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軽症の間に「かぜ」と「肺炎」を見分ける3つのポイント

プレジデントオンライン / 2020年3月27日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RyanKing999

「かぜ」と「肺炎」を見分けるにはどうすればいいのか。病理医の市原真氏は「かぜではなく肺炎の場合は、症状が強く、そのレベルは経験のないものになる。そうした場合は医療機関を受診するべきだ」という――。

※本稿は、市原真『どこからが病気なの?』(ちくまプリマー新書)の一部を再編集したものです。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、筆者が加筆・修正しています。

■かぜは「自力で勝てる感染症」

かぜは、「わりと短い期間で、人間が自力で勝てる感染症」のことをさす。

一方で肺炎とは、「人間が勝つのに苦労する、あるいはときには負けてしまうこともあるため、医療が慎重に手助けしたほうがいい呼吸器系の感染症」をさす。

本質的には、「放っておいても治るものがかぜ」。これが全てといっていい。

医療者はひっくり返るかもしれない。なんだその雑な定義は、と。でも診断をうける患者側はこの定義で覚えておいてかまわない。

典型的なかぜは、「鼻水、鼻づまり、ノドの痛み、だるさなど、複数の場所に複数の、軽度の症状が出てしばらく続いたあとに、特になにもせずとも治る」。

ここにはふたつのポイントがある。(1)複数の場所に軽い症状が出ていること、(2)時間経過と共に勝手に治ったということ。

(1)は治る前にある程度判断がつくが、(2)のほうは治るまでは判断できない、つまり時間経過を追って様子をみないとわからない判断基準であることに注意して欲しい。

たとえば、(1)をひっくり返してみよう。鼻水はないがノドだけがやけに痛い、あるいは鼻水も出ないしノドも痛くないが強いせきだけが出る場合(症状の場所が一箇所だけだが強い場合)は、実は「かぜっぽくない」のである。

例えば、ガンコなせきだけを症状とする場合、医者は(かぜにしては変だな、肺炎かもな……)と思って診療にあたる。

次に、(2)もひっくり返してみよう。何もしないで放置していたところ、熱が下がらず、せきが治まらず、全身のだるさがどんどん悪化した場合、つまりだんだん悪くなった場合は、「かぜっぽくない」。特に、せきと発熱が続くときには肺炎かもしれない。

■病気を見極めるには時間経過が必要不可欠

(1)はお手軽な判断基準だ。症状が複数の箇所に及ぶかどうか、というのは確認がしやすい。ただ、意外と医療者以外の人は知らない。

これに対し、(2)はなんだか手遅れ感がある。「黙って見ていて悪くなったらかぜではない」なんて、ひどい!

でもこれこそが医療の本質である。病気を見極めるには時間経過が命だ。そして、未来は決して100パーセント予測できるものではない。

時間をかけて見てみないとわからない部分が必ず存在する。

自力で治る(かぜ)自力で治せない(肺炎)
イラスト=うてのての

かぜはまさに、「時間経過を加味しなければ診断できない病気」の代表である。原因となるウイルスが複数あるために、○○ウイルスが原因なら絶対かぜだ、といった定性的な一本道診断は不可能。

たんを採ろうが、血液を採ろうが、CTを撮ろうが、わからないときはわからない。診察室にいる瞬間だけの判断で「かぜである」と診察しきることは難しい。

■ほとんどのかぜは診察室で予測ができる

こう書くと、なんだか現代医学もあてにならないなあ、と思うことだろう。でも、もう少し話を聞いてほしい。

実際には、ほとんどのかぜ(放っておけば治る軽度のウイルス感染症)は、診察室で「かぜでしょう」と予測が可能である。決定ではないのだが、かなり精度の高い予測ができる。その感覚は天気予報に近い。

人の体調にしても、天気予報にしても、今から1週間以内に起こることはわりと正しく予測できる。2週間後とか1カ月後の天気は当たらないことが多いが、これから3日間の予報が外れることはめったにない。

