえば暗記科目と思われがちな社会科の場合、「選挙の投票率が低いと、どんな問題がある?」と投げかける構成となっている。投票率の低さという入り口から、選挙に行かない理由や選挙制度の仕組みに関心を広げていく仕掛けだ。

写真提供=学研プラス
『わけがわかる』シリーズ。表ページで問題を投げかける。 - 写真提供=学研プラス
写真提供=学研プラス
『わけがわかる』シリーズ。ページをめくると、投票率の低さという入り口から、選挙に行かない理由や選挙制度の仕組みを幅広く解説。 - 写真提供=学研プラス

2016年11月刊行の『おはなし推理ドリル』シリーズ全6点は、小説を読んで作中の出来事について推理して設問に答えていく。「謎」や「推理」という入り口から、国語の勉強ができる仕掛けになっており、シリーズ6点で21万部と好調だ。

■「突拍子もない提案でも積極的に採り入れる」

ところで、なぜ学研はこうした新しい学参を次々と誕生させてきたのか。学研の宮崎氏は「いままで参考書を買わなかった人が買うような新しいものを作らないと『参考書はオワコンになる』とさんざん言われてきた」と話す。

「少子化を嘆いても仕方がない。学参市場トップであるわれわれが、その中で最も売れている『ひとつひとつわかりやすく。』を超えるヒットを作ろう、スキマを狙うのではなく『次の王道・定番』を作ろうと部署一丸となって取り組んできました」

本稿で紹介してきたヒット作の多くは、配属されて1、2年目の社員発の企画だ。半分素人と言っていい社員からの突拍子もない提案だったが、それをベテランの編集者たちが正面から受け止め、若手といっしょになって企画を揉み、中身を詰める。その結果、切り口は斬新だが、学研ブランドの参考書として安心感のあるタイトルが次々に生まれた。

市場の衰退を傍観するのではなく、「まだ開拓されていない領域があるはずだ」とチャレンジする。そのチャレンジは結果として市場そのものを拡げることになった。これは出版市場に限らず、あらゆるビジネスにおいてヒントになる事例ではないだろうか。

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飯田 一史(いいだ・いちし)
ライター
マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査してわかりやすく解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃─ネット発ヒットコンテンツのしくみ』(筑摩書房)など。グロービスMBA。

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(ライター 飯田 一史)

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