女性同士の内縁関係でも「不倫に110万円の慰謝料」が認められた理由
プレジデントオンライン / 2020年3月26日 9時15分
■事実婚でも浮気の慰謝料は取れる
世の中には、婚姻届は提出していないものの夫婦同然の生活を送っているカップルも数多くいます。
それでは、そのようなカップルの一方が相手以外の異性と不貞行為をした場合、不貞行為をされた側は、パートナーに対して慰謝料を請求することができるのでしょうか。
この点、法律婚においては皆さんもご存じのとおり、不貞行為をされた配偶者がパートナーに対して慰謝料を請求することが可能です(民法709条)。夫婦間ではお互い貞操義務があり、配偶者以外の異性と性行為をすることが禁止されているためです。
そして、法律婚ではなく、事実婚状態であっても、男女間に法律上婚姻関係に準じるものとして保護される「内縁」関係が成立している場合には、不貞行為の慰謝料を請求することが可能です。
それでは、内縁とはどのような状態を指すのでしょうか。
最高裁は、「内縁」とは、双方に婚姻意思があり、社会的に夫婦として共同生活を送ってはいるが、法律で定められた婚姻届け出を提出していないため、法律婚とは認められない男女の関係を指すとしています(最高裁昭和33年4月11日判決)。
■どういった状態なら内縁関係といえるのか
裁判では、そもそも内縁関係が成立しているかどうかが争いになる場合があります。
婚姻届を提出していないという点を除けば、一般の夫婦と同じという状態が内縁関係です。そのため、カップル同士が、長年交際していたり、単に同棲していたりしているだけでは、内縁関係が成立しているとはいえません。
裁判上、内縁関係が成立しているかどうかを判断する際に重視されるのは、次のような事実です。
①結婚式、披露宴を挙げていること
②婚約指輪、結婚指輪を交換していること
③長期間、同居していること
④子がいること
⑤親戚や知人が夫婦であると広く認識していること
上記のような事実があり、その事実を立証するための証拠があれば、法律上保護される内縁関係であると認定される可能性が高いと考えます。
ちなみに、内縁関係を解消する際にも、法律婚と同様の権利や義務が認められることになります。
すなわち、カップル間に財産があれば、財産分与を請求したり、カップル間に未成熟子(まだ経済的に自立できていない子供)がいて、父親が子を認知している場合には、父親に対して養育費を請求したりすることも可能です。また、不貞行為以外でも、婚姻関係を破綻させた責任のある当事者は、相手方に慰謝料を支払う義務を負うことになります。
■同性カップル間の不貞行為で慰謝料は取れるのか
それでは、同性カップル間で不貞行為があった場合は、慰謝料請求をすることは可能なのでしょうか。
現在の日本の法律では同性間の婚姻は認められていないため、「婚姻に準じる」関係である内縁関係も、同性間では認められないようにも思われます。
この点に関して、最近、画期的な判決が出ました。
女性同士のカップル間で、カップルの一方が他の男性と不貞行為をしたことにより破局したとして慰謝料を請求した事案がありました。それについて裁判所は、世界的にみれば、同性婚を認める国や登録パートナーシップの関係を公的に認証する制度を採用している国が相当数あり、日本国内においてもパートナーシップ制度を採用する地方自治体が現れてきていることから、同性間の内縁関係も婚姻に準ずる関係として法律上保護されるべきであるとしました。
そのうえで、本件では、同性カップルが約7年間同居していること、同性婚が認められているアメリカのニューヨーク州で結婚していること、日本でも結婚式および披露宴を開いていること、第三者からの精子提供による人工授精を受けることで妊娠・出産をすることを計画していたこと、子育てのためのマンションの購入を計画していたことなどを重視し、同性カップルが婚姻に準ずる関係にあったことを認定し、不貞行為をした側に110万円の慰謝料の支払い義務を認めました(東京高裁令和2年3月4日判決)。
■憲法にある文言の解釈は時代によって変わるか
この裁判例は、同性間で内縁関係が成立しているかどうかを判断するにあたって、同居期間の長さ、結婚式や披露宴を開いているかどうか、子の有無(あるいは子をもうけようとする意思や計画)という、異性間における内縁関係成立の有無を判断する際と同様の要素を重視しています。
このことから、裁判所は、異性、同性にかかわらず、夫婦同然の生活を送っていれば内縁関係として法律上の保護に値すると考えている、ということが分かります。
なお、一審(宇都宮地裁真岡支部令和元年9月18日判決)では、憲法24条1項が「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立する」としているのも、憲法制定当時は同性婚が想定されていなかったからにすぎず、およそ同性婚を否定する趣旨とまでは解されないとして、法律上、同性婚が認められる可能性についても言及していました。
確かに、憲法24条は、婚姻は「両性」の合意のみに基づいて成立していると規定していますが、憲法が制定されたのは今から70年以上も前であり、その当時には同性婚は想定されていませんでした。現在は、セクシャルマイノリティーや同性婚に対する理解もかなり深まっていることを考えると、「両性」という文言を形式的に判断するのではなく、条文をより柔軟に解釈することも可能なように思われます。
本件について敗訴した当事者が上告あるいは上告受理の申立てをしたのかどうかは不明ですが、個人的には、同性カップル間の慰謝料請求について、最高裁がどのような判断をするのか大変興味があります。
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弁護士
1982年生まれ。一橋大学法学部卒業。2010年、弁護士登録。福島市内の法律事務所を経て、現在は東京都港区の高島総合法律事務所に所属。離婚・男女問題に特に力を入れている。
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(弁護士 理崎 智英)
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