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橋下徹「日韓交渉で延々と平行線が続いてしまう根本原因」

プレジデントオンライン / 2020年4月13日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PhoThoughts

交渉の場で感情的になる人がいる。元大阪府知事の橋下徹氏は「感情的になる人は、交渉のポイントがわかっていない。交渉とは、双方で要望と譲歩を整理することだ。そのためには、自分の要望を明確にしておく必要がある」という——。

※本稿は、橋下徹『交渉力 結果が変わる伝え方・考え方』(PHP新書)の一部を再編集したものです。

■感情的になる人が見落としている「ポイント」

交渉のときに感情的になる人がいるが、それはその交渉によって自分はどんな要望を実現しようとしているのか、つまり獲得目標の整理ができていなくて、何が交渉のポイントかをわかっていないからだ。

自分の要望と譲歩できるものをきちんと整理できていないと、相手から目の前に提示されたものを見て感覚的に「いい」「悪い」と判断してしまう。相手の提示の仕方が「悪い」と思えば、腹を立てて、感情的になってしまう。

また双方の要望と譲歩がきちんとリスト化されていないと、交渉とは関係のないことを延々と話してしまう危険が高くなる。

例えば、自分の不遇話やどれだけ困っているのかをずっと話したりする人もいる。その一方で、自分がいかに立派な人間かを印象づけるために、自分の経歴を延々と説明する人もいる。

感情的な言い合いになったり、無関係な話を続けたりしていても交渉はまとまらない。自著『交渉力 結果が変わる伝え方・考え方』(PHP新書)で詳述しているが、交渉をまとめるために最も重要なのは、自分の要望を整理し、『譲れるもの』と『譲れないもの』のラインを引くことだからだ。

だから、もし相手が感情的になったならば、双方で要望・譲歩を整理する作業に入ればいい。相手自身によってそれができないようなら、手伝ってあげてもいい。

「あなたの要望を整理するとこういうことですか?」「あなたはこの点までは譲歩できますか?」と手助けしてあげて、相手の要望・譲歩をリスト化し、その中で相手の『絶対に譲れないもの』を探っていく。

■日韓関係に「歴史認識の一致」は不要だ

要望・譲歩の整理ができていないと、交渉にお互いの「価値観」「思想・信条」「哲学的なもの」が入り込むことが多くなる。それらが入り込むと、交渉がまとまらなくなる。価値観、思想・信条、哲学的なものの相違は、そう簡単には埋まらない。それらが異なる相手に対して、自分の価値観、思想・信条、哲学的なものを認めさせることは容易ではない。そして、交渉をまとめるには、それらが双方で一致する必要などない。

現在の日韓関係はその典型例だ。歴史認識の違いという価値観・哲学的なものを交渉に持ち込んだら、延々平行線が続いてしまう。

日韓で交渉をまとめたいのであれば、歴史認識で折り合うことを考えず、そこは平行線のままで、相互の要望と譲歩のリストを整理し、お互いに譲歩のカードを淡々と一枚ずつ切り合っていくしかない。そしてお互いに「これだけは絶対に譲れない」というところを獲得できれば交渉は成立するし、絶対に譲れないところを獲得できなければ、交渉を決裂させるしかない。そこに歴史認識を一致させるプロセスはまったく不要である。

反対に、プロ同士の交渉では、お互いに絶対に感情的にはならないし、無駄な話もしない。なぜなら、双方の要望・譲歩がきちんと整理できており、お互いに譲歩のカードを淡々と1枚ずつ切っていく作業に徹するからだ。一方が1枚切ったら、他方も1枚切る。そうやっていくと、感情的にならず、無駄な話もせずに交渉がディール(成立)する。

■「絶対譲れないもの」を守れた日米貿易協定

2019年10月に署名された日米貿易協定は、交渉が成立した良い例だ。もちろん、批判しようと思えばいくらでも批判はできる。「日本は譲歩し過ぎだ」「日本の負けだ」と言う人もいる。日本にとって大きなものは得られなかったのに、アメリカから輸入する農産品(コメを除く)の関税はTPPの水準にまで段階的に引き下げることになった。

牛肉の場合、現在の38.5%から段階的に引き下げられ、1年目に26.6%、2033年にはTPP水準の9%になる。

交渉結果を批判することは簡単だが、日本は優先順位を付けて、大きなものは得られなかったにせよ、「絶対に譲れないもの」=「これだけは死守するというもの」を守ったと見るべきだ。日本が死守したものは、コメであり、輸出自動車の関税だ。

トランプ大統領は日本から輸出される自動車の関税を現在の2.5%から25%に引き上げると主張した。トランプ大統領がよくふっかける関税の引き上げだ。関税が引き上げられると輸出が落ちる。自動車産業は裾野が広く日本経済へ及ぼす影響が大きいから、安倍政権は自動車の関税引き上げだけは絶対に阻止しようという方針だったのだろう。

■日本は「コメと自動車」、アメリカは「農産品の輸出拡大」を死守

また輸入する農産品については、コメ農家を守るために、(日本へ輸入される)コメの関税が引き下げられることだけは阻止しようとした。このように安倍政権は、コメと自動車を守ることを最優先とし、それ以外は交渉次第で譲歩してもいいというくらいの優先順位付けをしたのだと僕は見ている。

一方、アメリカ側は、日本に対して農産品の輸出を拡大するために関税を引き下げることが最優先だった。トランプ大統領は農家の支持拡大に力を入れていたからだ。それ以外は、日本に譲歩してもいいと考えていたと思う。

日本は、コメと自動車だけは死守し、それ以外は譲るという優先順位を付け、アメリカは農産品の輸出拡大だけは獲得し、あとは譲歩するという優先順位を付けた。日本とアメリカの要望と譲歩のマトリックスを作ったところ(このマトリックスについては、著書『交渉力』中で詳述している)、最後コメの部分をアメリカが譲歩して関税引き下げを取り下げたので、ここで両者の要望と譲歩がバチッと一致して、最終合意に達したというわけである。きれいにまとまった交渉の例だと思う。

■弱い立場ながら、守るべきものを守れた

橋下徹『交渉力 結果が変わる伝え方・考え方』(PHP新書)
橋下徹『交渉力 結果が変わる伝え方・考え方』(PHP新書)

譲歩した部分を批判すれば、いくらでも批判は可能であるが、交渉は基本的には「譲歩」である。日本側が「コメの輸入は増やさないので関税は引き下げない。自動車の輸出を減らさないように関税の引き上げ阻止。その他の農産物の輸入も増やさないので関税は引き下げない」と主張し、譲歩する姿勢を一切見せなければ交渉は成立しない。交渉が成立しなければ、アメリカ側から、日本の輸出自動車の関税を25%に引き上げられかねない。交渉においては自分の要望すべてを獲得しようとすることは無理であり、どれを死守し、どれを譲歩するかを明確に整理しておく必要がある。

さらに日本は、アメリカに自国の安全保障を委ねているという点で、力関係が圧倒的に弱い。その弱い立場でありながら、守るべきものを守って交渉が成立したことは、僕は良い交渉だったと見ている。

交渉を批判するのに、譲歩した部分だけを取り上げても意味がない。何を死守すべきなのか、それは死守できたのか、その観点で交渉は評価すべきである。死守すべきものが死守できたのであれば、その他はどれだけ譲歩していようが、そこは何ら問題ない。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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