今日から3日間はたぶん雨が降るでしょう、と言われるのと、今日から3日くらい鼻水が続いて治るでしょう、と言われるのは、構造的にはかなりそっくりだと思う。どちらも基本的に当たる。

ただし、本当に雨が降り続いたか、本当にかぜだったか否かは、3日経ってみないとわからない。

このことを医者はよくわかっているから、降水確率が40パーセントくらいのときに念のため折りたたみ傘をカバンに入れてでかけるような気持ちで、患者に対して「かぜだと思いますが、悪化したらもう一度病院に来てください」と言う。

最も疑わしい確率にベットしておき、確率は低いがそれよりも一段悪い状況に備えておくのだ。

■人体の防御システムはすごい

かぜの理解を進めるために、人体についての知識をもう少し詳しく書く。

人間の体は、24時間・365日、常に外敵の脅威にさらされている。ウイルス、細菌、気温、湿度、日光、食物に含まれる毒性のある物質……これらの“敵”を、完全にゼロにすることは絶対にできない。

ゼロどころか、私たちは常に、数百万、数千万の「敵になるかもしれないもの」に囲まれて暮らしている。でも案ずることはない。

生まれてこの方ずっとそうなのだ。あなた方はすでに、この過酷な環境をものともせずに、生きて暮らしている。これくらいの敵に取り囲まれている状態が「普通」なのである。

■「世界はウイルスや細菌で満ちあふれている」

世界はそもそも、ウイルスや細菌で満ちあふれている。それがデフォルト。

必要以上に「除菌」を気にする必要はない。大事なのは、普通じゃない量(もしくは、種類)のウイルスや細菌に出会わないように気を付けること。そして、自分の体が敵を排除するシステムがきちんと働いていること。

人間の体は、生まれてからずっと、敵を排除して味方だけを取り込むシステムを発達させている。

たとえば鼻毛だ。空気中のホコリやチリ、さらにそこに含まれるウイルスや細菌をからめとって外に押し出す働きをもつ。きっとあなたも聞いたことがあるだろう。でも人体に敵が入ってくるのを防御する手段は鼻毛だけではない。

そもそも皮膚という皮が強烈な防御力を発揮している。お風呂に入っても水が侵入しない時点でとんでもなく高性能なバリアであることがわかるだろう。自然界に存在する、金属以外の多くは基本的に水が浸みるのだから、皮膚がいかにすごいかという話だ。

■鼻毛、鼻水、胃酸……身体を守る頼れる守備隊

ほかにも鼻水をはじめとする粘液。鼻水でトラップされた外敵は、鼻をかむことで、あるいはくしゃみで吹き飛ばすことで、鼻水ごと体外に排出される。あるいは鼻からのどの奥を通って胃に流れ込んで、胃酸で倒される。

これらの幾重にもとりまく防御壁を突破したウイルスや細菌は、体の中に入ると今度
は多くの免疫……すなわち体内を守る守備隊によって攻撃を受ける。

つまり、体の周りに存在する無数の敵は、まずそう簡単には体内に侵入できないし、もし侵入しても防御側の総攻撃によって倒されてしまうことがほとんどなのである。あらゆる生命は、生き続けている限り、この敵を打ち倒すシステムを常時フル稼働させている。

その上で、なお防御をすり抜ける敵=病原体が、低確率で現れる。数々の防御を運良く(悪く?)かいくぐったウイルスが、体内で勢力を拡大しようとする。これがかぜの正体だ。

■かぜは一時的に防衛が破られること

かぜとは、体の複数の防御を一時的に乗り越えて、ウイルスが体の中に侵入した状態をいう。

ウイルスはめっちゃくちゃに小さいのだが、それがごく少量体内に忍び込んで、スパイかニンジャかゲリラ部隊か、とにかくこそこそと血液の中に侵入して全身を巡りながら増える。

