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「夜間モードだから寝る前のスマホもOK」は間違っている

プレジデントオンライン / 2020年3月30日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuji_Karaki

最近のスマートフォンの多くは、色味を変えてブルーライトを軽減する「夜間モード」を備えている。これは睡眠の改善に効果があるとされているが、本当なのか。スタンフォード大学医学部精神科の西野精治教授は「わたしはブルーライトの光よりも、寝る前にスマホを使うこと自体が睡眠に悪いと考えている。機能を過信しないほうがいい」と指摘する――。

※本稿は、西野精治『睡眠障害 現代の国民病を科学の力で克服する』(角川新書)の一部を再編集したものです。

■日本人女性の睡眠時間はあまりに短い

日本人の睡眠時間が世界のなかでも最短だということは何度か述べてきましたが、とりわけ女性は短いとされています。

「平成28年社会生活基本調査」(総務省統計局)によると、日本人女性の平均睡眠時間は7時間35分。男性と比べると10分短くなります。仕事をしている女性になると、さらに短く、平均7時間15分。ある企業の調査によると、子育てと仕事を両立しているワーキングマザーの平均睡眠時間は6時間36分。平均よりも1時間近く睡眠を削られる生活をしているということです。その調査のなかで「削らざるを得ない時間」として1位に挙げられたのは、睡眠時間でした。

高度成長期だった頃の日本は、家庭を守る専業主婦というものが主流でした。家事や育児を一手に引き受けていたのが女性だったのです。しかし、男女雇用機会均等法の施行など、女性の社会進出があたりまえになり、1997年以降は共働き世帯が専業主婦世帯を上回り、いまでは6割強が共働き世帯になっています。

問題なのは、共働きなのに、夫婦間での役割分担が欧米ほど進んでいないことでしょう。相変わらず家事や育児を奥さんに任せきりの家庭も多く……、女性は睡眠時間を削るしかない状態にあると言えます。

男女比較で見たときに女性の睡眠が短いのは、日本のほかにインド、韓国、メキシコなどが該当します。一方、欧米では女性のほうがよく寝ています。

【図表】睡眠時間の男女差

生物学的に言うと、動物の場合、雌雄で睡眠の量に差はありません。人間の場合は、思春期と言われる第二次性徴のタイミングは少しだけ女性が早いため、男性が第二次性徴を迎えるまでのあいだこそ男性のほうが睡眠量は少し長くなりますが、その後は、ほとんど差がないと考えていいでしょう。そうなると、やはり日本の女性の睡眠時間はあまりに短いのです。

■月経前は眠い、妊娠中は不眠、産後は寝不足

女性の体は、月経、妊娠・出産、閉経など、生涯を通して大きなホルモン変化にさらされています。

それらは、睡眠にも大きな影響を与えます。月経前には日中の眠気、妊娠中には日中の眠気や不眠、出産後は睡眠不足、そして、更年期には不眠になりやすいという特徴があるのです。

月経前になると、肌が荒れる、体がむくむ、イライラする、怒りっぽくなるなど、心身に不調がいくつも現れます。これを月経前症候群(PMS)と言いますが、程度の差はあれ、ほとんどの女性が経験していることでしょう。なかでも、日中に強い眠気に襲われるのは、共通の悩みとされています。

月経周期は、卵胞期(卵子が放出される前)、排卵期(卵子が放出される期間)、黄体期(卵子が放出された後)に分類されますが、黄体期の深部体温を測ると、1日のリズムにメリハリがありません。

これは、黄体期に基礎体温を上昇させる黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が増えるからだと考えられます。体温による睡眠・覚醒の準備ができないために、睡眠が浅くなったり、日中の眠気が強くなったりするのでしょう。

妊娠前期には日中の眠気が強くなります。これも黄体ホルモンが原因です。中期には比較的安定しますが、後期には中途覚醒が見られるようになります。

■妊娠中に「睡眠時無呼吸症候群」にかかることも

また、妊娠が睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群のきっかけになる場合があります。睡眠時無呼吸症候群になるのは、肥満の人がなりやすいのと同じ理由で、急な体重増で首まわりに脂肪がつき、気道が狭くなるからです。

