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鎌倉で始まった「使うほど知り合いが増えるお金」の正体

プレジデントオンライン / 2020年4月2日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/helovi

地域活性化に力を入れる面白法人カヤックは「まちのコイン」という地域通貨を作った。その特徴は時間が経つと価値が減っていくこと。CEOの柳澤大輔氏は「『まちのコイン』は人と人のつながりを見える化するためにつくったお金です。使えば使うほど、地域の人たちが仲よくなってしまうのです」という――。

※本稿は、柳澤大輔『リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■消費を目的としない通貨が誕生した

リビング・シフト(東京から地方への移住)によって、お金の形そのものも変わっていくのではないでしょうか。なぜなら、自分の好きな地域に住む時代が来ると、その地域に対する帰属意識や愛情が強くなるので、地域通貨、つまり地域に密着したお金が進化していく可能性が高いからです。

今、さまざまな地域通貨が生まれています。

カヤックでも2019年に「まちのコイン」という新しい形の地域通貨事業を始めました。先日、神奈川県と連携し、鎌倉市で実証実験を行い、2020年春には小田原市でもプレサービスが始まりました。福岡県八女市では、導入に向けて住民とのワークショップを行っています。

「まちのコイン」は、いわゆる今までの地域内消費を増やすことを目的とした地域通貨とは違って、このお金を通して、お互いの地域の顔がもっとよく見えるようになったり、使えば使うほど仲よくなってしまうというもので、僕らはこれをコミュニティ通貨と名づけることにしました。

■知らない人と一緒に仲よく食事するときしか使えない

地域活動に参加したり、地域で困っている人を助けたり、人のつながりを深めるといった活動をすることでコインが獲得できます。そのコインは、地元の加盟店で利用することができます。ただ、単に地元のお店で使えますよというのではないところが「まちのコイン」の特徴です。使うときも、人のつながりを意識した使い方しかできません。

たとえば、ひとりでお店に入って、知らない人と一緒に仲よく食事するときしか使えない。バーのマスターの悩みを聞きながら楽しくおしゃべりするときだけ飲めるドリンクを設定するというようにです。コインをもらうときも使うときも、人のつながりを意識した設計になっているので、使えば使うほどまちのみんなが仲よくなってしまうのです。

技術的には、分散台帳技術を使っていて、地域の人が参加して、こういった独創的なメニューやプロジェクトをお店の人や住民がどんどんつくって、コインを付与したり、利用することができます。

ゲーミフィケーションの要素も入れています。活動に応じてレベルアップしたり、まちを歩いているとラッキーコインを拾うことができて、それを持っている間は獲得コインが1.5倍になるといった仕組みです。

■時間とともにお金の価値は減ってしまう

そして、大事なことは、このコインは円に換金できないこと、時間が経つと価値が減っていくことです。

まちのコインの特徴として「時間が経つと価値が減っていく」という話をすると、びっくりされます。価値を保存できるということは、お金の機能のひとつですから、あたりまえです。名目価値が変わらないからこそ、肉や野菜のように腐ってしまうこともなく、富を蓄えておけるわけです。

それどころか、銀行に預ければ、利息だってついてきます。お金を生産設備に投資することで、さらに利潤が生まれて、お金が増えていく。これが資本主義のメカニズムでもあります。

ただ、お金がお金を生み出す金融資本主義がいきすぎた結果、さまざまな弊害も生まれるようになりました。たとえば環境問題だったり、貧富の格差といった問題です。

そうした流れに歯止めをかけようと、「時間が経つと価値が減っていく」お金をつくろうというのは、今に始まった話ではありません。『モモ』『はてしない物語』(ともに岩波書店)で知られるドイツのファンタジー作家ミヒャエル・エンデは、『エンデの遺言』(NHK出版)の中で「老化するお金」「時とともに減価するお金」といったヨーロッパでの地域通貨の取り組みについて紹介しています。

■資本は売り上げや生産性だけではない

そもそも「まちのコイン」を始めようと思ったのは、これまで「見えない資本」とされていたものを定量化できないかと考えたことがスタートでした。

カヤックでは「地域資本主義」という考え方を提唱しています。GDPをはじめ経済成長を測る指標を追い求めすぎた結果として、環境破壊やいきすぎた貧富の格差が生まれているのだとしたら、別の指標を導入することで、持続可能な成長を実現できるのではないか。そして、そのヒントは、地域にこそあるのではないかと考えました。

地域にはさまざまな固有の魅力があります。たとえば、人と人のつながりや、美しい自然や文化などです。売り上げや生産性を生み出す従来の経済資本、つまり「地域経済資本」に加えて、そうした魅力を「地域社会資本」「地域環境資本」と捉え、三つの地域資本と考える。それぞれの地域が、地域資本を増大していくことで、横ならびにならない多様性ある魅力を育むことができるのではないだろうか。そんな考え方です。

■地域通貨の価値が高まるとどうなるのか

けれども、これまでのお金では、これまで定量化されてこなかった「地域社会資本」「地域環境資本」を測ることは難しいのではないでしょうか。仮に換算できたとしても、これまでのモノサシに収斂されてしまうからです。だったら、今のお金の補完となるような形で、新しい価値を測るお金、新しい価値を生み出すツールとなるようなお金をつくることはできないだろうかと思いました。

柳澤大輔『リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来』(KADOKAWA)
柳澤大輔『リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来』(KADOKAWA)

中でも、地域社会資本を見える化するためにつくったのが「まちのコイン」です。

つまり「まちのコイン」は、仲よくなるためのお金なのです。使えば使うほど、人が仲よくなってしまう。社会資本を増やし、社会資本を測る。それが「まちのコイン」の目指すところです。持っているだけで使わなければ、仲よしは増えません。だから、使わずに持っているだけだと価値が減っていってしまうのです。

「まちのコイン」のひとりあたりの流通の多い地域は、人のつながりが多く、社会資本が充実しているまちだということになる。だから、そのまちの企業も行政も市民も「まちのコイン」の流通量を増やそうという力学が働く。GDPを補う新たな指標になるのではないか。これまで定量化できなかった資本を地域通貨で測る。そんな試みです。

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柳澤 大輔(やなさわ・だいすけ)
面白法人カヤック代表取締役CEO
1998年、学生時代の友人と面白法人カヤックを設立。2014年12月東証マザーズ上場(鎌倉唯一の上場企業)。鎌倉に本社を置き、Webサービス、アプリ、ソーシャルゲームなどオリジナリティあるコンテンツを数多く発信する。著書『鎌倉資本主義』で、しなやかなつながりで幸せを実現する地域資本主義へのシフトを提案。近著に『リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来』。2017年に設立した子会社、株式会社カヤックLIVINGでは、まちづくりに関わる人や関心のある人が継続的に学び、共有し、ステップアップできる場としてオンラインサロン「地域資本主義サロン」を2019年12月にスタートした。

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(面白法人カヤック代表取締役CEO 柳澤 大輔)

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