日曜祝日は休みなのに全国2000店もあるジムが狙った客層
プレジデントオンライン / 2020年3月27日 11時15分
※本稿は、榎本篤史『東京エリア戦略』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■24時間営業の低価格ジムが増えている
働き方改革が叫ばれている最中ですが、今もまだ多くの人が仕事に追われた毎日を過ごしていると思います。そんな忙しい現代人のために増えつつあるのが、フィットネスジムとコインランドリーです。
「結構前からあるのでは?」と思うかもしれませんが、今増えているそれらを見ると、これまでのイメージのジムあるいはコインランドリーとは少し違ってきています。本稿ではジムについて分析します。
「エニタイムフィットネス」は国内に700店舗、世界中で4500店舗もある24時間営業のフィットネスジムで、23区すべてに店舗があります。
24時間いつでも好きな時間に通えるのがポイントで、料金は店舗によって異なりますが、だいたい月額6800~7800円と低価格です。都心は9000円前後の店舗もありますが、コナミスポーツなどは月の利用回数無制限の場合は1万円以上しますので、安く感じる方も少なくないでしょう。
■時代に合わせて変化する商圏
一昔前は、人が多く定住しているベッドタウンのような街に巨大な施設を建てて、会員を3000人近く募るのがフィットネスジムの主流でした。コナミスポーツやセントラルスポーツなど、マシンはもちろん、プールやスタジオもある規模の大きなジムです。
ところが、今はそれだけ大きな施設をつくるのは企業側にとって投資が大きすぎる点がネックになりつつあります。プールはある程度の期間で再投資が必要だったりと、せっかく投資した分を回収できても、設備維持のためにまた投資をしなければならず、経営がなかなか厳しいという面があるのです。
その点、エニタイムフィットネスは、マシンを使ったトレーニングだけに特化しています。シャワールームとロッカーを整備し、あとはマシンがあればいいということで、スペースもそんなに使わず、大型施設に比べると、投資額は小さいです。
そのため、ビルの1~2フロアで展開している店舗が多い印象で、ベッドタウンエリアに限らずオフィス街エリアでもよく見かけます。コナミスポーツの店舗数が386店舗ですから、出店しやすい業態だということは間違いないでしょう。
会員になれば、どの店舗でも追加料金なしで利用できるので、休日に自宅の近くでも、平日に会社の近くでも、出かけた先の隙間時間でも、好きなときにどこでも通えます。忙しいけれどリフレッシュしたい、会社帰りに少しでも体を動かしたい、そういうニーズに応える新しいジムの形態と言えますし、都市部でも成功する商圏の広がりを感じます。
■サイゼよりモスより店舗数が多いジム
もう1つ、注目したいジムがあります。「女性だけの30分健康体操教室」を掲げているジム、「カーブス」をご存じでしょうか? 実は全国に2000店舗あり、会員数は約84万人にも上ります。
2000店というのは相当な数です。サイゼリヤで国内1000店、モスバーガーで1300店ですから、それより多くの店舗があるということです。もともとはアメリカで誕生した事業で、2005年に日本に1号店がオープンしました。
ただ、これだけ店舗があっても、都会の若いビジネスパーソンの方はカーブスを意外と知らないかもしれません。それは、顧客のほとんどが40~60代以上の女性だからです。ファストフードのような、人口全体を相手にしている業態ではなく、あえて女性だけ、しかも年齢層が40代以上とかなりターゲットを絞り込んでいる。それでこれだけの数を出店しているというのは驚異的に感じます。
■ターゲットとエリアをとことん意識したビジネスモデル
スタッフも全員が女性、1回30分のコースを予約なしで好きなときに行けて、普段着のまま運動できるとあって人気になっています。プログラム内容も、無理なく続けられる有酸素運動、マシンによる軽い筋力運動、ストレッチとハードなものではなく、年齢を重ねても健康増進のために女性が長く通えるようなものになっています。
月額7000円前後で、月に何度でも通えます。時間は午前10時から13時、午後は15時から19時まで、土曜は午前中のみ、日曜祝日は休みという形態が基本です。年齢層の高い女性が夜遅くに通うことは考えにくいですから、長時間営業をする必要がないというわけです。
カーブスも、エニタイムフィットネスと同じように、プールもなく、マシンを使った運動がメインなので、そんなに広いスペースは必要がありません。そのため、ビルの1フロアやマンション1階の店舗スペース、ショッピングセンター内、コンビニだった店舗を改装して出店したりしています。
■出店数が多くても競合しない「商圏の狭さ」という強み
23区で一番店舗数が多いのは世田谷区の16店舗です。大田区の11店舗、江戸川区と練馬区の10店舗、以下、板橋区、足立区、杉並区、江東区と続きますが、この出店傾向は区の人口量に沿っていると感じます。人口量が一番多い世田谷区が最も店舗数が多く、最も少ない千代田区に1店舗もないというのは、商圏のセオリー通りに出店を重ねている証拠でしょう。
しかし、若者が集うような港区と渋谷区は2店舗、中央区には1店舗だけとなっていて、やはり都心の流行最先端のエリアというよりは、年齢層が高めの女性たちが多く住んでいるようなエリア、スペースを借りる際の家賃も比較的安いエリアに出店していることがうかがえます。
カーブスはフランチャイズ展開によって全国に店舗を構えています。これだけの数があっても競合していないような現状を見ると、意外とカーブスの商圏の範囲は狭いのではないかと私は考えています。
■「地域コミュニティー」の代替の場になっている
大型施設でもなく、唯一そこにしかないマシンなどがあるわけでもないので、遠方からわざわざ訪れる場所ではないでしょう。しかし、それこそが強みなのです。
近隣の方が通いやすいところ、たとえばスーパーが近くにあって、女性がついでに通えるようなところがメインの出店先のようですが、ときどきかなりの田舎に出店しています。住宅街やロードサイド、商店街のはずれなど、「そんなところにあって儲かるの?」と首をかしげたくなるエリアにも出店しているのです。
なぜそういったエリアに出店しても成功しているのか、考えられる理由は、地元の女性たちのコミュニケーションの場として成り立っているからではないでしょうか。公民館のような地域コミュニティーの場は、徐々に減っていると思います。地域のイベントや集まりなども減少傾向で、地方であっても隣に住んでいる人を知らない場合が珍しくなくなってきています。
■地方都市にもどんどん出店できる
そんなとき、カーブスのような店舗があるとそれがコミュニケーションの場になると思います。激しい運動ではないですから、みんなで集まって楽しく汗を流し、おしゃべりしながら過ごす。同世代の女性、しかも近隣の方ばかりですから、話も弾むはずです。地方は都会より娯楽があるわけではないので、カーブスに通うのが1つの娯楽となっているのです。
そうであれば、過疎化が進んでいる地方都市にもどんどん出店が可能ということです。
わざわざ家賃の高い都心に店舗を集中させなくても、若い世代が少ないエリアで商売になるわけです。ターゲットの徹底した絞り込みと商圏を意識した出店戦略によるカーブスのビジネスモデルは、少子高齢化が進むこれからの時代には非常に秀逸であると言えるでしょう。
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ディー・アイ・コンサルタンツ代表取締役
2004年、ディー・アイ・コンサルタンツ入社。小売業、外食、サービス業、生活関連サービス・娯楽業など、流通全般の成長支援プロジェクトに参画。2017年より現職。著書に『立地の科学』(楠本貴弘との共著、ダイヤモンド社)、『すごい立地戦略』(PHPビジネス新書)などがある。
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(ディー・アイ・コンサルタンツ代表取締役 榎本 篤史)
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