血液中にも防御部隊はいるので(白血球など)、侵入したニンジャたちをやっつけにかかるが、潜伏がうまいタイプを叩ききれず、増殖を一時的に許してしまうことがある。

すると、増殖したウイルスは、体のあちこちで防御部隊と戦闘をはじめる。

ウイルス防御
イラスト=うてのての

防御部隊はウイルスを倒すため、催涙弾を撒いたり、熱で攻撃をしたり、放水してウイルスを押し流したりするようになる。

バトルが激化すると、火の粉が飛んで、周囲に被害が出始める。鼻水や鼻づまりが生じ、ノドの痛みが生じ、全身が発熱し、だるさが出る。

■人体の防御部隊は強く、数日後にはウイルスを駆逐する

ここは勘違いしている人が多いのだが、鼻かぜだからといってウイルスが鼻の周りにだけいるわけではない。もしそうなら鼻かぜで微熱が出るメカニズムが説明できない。

鼻かぜであっても微妙にのどが痛み、微妙に熱が出る。関節が痛くなることもある。これはウイルスが全身を巡って、あちこちで警備員たちと戦闘しているからだ。だから、かぜでは基本的に、複数の場所に症状が出る。あやうし、人体!?

しかし、人体の防御部隊は本当に強いので、ウイルスが全身を巡っていても数日後にはまず間違いなくウイルスを駆逐する。だから治る。ここまでの現象をすべてまとめたものが「かぜ」だ。たかがかぜでも、人体の中ではそれなりに大事件が起こっているのである。

かぜとは、「わりと短い期間で、人間が自力で勝てる感染症」。イメージがつかめただろうか?

■肺炎は細菌が肺でがんがん増えている状態

これに対して、もう少し怖い「肺炎」はどうかというと。

そもそも原因が違うことが多いのだが、原因微生物の違いを詳しく説明したところで喜ぶのは医療関係者くらいだ。ウイルスではなく細菌のことが多いです、抗生物質が効くことがあります、まあそうなんだけれど、もっとイメージを柔軟に広げよう。

肺炎の場合は、原因となる微生物(細菌やウイルス)が、肺という局所でがんがん増えている。ゲリラ戦法ではなくて大軍でカタマリになって突撃してくるかんじ。

頼りになる防御部隊はスパイや軍隊を毎日はじき返し続けているわけだけれども、まれに城門が破壊されて大軍の侵入を許すことがある。この場合、人体の防御部隊では勝ちきれないこともある。

勝ちきれない? 死ぬってこと? そう。勝ちきれないというのは死ぬということだ。

病原体の大軍が人体に突撃してきて、全身を巡り始めてしまうと、防御部隊との戦闘は苛烈を極める。ついには敗血症と呼ばれる状態を招き、全身の臓器に多大なダメージが蓄積され、命が奪われる。戦争によって国が滅びるのだ。

■「医療が慎重に手助けしたほうがいい呼吸器系の感染症」

ここで、人間は強力な武器を手に入れた。肺炎の原因が細菌である場合には、体外から抗生物質を投与することで、人体がもともと配備している防御部隊とは別に援軍を送り込み、城門の前でうごめいている大軍たちを一気に叩きつぶすことができる。これによって多くの国(命)が救われるようになった。

市原真『どこからが病気なの?』(ちくまプリマー新書)
市原真『どこからが病気なの?』(ちくまプリマー新書)

ただし、大軍が血液の中を縦横無尽に動き回りはじめてしまうと、抗生物質をもってしてもそう簡単には駆逐できない。

全身に強力な抗生物質を投与し、一方で国防部隊がめったやたらと打ちまくるミサイルが周囲を破壊するのを「なだめる」薬も使う必要がある。

また、そうそうあることではないが、原因が特殊なウイルスの場合、抗生物質がそもそも効かない(※新型コロナウイルスによって引き起こされる肺炎のいやなところはここだ)。

