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なぜ金融のプロは「コロナショックの前」に株を売り抜けられたのか

プレジデントオンライン / 2020年3月31日 15時15分

1ドル=102円台に上昇した円相場と2万円を下回った日経平均株価の終値を示す電光ボード=2020年3月9日、東京都港区の外為どっとコム - 写真=時事通信フォト

現金の割合を増やすべきか、減らすべきか

3月初旬以降、多くの投資家は株式などの金融資産を売却し、手元にキャッシュとして残す方向に動いた。いわゆるリスクオフだ。投資家のリスクオフの背景には、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界経済の先行きが読めなくなったことがある。保有する金融資産のリスクを、可能な限り少なくすることを考えたのである。

そうした不透明要因の中で、世界経済を支えてきた米国経済の景気後退リスクの高まりや、エネルギー資源需要の低下懸念を受けた原油価格の下落による影響は大きかった。現金への選好が高まり、世界全体で急速にリスクの削減が進行した。

3月下旬に差しかかり、それまでの株価の下落や米国の景気対策などを受け、一部の金融市場参加者の心理には落ち着きの兆しが見える。それが日米など世界的な株価の反発を支えた。ただ、いつ、どのように新型コロナウイルスの感染が収束するか、また、経済にどの程度の影響があるかは見通しづらい。同時に、欧米各国の感染状況を見ていると先行きは楽観できない。世界経済に関するリスク要因が増大傾向にあることは冷静に考えるべきだ。

投資に必勝の法はない。変化に対応しつつ資産を守るには、長期かつ大局的に経済の展開を考えつつ、タイミングと金額を分散して自己責任の範囲で資金を運用することが重要だ。この考えを徹底することによって、ポートフォリオ(種々の資産の組み合わせ)に占める現金の割合を増やすべきか、減らすべきか、各人なりの判断基準を持つことができるだろう。

自分で納得できる経済への認識を

個人にせよ、機関投資家にせよ、資金の運用を行う上で重要なことは、極力、価格が低い時に株式などの資産を購入し、高値で売却することに徹することだろう。高値掴みをすると、大きな相場の調整局面に巻き込まれて損失を抱えてしまうこともある。

想定外の展開を避ける一つの手段として、自分なりに市場環境の変化を理解しようとすることが大切だ。自分で納得できる経済への認識を持つことは、資金運用に欠かせない。世界的な新型コロナウイルスの感染拡大を受け、市場参加者の心理がどう変化してきたかを確認しつつ、経済と金融市場がどう変化してきたかを考えてみよう。

1月上旬、中国湖北省武漢市にて新型コロナウイルスへの感染が拡大した。当初、世界の市場参加者はその影響を過小評価したようだった。米国経済がウイルスの影響によって落ち込むことは避けられ、世界経済全体でそれなりの落ち着きが維持できると先行きを楽観する投資家らは多かったとみられる。

その背景には複数の要因がある。まず、世界的な低金利環境下、多くの市場参加者はより高い利得を求めて株式など相対的にリスクの高い資産に資金を振り向けていた。11月に米国大統領選挙を控え、トランプ大統領が景気対策を打つとの見方も、多くの投資家が株式に資金を振り向ける要因となっていたようだ。米中が通商摩擦の第1段階合意に至ったことも楽観を支えただろう。

また、過去数年間の価格トレンドなどをフォローするアルゴリズム取引などが普及し、株価の上昇トレンドが支えられた。こうした複合的要因が重なり、世界の株式市場では“買うから上がる、上がるから買う”という強気心理が膨らんだ。

2月中旬まで、米国を中心に世界の株価は過去最高値圏で推移した。新型コロナウイルスの影響への懸念から世界的に株価が下がる場面を押し目買いのチャンスととらえる投資家は多かったとみられる。見方を変えれば、多くの人がリスク(将来に対する不確実性)に鈍感になっていたということだろう。

