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小児科医が明言「赤ちゃんが眠るまであやす必要はない」

プレジデントオンライン / 2020年4月6日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/monkeybusinessimages

赤ちゃんの夜泣きを減らす方法はないのか。小児科専門医の森戸やすみ氏は「最近、『消去法』という寝かしつけの手順に注目が集まっている。これなら子どもは一人で寝られ、親は休む時間を増やすことができる」という――。

※本稿は、朝日新聞の医療サイト「アピタル」の連載をまとめ、加筆した、森戸やすみ『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(内外出版社)の一部を再編集したものです。

■10人に1人が発症する「産後うつ」

昔から「寝る子は育つ」と言ったり、「赤ちゃんは寝るのが仕事」と言ったりします。

これだけを聞くと、乳児はいつも寝ているような印象を受けますが、実際は「ウチの子、ぜんぜん寝てくれなくて……」と悩む保護者の多いこと多いこと。

子どもが思うように眠ってくれないと、お母さんやお父さんはどうしてなのかわからず、途方に暮れて絶望を感じます。こんな状態では満足に眠れるはずがありません。

産後1年までの妊産婦の死因は、自殺が最多である、という国立成育医療センターによる調査結果が発表されました(※1)。衝撃的な事実だと思われるかもしれませんが、小児科医からすると、相談に来るお母さんたちの不安そうな顔から理解できるところがあります。以前から出産後の女性の10人に1人が産後うつを発症することが指摘されていて、専門家は自殺と関係していると考えています(※2)。

※1 国立成育医療研究センター「人口動態統計(死亡・出生・死産)から見る妊娠中・産後の死亡の現状」

※2 朝日新聞デジタル「妊産婦の死因、自殺が最多 2年間で102人 厚労省研究班」

■ピークは生後6~8カ月だが、長いと3歳まで続く

では、産後うつの原因とは?

容易に想像がつきますよね。そのひとつは睡眠不足です。十分な睡眠をとれないことが母親のメンタルヘルス・抑うつの程度を悪化させると、ほかの調査でわかっています。眠れない、眠ってもすぐ起きなければならないというのは誰にとってもつらいことですが、特にお母さんの場合は出産によって体力を使い果たしているうえ、「赤ちゃんを眠らせないと」というプレッシャーがセットになっているので、余計にしんどい状況になります。

生まれたばかりの赤ちゃんは、空腹なとき以外はあまり泣かず、その後は泣く回数も時間も増えていきます。夜泣きや夜間覚醒のたびに起きてあやすのは1日、2日でもしんどいですよね。夜泣きのピークは生後6~8カ月で、長いと3歳まで続くという調査もあります。出産後のお母さんは疲労が蓄積し、こんな毎日が果てしなく続くのではないかと絶望感を抱きます。これでは参ってしまうほうが自然なのでは、と思うくらいです。

■「寝ない赤ちゃん」は決してめずらしくない

赤ちゃんは生後4カ月くらいまで1日に寝たり起きたりを何度もくり返し、そのうちにだんだんと夜に長く眠るようになります。それ以降も長時間揺り動かしたり、車に乗せたりしないと寝ないような場合は、「小児行動性不眠症」と呼ばれます。

アメリカ睡眠医学会が出している、小児行動性不眠症の診断基準を紹介しましょう。

〇入眠時関連型……寝入るのに時間がかかり、夜中に何度も目が覚めるタイプ。乳児期後半から幼児期に起こりやすい。

〇しつけ不足型……眠るのを嫌がって布団に入りたがらなかったり、一度布団に入っても出ていったりするタイプ。幼児期から学童期に起こりやすい。

「入眠時関連型っていうけど、そうでない子がいるの?」と思われた方もきっといるでしょう。そのくらいよくある、子どもの不眠ですね。赤ちゃんのわが子を夜中にあやしながら、「眠いなら寝ればいいのに」と睡眠不足の目をこすったことのない親がいるでしょうか。もちろん、私も経験者のひとりです。

子どもがどのくらい寝ないと不眠という医学的な定義はありませんが、欧米では5~20%の子どもが小児行動性不眠症だとされています。

ですから、「ウチの子だけかも」「私が親としてダメだからなのかな」と悩んでいる保護者のみなさん、寝ない赤ちゃんというのは決してめずらしくないので、まずは自分を責めないでくださいね。

■子どもの眠るスキルを育てる「消去法」

子どもが寝なければ、親は疲れきってしまいます。そこで、最近の小児科関連の医学雑誌によく載っている「消去法」をご紹介します。

日本では、多くの保護者は子どもが泣いたらすぐに授乳や抱っこをしたり、寝つくまでそばにいてあげたりすると思います。アジア圏では、大人と子どもが添い寝をするのが一般的なのです。もちろん悪いことではなく、愛着も育ちますが、一方で子どもが「寝なければ、親がずっとそばにいてくれる」と誤った学習をしてしまいます。