すなわち、肺炎と戦うには、かなり緻密で多面的な戦略が必要となる。通常のウイルス血症(かぜ)なら多くの場合は人体の持つ防御部隊におまかせできるが、肺炎にまで達してしまうとそうはいかない。

だからこそ、先ほどの定義が意味を持つ。

肺炎とは、「人間が勝つのに苦労する、あるいはときには負けてしまうこともあるため、医療が慎重に手助けしたほうがいい呼吸器系の感染症」。

■初期段階で「かぜ」と「肺炎」を見分ける3つのポイント

さあ、そうなると、私たちとしては、軽症の間に……死に至るほど強力な軍隊が体内に侵入する前に、ごく初期の段階で、体にとりついたやつらがヤバいやつなのか、たいしたことないやつらなのかを見極めたい。その目安はあるか?

【かぜ(放っておいたら治る感染症)の特徴】
1.過去に経験したことがある(つまり治した経験がある)
2.複数の場所に同時に症状が出ている(病原体がすでに全身を回っている)
3.(2があるにもかかわらず)症状が軽い

まあこの辺を目安にするといいだろう(最近、みんなが新型コロナウイルスに騒ぐ理由のひとつは、1が当てはまらないからである)。

普通のかぜは鼻水、鼻づまり、のどの痛み、せき、微熱、あるいは腹痛とか頭痛といった複数の症状を同時に出すわけだが、病原体が全身を巡っている(=ウイルスが全身を回っている)にもかかわらず症状が軽いならば、それはきっと細菌による重症感染症ではないので、たいてい体内の防御部隊にまかせておけばいい。

そもそもウイルスに抗生物質は全く効かないから、この時点で安静にしている以外の対処法はない。

■症状が一箇所に強く出ると肺炎のサイン

【肺炎の初期の特徴】
1.症状は一箇所にしか出ていない(たとえばせきしかない)のだが、
2.症状が強く、
3.経験したことがない(治ったレベルのやつじゃない)

これはヤバいサインだ。病原体の攻撃力が強くて、まだ城門一箇所を破壊しようとしているだけなのに症状が出ているということだからだ。そしてこれが進行して、

【肺炎が悪化しつつあるサイン】
1.症状が一箇所(せき)からはじまっていたのに、寒気が出始めてガタガタ震えだしたり、高熱が出たり、
2.意識がもうろうとしている

など、複数箇所に強い症状が及び始めたら(時間経過がすごく大事!)、それは大軍が血液の中に流れ込んだ証拠である。一刻を争う。

■症状の強弱、箇所を時間とともに見極める

頭の中に、人体を守る正義の軍隊と、そこに毎日のように降りかかってくるザコな敵軍、ちょっと強そうな敵軍、スパイやニンジャを送り込んでくる卑劣な敵軍、さらにはまれにやってくる強大な敵国をイメージしてもらうといい。

自分の人体に何が起こっているのかを、その都度、合戦絵巻のように想像して考える。

症状は強いのか、複数箇所にわたっているのか、時間とともにどう動いているのかを見極めれば、戦いの趨勢がみえてくるし、そのまま放っておくとまずい状態になることを事前に見極めて適切な対処ができるようになる。

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市原 真(いちはら・しん)
札幌厚生病院病理診断科 医長、医学博士
1978年生まれ。2003年北海道大学医学部卒。国立がんセンター中央病院研修後、札幌厚生病院病理診断科へ。インターネットでは「病理医ヤンデル」として有名。著書に『症状を知り、病気を探る 病理医ヤンデル先生が「わかりやすく」語る』(照林社)、『病理医ヤンデルのおおまじめなひとりごと 常識をくつがえす“病院・医者・医療”のリアルな話』(大和書房)、『いち病理医の「リアル」』『Dr.ヤンデルの病院選び ヤムリエの作法』(共に丸善出版)など。

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(札幌厚生病院病理診断科 医長、医学博士 市原 真)

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