新しいアイデアを生み出すためには過去を知らなくてはならない
プレジデントオンライン / 2020年4月11日 11時15分
■資本主義か社会主義か
本書の主張は極めてシンプルだ。それは「私有財産を禁止し、あらゆる資本を『使用権のオークション』によって取引することによって、『経済成長』と『格差の解消』という、多くの人が両立は不可能だと考えている問題を、同時に解決できる」ということである。
さて、この仕組みは果たして「資本主義」なのだろうか、それとも「社会主義」なのだろうか。答えは「そのどちらでもない」ということになる。この「どちらでもない」という点に実は大きなポイントがある。というのも私たちの閉塞状態は大概の場合、「2つのオプションのうち、どちらも最適解ではない」という状況で発生しているからだ。
私たち人間には「モノゴトを2つの枠組みで整理したがる」という性癖がある。「左派か右派か」「リベラルか保守か」「資本主義か社会主義か」「ビートルズかストーンズか」等々。しかし、過去の多くの科学的・社会的イノベーションが二項対立の枠組みそのものを破壊する「第3のオプション」によって提示されたことを忘れてはならない。
本書で著者2人が提示している新しい方向性もまた「資本主義と社会主義」という枠組みでは整理できないものだ。「私有財産の禁止」は言うまでもなく、すべての社会主義国家で実施された施策であり、その点では極めて「左派」的な提案と言える。しかし本書はそのうえで、所有を禁止されたあらゆる財産・資本を「使用権のオークション」にかけることで、財産・資本の死蔵を防ぐべきだと主張する。
■財産・資本の流動性は高まる
私有財産を禁止し、あらゆる財産・資本を「使用権のオークション」にかけることによって、それらの財産・資本は「もっとも効果的にそれらの財産・資本をもとにして経済活動を行える個人・組織」が活用することになり、結果的に財産・資本の流動性は高まる。また、それらの財産・資本の使用価値が低下してくれば、それらは改めてオークションにかけられ、結果的に高所得者から低所得者への財産・資本の移動が起きる。市場原理の働きをフルに利用する思想であり、そういう意味ではド真ん中の「資本主義」の考え方とも言える。
興味深いのは、著者らが提案するこれらの新奇(に思える)アイデアのほとんどが、実際には過去において提案、あるいはすでに実施されたアイデアである、という点だ。博覧強記と思しき著者の2人は、ありとあらゆる時代から事例のピースを引っ張ってきて主張の全体像を描き上げている。その点で、本書は「新しいアイデアを生み出すためには過去を知らなくてはならない」というリベラルアーツの教えの具体例とも言えるものだ。
閉塞状態にある時代において、著者の文字通り「ラディカルな提案」にはオプティミズムが満ち溢れている。一読をオススメしたい。
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独立研究者・著作家 パブリックスピーカー
1970年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経て現在は独立研究者、パブリックスピーカー等として活動。著書に『ニュータイプの時代』ほか多数。
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(独立研究者・著作家 パブリックスピーカー 山口 周)
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