寝かしつけの習慣は、国や地域によって異なるものです。欧米では生まれて数日したら、親子は別の部屋で夜間を過ごします。子どもがひとりで眠ることを学習するために合理的な方法とされているのでしょう。消去法というのは、こうした「寝なければ、親がずっとそばにいてくれる」という誤ったご褒美を取り除き、子どもが自分で自分を落ち着かせ、眠るスキルを育てる方法です。

具体的には、親が子どもを決まった時間に布団に寝かせたら、朝まであまり手を出さないようにする、ただそれだけです。必要な授乳はしますが、夜泣きをしたからといってすぐに授乳や抱っこ、眠るまであやすということは、なるべくしないようにします。赤ちゃんがふにゃふにゃ言っていると、つい抱っこしてあげたくなりますが、そのせいでかえって眠れなくなってしまうことがあるので、あえて手を出さないのですね。

■さまざまな効果が証明されつつある

細かいところは、子どもの個性や家庭の事情に合わせてもいいと思います。たとえば、朝7時までは一切対応しないと決めてもいいですし、泣いたりかんしゃくを起こしたりしたときは、あらかじめ決めておいた時間(5~15分程度)だけ待って、それでも治まらなければ様子を見にいくルールにしてもいいです。親と同室で眠るけれど一切対応しない、という方法もあります。お子さんの様子を見ながら、自分たちにできそうなやり方を試してみてはどうでしょうか。

どのみち、保護者が隣にいて一緒に横になっていたらむずかしいと思います。子どもを布団に入れたら、保護者は残った家事などをしながら、ときどき様子を見にいくというのが現実的なやり方ですね。

消去法は以前から提唱されていた方法ですが、近年は研究分野において、さまざまな角度から効果が確かめられています。眠りにつくまでの時間、夜間に起きる回数、夜間に起きている時間、睡眠効率(横になっている時間のうちの、どのくらい眠っているか)が、この消去法によって改善するという結果が出ています。

■笑顔で「おやすみ」と言って寝かせる

日本とイギリス、フランスで子育てをした薗部容子(そのべようこ)氏の著書『まず、ママが幸せに―産んで育てて、ニッポン・イギリス・フランス』(日本機関紙出版センター)には、薗部氏が消去法を実践してきた経験が書いてあります。

森戸やすみ『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(内外出版社)
森戸やすみ『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(内外出版社)

それによると、申し訳なさそうに「ひとりで寝かせてごめんなさい」と言って寝室のドアを閉めるのではなく、笑顔で「おやすみ」と言って寝かせるそうです。眠る前にママやパパの顔が悲しそうだと、子どもは不安になるかもしれませんからね。今日からでも取り入れられる方法です。

一方、日中の赤ちゃんが起きているときでさえ放置したら罪悪感を持ってしまうし、夜に眠れなくて泣いていたら放っておけないというお母さんもいると思います。また、心配で離れられないというお母さんもいるでしょう。

でも、「赤ちゃんは泣くのが仕事」、「泣く子と地頭には勝てぬ」という言葉を知っておいてください。これらの言葉は、昔から赤ちゃんが泣くことに対してはなすすべがなかったことを伝えてくれます。事実、赤ちゃんは泣くものです。抱っこをしても、あやしても、何をしても、泣きやまないときは泣きやみません。そして泣いているからといって、子どもが不幸なわけではありません。泣かせておいても大丈夫なのです。

それでも気持ち的に落ち着かなければ、夜間はお父さんやほかの家族に任せたり、交代にしたり、という方法もあります。

■産後1年間は1日1回、お母さんをひとりで寝かせるべき

または睡眠不足にならないように、日中にベビーシッターやヘルパーを頼んで、赤ちゃんをみておいてもらうのもいいですね。昼間でも構いませんから、お母さんがなるべくしっかり眠れる時間を作りましょう。

お母さんの睡眠時間をしっかり確保することは、そのくらい大事なのです。なんとかして赤ちゃんを寝かせようとがんばるあまり、精神的に追い詰められたり、体力的にバテたり、さらに悪化して産後うつになってしまったりしては、元も子もありません。

産後1年間は特に、周りが気をつけて1日1回数時間でもお母さんをひとりで寝かせてあげられるようにすべきです。

それから、お母さんでもお父さんでも、自分で調子がおかしい、疲れがたまっていると思ったら、早めに休んだり、家族や保健師さんなどに相談するようにしましょう。「こんな程度で……」とは思わないでください。誰かに助けを求めるのは、深刻になる前がいいのです。親が笑顔でいられると、赤ちゃんにとってもいいということを覚えておいてくださいね。

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森戸 やすみ(もりと・やすみ)
小児科専門医
1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業準備中。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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(小児科専門医 森戸 やすみ)

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