遅くてショボい…安倍政権のコロナ対策は、民主党の震災対策と変わらない
プレジデントオンライン / 2020年3月31日 15時15分
■正念場を迎える史上最長政権
世界各地に感染拡大した新型コロナウイルスへの対策が後手に回る安倍晋三首相が焦燥感を募らせている。集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号をめぐる対応などが外国メディアから批判され、内閣支持率が急落すると、専門家の意見を踏まえたまま「全国一斉の臨時休校」を唐突に打ち出し、学校現場や保護者らの大混乱を招いた。2度にわたる記者会見で「未知のウイルスとの闘い」と精神論を振りかざす安倍首相だが、資金繰りに苦しむ民間企業をはじめ、閑古鳥が鳴く観光業や飲食店などは我慢の限界に達してきている。
「卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます」。NHKが生中継した2020年3月14日の会見で、安倍首相は唐突に祝辞を送った。が、卒業式は「もう終わったり、中止されたりしている」(立憲民主党の蓮舫議員)状況で、野党は「場当たり的な発言」と批判している。
安倍政権のコロナウイルス対応を振り返ると、そもそも初動から遅れ、迷走していた。東京都や大阪府は20年1月24日に対策会議を開催して早い段階から対策を練っていたが、肝心の政府は対策本部を20年1月30日に設置、専門家会議は20年2月14日まで開催されなかった。
「司令塔」が不在のまま、中国・武漢市の滞在邦人をチャーター機で退避させた際には1人約8万円を徴収する方針だったものの、与野党から批判が噴出すると撤回。感染が拡大していた中国と韓国からの入国制限強化は20年3月5日にようやく打ち出された。全国一斉の臨時休校要請は難色を示した文部科学省のみならず、首相官邸内の慎重論も無視して独断で決めたとされる。
■安倍政権は危機対応に強いと見られてきた
全国紙の政治部記者は首相の対応をこう語る。「安倍政権は危機対応に強いと見られてきたが、いざ非常事態を迎えると思ったほどでもなかった」。
危機対応で思い出すのは、2011年3月の東日本大震災だ。当時の民主党政権は菅直人首相と枝野幸男官房長官のコンビで、野党だった自民党は原発事故の対応などに「後手後手の対応」「菅政権は迷走している」などと猛批判を展開した。その急先鋒の1人が安倍氏で、同年5月20日付のメールマガジンには「菅総理は間違った判断と嘘について国民に謝罪し直ちに辞任すべき」とつづった。原子炉を冷やすための海水注入をめぐる記載に対し、菅元首相が損害賠償などを求めた訴訟は菅氏の敗訴が確定したが、安倍首相は事あるごとに「悪夢のような民主党政権」と批判してきた経緯がある。
19年2月の自民党大会では「12年前の参院選で惨敗し、悪夢のような民主党政権が誕生した。決められない政治、経済は失速し、後退し、低迷した。あの時代に戻すわけにはいかない」と声を張り上げた安倍首相。だが、これまでのコロナウイルス初期対応を見る限り、期待感もあった分、失望感への反動は保守層でも大きかった。
「7年以上も政権を担っているのに、いまだ民主党政権時代の失態を取り上げるのは不毛。今や経済状況も心配されているのに、国のトップとして非常事態をどう乗り越えるのか具体策が聞こえてこない」(民放政治記者)
民主党政権時代に低迷していた経済は、円安・株高を誘引するアベノミクスが奏功し、それが高い内閣支持率に結びついてきた。だが、今回の「コロナ・ショック」で株価暴落は止まらず、景気後退を警戒する売りが殺到している。「リーマン・ショック並みか、それ以上かも」(西村康稔経済再生担当相)と見る政府は、日銀の追加金融緩和と歩調を合わせた「リーマン時を上回る緊急経済対策」を打つ構えだが、「財務省の言いなりの安倍さんですから、内実はショボくなる」(政府関係者)という。民主党政権の経済失政を批判してきた安倍首相が放つ今後の「カード」が市場から敬遠されれば、「大ブーメラン」として名を汚すことになる。
「政治は結果責任だ。その責任から逃れるつもりは毛頭ない」。20年2月29日の記者会見で、こう決意を示した安倍首相だが、「東京五輪・パラリンピックが中止ならば政治責任が持ち上がる」と自民党の鈴木俊一総務会長は述べていた。中止という最悪の事態は免れたが、はたして、後世に名を残す「大宰相」として任期を満了できるのか否か。史上最長政権は正念場を迎えている。
(政経ジャーナリスト 麹町 文子 写真=時事通信フォト)
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