橋下徹「どう考えてもおかしなことを、役人が淡々と進めてしまう理由」
プレジデントオンライン / 2020年4月7日 11時15分
※本稿は、橋下徹『交渉力 結果が変わる伝え方・考え方』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■準備の段階で、交渉の結果は決まっている
交渉で1番大事なことは事前の「要望の整理」だ。自分の要望はもちろん、相手の要望も整理の対象だ。自分の要望が多ければ多いほど、交渉は成立しにくくなる。要望が多いということは、獲得目標が多いということ。「これも獲得したい、それも獲得したい、あれも獲得したい。だから、これも、それも、あれも譲れない」となると、交渉はまとまらなくなる。
大事なことは事前に要望を絞り込むこと。究極的には1つに絞り込む。1つに絞り込めなくても、例えば、当初10個の要望があるなら、せめて2つか3つに獲得目標を絞り込んでおく。
当初10個の要望に優先順位を付け、獲得目標を上位3つに絞り込んだら、残りの7つは相手に譲歩してもいいということだ。つまり、譲歩のカードとして使う。そして優先順位の低いほうから、1つずつカードを切っていって、最終的に7個までは譲歩し、残り3つは絶対に譲歩しない。
言い換えれば、10個の要望を『絶対に譲れないもの』3つ、『譲れるもの』7つにきちんと事前に整理しておくということだ。
こちら側が『譲れるもの』を譲ることが、相手に「利益を与える」ことになる。当たり前だが、交渉は、相手に利益を与えれば与えるほど、まとまりやすくなる。
このように交渉をうまくまとめるには、交渉の準備の段階で、自分の要望に優先順位を付け、要望を整理しておくことだ。準備の段階で、交渉が成立するかどうかの9割は決まると言っても過言ではない。
■時間をズルズルと延ばしてはいけない
自分の要望をきちんと整理できていないと、欲張って要望をどんどん上乗せしてしまったり、逆に譲歩のカードを出し渋ったりして、ずるずると時間だけが過ぎていく。人間は欲が強いもので、交渉のときには、相手が譲歩してくると、もう少し自分の要望を上乗せしたいという気持ちになるものだ。また、相手に弱気な態度を感じると、自分の譲歩のカードを出し渋ったりする。「もう少し」「もう少し」と要望を上乗せしていくうちに、相手が絶対に譲れないと内心思っている最終ラインを、知らずに越えてしまう場合もある。あるいは、あともう少しの譲歩のカードを切れば相手も納得したのに、カードの出し渋りで納得に達しない場合もある。相手側が「そんな条件を飲むくらいなら、今回の交渉は決裂してもいい」と考えるラインを越えてしまえば、すべてが無駄に終わる。
また、自分の要望の整理がきちんとできていないと、とりあえず交渉がまとまっても、後に、もう少し自分の要望を上乗せできたのではないか、譲歩のカードを温存できたのではないか、と後悔の念に駆られることもある。
だから、そのようなことがないように、こちら側の要望について事前に徹底的に整理し、「絶対に譲れない3つの要望は獲得できた。これでもういい」とスパッと交渉を終わらせるラインを明確に設定しておくべきなのである。
みなさんは目の前の交渉以外にもやらなければいけないことがたくさんあるはずだから、まとまる交渉は早くまとめて、他の仕事に取りかかったほうがいい。わずかに自分の要望を上乗せするために、また譲歩のカードを温存するために、ズルズルと交渉の時間を延ばさない、という割り切りが重要だ。
■とにかく「相手の要望」を探り続ける
自分の要望を整理することの重要性は先に述べたが、交渉の達人は、相手の要望も徹底的に整理する。相手が何を望んでいるのか、どこまで譲歩できるのかを把握すれば、これほど交渉がやりやすいことはない。ババ抜きをするにしても、相手のカードをすべて把握できれば楽勝である。しかし、交渉の多くでは、相手は手の内を見せてくれない。
だから、交渉相手と会話をしながら、相手の要望をリスト化し整理する。とはいえ、「交渉といっても、どこに注意をしながら相手と会話すればいいのかわからない」と質問をしてくる人が多い。その際、僕は、「交渉における会話で最も大事なことは、相手の要望を探り、それらの優先順位を把握することを目標に会話を重ねることだ」と答える。相手はいろいろなことを言ってくるだろうが、会話を重ねながら「この人の要望は何か。一番優先しているのは何か」「絶対に譲れないものは何か」「譲れるものは何か」と、自分の要望を整理するのと同じ視点で、相手の心の内を探っていく。