リスクを理解することの重要性

次に重要なのが、リスクとは何かを確実に理解することだ。

徐々に新型コロナウイルスが人の移動を制限し、世界全体で需要と供給が寸断されはじめた。2月下旬に差しかかると、米国経済にも感染の影響が波及するとの警戒が強まり、世界的に株価が下落した。その後、3月6日には、産油国が協調減産の継続に合意できなかったことも重なり、世界的に価格の変動リスクがある資産を売却し、価値が安定している現金を保有しようとする動機が高まった。

それは、多くの市場参加者の先行きへの楽観論が崩れたことを示唆する動きだったといえる。新型コロナウイルスの“リスク”の大きさに目覚めた投資家が増え、リスクを削減する“リスクオフ”が急速に進んだ。

リスクとは、予想と異なる結果を意味する。たとえば、株価が下落すると思って株を買ったとしよう。その後、予想と裏腹に株価は上昇した。これがリスクだ。その逆も然りである。リスクは危険(何らかの行動をとることで負の影響が起きると予想されること)とは異なる。リスクは不確実性に関する概念だ。あたりまえのことではあるが、将来は不確実だ。

資金運用を目指すことは人生を豊かにする

リスクの定義に基づいて考えると、未来永劫、株価が上昇し続けることはありえない。ある程度上昇すると、いずれ相場は調整局面を迎えると考えたほうが良い。何が株価の不安定性を高める要因になるかをピンポイントで予想することも難しい。それだけに、複数のシナリオを想定しておくことがリスクへの対応力を高めることにつながる。

新型コロナウイルスのリスクとは、人の移動が制限されることによって実体経済が混乱することだ。イタリアでは経済活動が事実上の全面停止というべき状況に陥った。イタリアだけでなく世界各国で企業の収益懸念も高まっている。収益が悪化すれば、財務の健全性を維持することが難しい企業も増える。不良債権の処理が十分ではないイタリアやドイツなどでは、今後の展開によって金融システムへの不安が高まることも考えられる。

リスクの概念を理解した上で大局的に今後の展開に関する複数のシナリオを描くことは、資産を守るための重要な取り組みの一つだ。将来のシナリオを考える際には、経済、政治、国際情勢など、多くのことを調べ、理解しなければならない。資金の運用を目指すことは、新しい知見を吸収し、人生を豊かにするために有効といえる。

分散によるリスク縮小の意味

実際に株式などに投資を行って資金を運用する際には、買い、売りともに、投資の対象、金額、実行のタイミングを分散するとよい。想定外の展開に備えて追加的な行動の余地を確保することによって、心理的なゆとりや落ち着きを保ちながら経済や金融市場の変化に対応できるだろう。

たとえば、株価が大きく下げた際は、複数回にわたって買う、反対に、相場が上昇した場合には徐々に株を売却して現金をつくっておく。その際、ある水準から株価が20%下落すれば購入し、その後さらに10%下落すれば追加で買う。一回の購入金額は余裕資金の20%にするといったように、自分なりの投資のルールを決める。

また、どの程度の損失に耐えられるか、自分自身のリスク許容度を把握しておくことも必要だ。その上で分散を意識して資金の運用を行うことで、高値掴みをしたり、急速な環境の変化に慌てふためき保有株を投げ売って損失の発生に直面したりするといった展開を避けやすくなる可能性がある。反対に、事前に自分自身のリスク許容度などを考えず、手元資金を一度にリスク資産に投入するといった行動をとってしまうと、変化への対応が難しくなる恐れがある。

楽観や過度な悲観に巻き込まれないために

1月以降、中国を中心に、新型コロナウイルスの感染が広がる中、あるベテランファンドマネージャーは「高値で推移していた株を徐々に売りはじめ、ポートフォリオに占めるキャッシュポジション(現金の持ち高)をそれまでよりもかなり多めにした」と話していた。そうした投資行動は、資産を守るために大切だ。

周囲の楽観や過度な悲観に巻き込まれることを避けるためには、自分なりのリスクとの付き合い方、購入の際の基準などの“投資哲学”を確立し、徹底することが欠かせない。それは、変化をチャンスに変え、より豊かな人生を目指す一助となるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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