妊娠中の睡眠時無呼吸症候群は、母親の無呼吸が胎児の酸素不足をもたらし、発育障害につながる可能性があるので、適切な治療をしてほしいと思います。

むずむず脚症候群になる原因はまだ解明されていませんが、出産後に症状は改善していくことが大半ですので鉄欠乏性貧血の関与も指摘されています。

産後は、体が妊娠前の状態に戻ろうとするため、内分泌環境に急激な変化が起きますが、産後の睡眠障害というと、不眠が挙げられます。

夜間の授乳やおむつ替え、赤ちゃんの夜泣きなどで、睡眠が分断されるため睡眠不足に陥り、日中の眠気が増します。それが原因で体内時計が乱れると、長期的な睡眠不足に陥ることもあります。また、眠れない理由には、育児中心の生活に対するストレスや「産後うつ」の可能性もあります。

また、更年期女性の約半数が不眠になります。男性と同じように睡眠が浅くなるのは加齢によるものですが、更年期障害の症状であるのぼせ、発汗、動悸などでも、深く眠れないことが多くなります。

■女性は男性にない強い素因を持っている

それから、閉経後の女性は閉経前の女性に比べると、同じ年齢、体重であれば睡眠時無呼吸症候群になるリスクが3倍高くなるという報告があります。これは、呼吸を促すホルモンでもある黄体ホルモンが、閉経後に激減するからではないかと考えられています。

女性は生涯を通じて体内環境にいろいろな変化が起こります。だからこそ、男性以上にいたわる必要があるというのは間違いありません。

ただ、生物学的には、そういう体内環境の変化に対応できるように、男性にはない強い素因を女性は持っているのかもしれません。睡眠時間が短くなると肥満率や死亡率を増加させることになりますが、アメリカの疫学によると、その傾向が出てくるのは、男性は40代からで、女性は70代から。それだけ、女性のほうがタフなのです。

■どうしても寝る時間がなければ質を高めよう

睡眠負債を解消するには、睡眠の量と質を改善することが必要です。

まとまった睡眠時間をいま以上に確保できるようにするのがベストですが、生活環境を劇的に変えない限り、なかなか簡単ではないでしょう。現実的に量に関してできることは、昼寝や分割睡眠を活用して、少しでも睡眠量を増やすことぐらいでしょう。

そうであるなら、眠りの質を高めることです。量を増やせないなら、質を高めるしかありません。

質を高めるための最大のポイントは、最初のノンレム睡眠です。睡眠というのは、眠りにつくとまず脳も体も休息するノンレム睡眠に入り、その後、脳は活動しているけれど体は休息しているレム睡眠に移行していきます。これが、睡眠周期というものです。個人差こそありますが、1周期が70~110分くらいになります。そして、この周期を4~5回繰り返して目が覚めます。

ノンレム睡眠にはステージが3段階あり、入眠してステージ1から2へと深くなっていき、眠りについてから最初のノンレム睡眠ではステージ3の深い睡眠になります。ここで、ステージ3のレベルまでしっかり深く眠れるかが、睡眠の質に大きくかかわってきます。極論すると、最初のノンレム睡眠が浅ければ、質の高い睡眠を取ることはできません。

■ノンレム睡眠を深めれば嫌な記憶が消える?

睡眠にはいくつもの役割がありますが、ノンレム睡眠の浅い状態のみでは、脳と体をある程度休ませることはできても、それ以外の、グロースホルモンを分泌したり、副交感神経を優位にしたり、脳の老廃物を除去したり、免疫力を活性化したりといった働きはスムーズにいかなくなります。

記憶を整理するのも睡眠の役割とされていますが、最近の研究では、最初の深いノンレム睡眠時に、新しい記憶の貯蔵装置である海馬から大脳皮質へ記憶情報が移動し、長期記憶として保存されるという報告があります。また、深いノンレム睡眠には、嫌な記憶を消去する役割があるとも言われています。これらの研究結果は、それだけノンレム睡眠の深さが重要だという証明でしょう。