■心の内を読んで、リスト化するのが一番重要
もちろん、相手は簡単に心の内は明かさない。本当は譲歩できるものなのに「それは絶対に譲れない」という姿勢を示すことで、こちら側の譲歩を引き出そうとしているかもしれない。
もし相手が絶対に譲れないと思っているラインを見極めることができず、そのラインを踏み越えてしまうと、交渉は決裂して、自分の要望は何一つかなわなくなる。逆に、相手が譲ってもいいと考えているものを見極めることができたなら、こちら側は、相手の譲歩可能なものをしっかりと要望すればいい。
このように、交渉においては、相手にとって『絶対に譲歩できないものは何か』『譲歩可能なものは何か』という相手の心の内を読んで、それをリスト化することが一番重要になる。
では、どうやって相手の心の内を読んで、相手の要望を探り、それに優先順位を付けていくのか。こればかりは経験を積んで学んでいくしかないところでもあるが、僕が経験上得たポイントを述べよう。
■業界ごとに独特の価値観が根付いている
相手の心の内の要望を探り、それらの優先順位を把握しようと思えば、相手の価値観を理解することが有効である。価値観がわかれば、何を重視し、何にあまりこだわりがないのかがわかるからだ。
僕が政治家になる前の弁護士時代に様々な職種の人と交渉をして感じたのは、それぞれの業界・組織には、業界・組織特有の価値観のようなものが根付いているということだ。できれば、普段からいろいろな人と話をして、それぞれの業界や組織の価値観がどういうものかを少しずつ体感していくといい。教科書的なものはないから、自分で経験して得ていくしかない。
お金にこだわる価値観もあれば、メンツにこだわる価値観もある。納期重視なのか、クオリティ重視なのか。業界や組織によって違いがある。
例えば納期重視の人が相手なら、相手は納期については絶対に譲らないと推測できる。その場合、納期で交渉しても譲歩を引き出せる余地は少ないので、それ以外のところで、例えば報酬・代金額を上げてもらうことをこちらの優先順位の高い要望としたほうがいい。逆に、こちらが「特別に納期を早める」という譲歩のカードを切れば、他の部分で相手から大きな譲歩を引き出せるかもしれない。
■公務員は「ルールに基づくこと」が大好き
僕の知事・市長時代の経験から言うと、公務員の場合は、彼ら彼女らが最も重視する判断基準は「ルールに基づいているか」という点だ。ルールに基づいて公平性・公正性を保つことを最も大切な価値としている。さらに、地方自治体の職員の多くは、国の方針に従うことを重視している。そのほか、住民からクレームが来ないか、自分の責任にならないかということも重要な判断基準だ。
![橋下徹『交渉力 結果が変わる伝え方・考え方』(PHP新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/4/200/img_142029316a21817e3e161f43c91c9580172857.jpg)
仮に住民からクレームが来る恐れがあったとしても、ルールに基づいていれば、自分(職員)たちの責任にはならない。要するに彼ら彼女らにとっては、理屈がきちんと立っていることが重要なのであって、そこには感情的なものはほとんど入り込まない。考えてみれば当たり前のことだが、役所が住民一人一人に対して、「この人はかわいそうだから」とか「この人は困っているから」とか個別の事情を持ち出して、場当たり的な対応をすれば収拾がつかなくなる。あくまでもルールに基づいて対応することが彼ら彼女らの価値観だ。
ゆえに住民感情的にはなかなか納得できないようなことでも、理屈に適(かな)っていれば彼ら彼女らはやってしまう習性がある。
公文書をいとも簡単に廃棄してしまうことなどは、その一例だ。総理大臣との打ち合わせのメモや記録をすぐに破棄するなんて、国民はおかしいと感じる。「なぜ残さないのか、おかしいんじゃないか」と国民が感情的に言っても、役所は「いや、ルールに従って適切に処理していますから」で終わり。理屈に適っていれば、国民感情的にはおかしなことでも進んでいく。
こうした価値観、判断基準をわかっていると、相手の心の内が読めて、相手の要望の優先順位を把握しやすくなるのだ。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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