これから質を高める工夫のいくつかを紹介していきますが、その目的はすべて、いかに最初の睡眠を深くできるかということです。

■「夜間のブルーライト」が悪いのではない

眠りに入るときは、脳も体も休息に入りやすいように、できるだけ脳への刺激を避けるようにすることが求められます。なぜなら、脳は刺激を受けると活動的になるからです。脳への刺激が自律神経に作用し、交感神経が活発になると、覚醒系のホルモンも分泌されやすくなるので体が休めなくなってしまうのです。

眠りに入るときは、副交感神経系が優位になるように、リラックスできる環境をつくるのが肝要だということです。

夜間のパソコンやスマホはブルーライトの光が悪いと言われますが、わたしは、光よりもパソコンを操作したり、スマホでゲームしたりしている行為そのものが睡眠には悪いと考えています。脳を過度に刺激し続けているのですから、脳がすぐに休めるわけがありません。

そこで、睡眠の質を高めようとするなら、自分なりにルールをつくることです。たとえば、夜10時以降はデジタル機器から離れるとか、寝る1時間前にはゲームを終了するとか、ルールをつくろうと思えばいくらでもできるでしょう。特に子どもには時間制限をするべきです。もちろん、子どもだけでは守れないでしょうから、親の管理が求められます。

■ウェブ記事やメッセージは寝る前に読まない

パソコンやスマホの画面を眺めているという行為で考えられる、ネガティブな影響はほかにもあります。

たとえば、ウェブの記事を読んでいて気になることが出てくると、関連するページをどんどん開いていき、納得のいく結論が出るまで探し続けてしまう。ぼーっと眺めているくらいならまだいいのですが、記事やページに感情が動いて、興奮したり、怒ったりするとリラックスできなくなることは言うまでもありせん。

パソコンやスマホを操作していると、メールが届くときもあります。開いたら内容によっては一瞬で覚醒してしまうこともあるし、嫌な内容なら気になって眠れなくなることもあるでしょう。

そこでわたしは、特定の人のメールは、夜に届いても開かないようにしています。開けば、気になることが書いてあるのはわかっていますから、あえて開きません。寝る前に見たメールが気になり出したら最悪……。朝まで、もやもや、イライラが続くことになるからです。それなら、朝起きてから処理するほうが睡眠の質にはよいことだと思っています。

■ルーティーンやゲン担ぎを侮るなかれ

自分でつくる睡眠のルールは、それでリラックスして眠りにつけるならなんでも構いません。わたしは自分の睡眠に良いルールをポジティブルーティーンとよんでいます。自分にとって効果のある習慣を覚えておき、それを実施するのです。

西野精治『睡眠障害』(KADOKAWA)
西野精治『睡眠障害 現代の国民病を科学の力で克服する』(角川新書)

ゲン担ぎやジンクスなどを否定する人がいますが、それで寝つきがよくて、朝すっきり目覚められたら、続けていいではありませんか。家の灯りを落としていく順番、お風呂に入る時間、パジャマの着方など、そこに科学的根拠などなくても、それで「眠れる日」が続いて睡眠負債が解消できるなら、絶対に続けるべきです。

睡眠のルールは、あくまでも自分のためにつくるものであって、自分以外の他人に強要するものではありません。

ただし、覚えておいてほしいのは、もともと科学的根拠がないゲン担ぎやジンクスの場合、それを忘れたからとか、間違えたからといって眠れなくなることはないということです。忘れたことを気にし過ぎると、睡眠には逆効果になります。

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西野 精治(にしの・せいじ)
スタンフォード大学医学部精神科教授
同大学睡眠・生体リズム研究所(SCNlab)所長。医学博士、精神保健指定医、日本睡眠学会専門医。2019年5月に睡眠に特化した健康経営のコンサルティングなどを手がけるブレインスリープのCEOに就任。

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(スタンフォード大学医学部精神科教授 西野 精治)

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