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定年後に「孤立した迷惑老人」となるオジサンに共通すること

プレジデントオンライン / 2020年4月3日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/absolut_100

定年後、「孤立した迷惑老人」となる人には共通点がある。心理カウンセラーの下園壮太氏は、「環境の変化でネガティブな感情もわいてくる。それをケアするスキルは、50代のうちから身につけたほうがいい」という——。

※本稿は、下園壮太『50代から心を整える技術』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■50代の過ごし方次第で定年後は二極化する

50代という時期を迎えると、今までとは何か違う、先細り感や疲れ、うっすらとした不安を感じていらっしゃるのかもしれません。

仕事は相変わらず忙しく、疲労がなかなか抜けなくなった。かつては趣味にしていたことが、体力的にしんどくなってきた。人づきあいもおっくうに感じる。新たな趣味を、と思っても、寝食忘れて打ち込みたいものもないし、そもそも自分が何を好きなのかよくわからなくなってきた——

50代は、体力、気力、脳力が衰えてくる、老いの入り口です。自分の仕事や立ち位置にも先が見えてきて、定年も視野に入ってきます。何らかの「定年に向けた備え」をしたほうがいいとは思うものの、疲れが蓄積しているとフットワーク軽く動く気にもなれません。

しかし、実は50代は、大切なターニングポイントなのです。実際、私は定年を迎えた人が、その大きな変化の時を「うまく乗り越え、充実した日々を歩んでいる人」、あるいは「うまく乗り越えられず、迷惑老人や孤立老人になっていく」という二極に大きく分かれる現実を見てきました。カギとなるのは、できるだけ早く、できれば50代のうちに、定年後の環境変化に向けたメンタルの心構えを始められるかどうか、です。

■退職という環境変化は大きなストレスになる

私は、陸上自衛隊で、隊員たちのメンタルヘルス教育を担当する「心理幹部」として、20年間勤務してきました。うつやコンバット(惨事)ストレスへの対策を考えたり、「自殺・事故のアフターケアチーム」のメンバーとして300件以上の自殺や事故のケアに関わってきました。2015年に56歳で定年退職し、現在もカウンセリングを続けています。

自衛隊は退職年齢が早く、54歳から56歳の「若年定年制」を採用しています。そんな中で私は自分を含め、退職後の人たちがどのような状況になるのかを、この5年間つぶさに見てきました。再就職先になじめた人もいれば、うまく適応できずうつっぽくなったり、辞めてしまった人も多い。そんな私自身も、退職という環境変化にストレスを受け、予想外の体調変化に戸惑いました。

私自身、42歳のときにうつになり、精神科を受診し、1カ月の休職を経験しました。元の自分に戻れた、と思えるまでに、1年間のリハビリを必要としました。そのとき、うつについてすでにわかっているつもりでいたのに、支援者として「外側」から見るのと、当事者として「内側」から見るのとでは、こんなにも見える景色が異なるのだ、と驚きました。結果的に私はうつ状態から回復することができ、その経験を糧にすることができていると思っています。しかしいっぽうで、なんとなく生涯にわたってずっとうつっぽさを引きずってしまう人も多いのです。

■うつから復活する人と引きずる人の違いは?

多くのケースを支援してきて、うつから復活する人、引きずる人、その違いは、「人間への価値観を緩められるかどうか」だと感じます。人はうつになったとき、何を学んで立ち上がっていくのでしょう。

自分も他者も含めて「人間というものは、なかなか思い通りにはならないな」「理屈で理解しようとしても、感情に振り回されるものなんだな」という現実をしっかり認めて受け容れられた人は、必ず復活し、その後のストレスに対しても簡単には折れない心の軸を身につけていきます。

ところが、「うつになった自分」を認められないまま、治療を受けたり職場環境の調整で「表面的に復活」した人は、その気になれば困難は克服できる、と、自分にも他者にも相変わらず厳しいままです。無意識的に、うつだったことを「自身の人生の汚点」ととらえています。自分に対する価値観、人に対する価値観を緩めることができないので、大きなストレスに遭遇したとたんに対人恐怖や自信の低下が強くなり、再びうつに吸い寄せられていきます。

■50代や定年では「うつ」と同じことが起こる

いっぽう、うつになった自分を心から認めることができた人は、必死に学ぼうとします。学校を休み、職場を休み、いったん、これまで蓄積されたものがゼロにリセットされているから、「なんとかしなければ」と真剣になっています。必死で学ぶから、大きな収穫が得られるのです。

復活のときにカギを握るのが「目標の再設定」です。数カ月休み、出世競争の世界からいったん身をひいた人が社会に戻るときには必ず「目標の立て直し」、つまり、目指す山の見直しが必要になります。これまでのやり方で心が折れてしまったのだから、次からは、目標や、やり方を変えていきましょう、と、私はクライアントと併走しながら復活プランを立てていきます。

お気づきでしょうか。50代、そして定年というターニングポイントには、ほぼ、うつと同じことが起こります。

定年後には、それまで当たり前に期待されていた「役割」がなくなり、組織から与えられていた収入もこころもとなくなります。新たな環境で一から人間関係を結ぶときには、これまで組織で培ってきた価値観を緩めないといけません。組織における生活で硬くなった心、ますます疲れやすくなる体への価値観も緩めなければいけません。このターニングポイントこそ、ゼロリセット。「目標の立て直し」と「歩み方の見直し」が必要になります。

■50代こそ「心の整え方」を身につけるべき時期

このように、うつからのリハビリと、定年の乗り越え方は、見事にシンクロしています。

50代は、最適のタイミングです。まだエネルギーもある。うまくいかないときには「次、行ってみよう!」と切り替える柔軟性もあります。今だから、いろいろなお試し、味見ができます。それに、定年までにあと10年近い時間があります。何より、現在のあなたは職場という環境でさまざまな人間関係に揉(も)まれているので、価値観をほぐす「絶好の練習場」もある。メリットだらけです。

もちろん、定年後にとりかかっても遅くはありません。なにしろ、これからの人生はまだまだ長い。価値観をほぐし、怒りや不安、悲しみといった感情をケアするスキルを身につければ、あなたはもちろん、そばにいる人にもその波紋は広がっていきます。そうやって身につける「心の整え方」は、資産よりも力強くあなたの生涯を支えるでしょう。

下園壮太『50代から心を整える技術』(朝日新書)
下園壮太『50代から心を整える技術』(朝日新書)

うつからのリハビリの中で、数多くの失敗、練習、学びの経験を重ねた人は、薬もカウンセリングも必要なくなる、うつからの卒業のタイミングになったとき、すっきりした表情で「先のことはわかりませんからねぇ」と言うようになります。

いくら入念に準備をしても、いろいろな予想外の事態が起こるのが現実社会というもの。必要以上に将来を悲観しても、準備に必死になっても、仕方がないところもあります。

我が身に起こるいいこと、嫌なことも「ほどほど」に楽しめるようになる、それが目指すべきゴールです。

50代というターニングポイントを大切に取り扱いましょう。今のあなたにできる「小さな一歩」を試してみましょう。経験を重ねるうち、「このくらいのバランスが、自分はそこそこ幸せだな」というラインがわかるようになります。私もそんなシニアとして歳を重ねたい。

ぜひ、あなたも「そこそこ幸せシニア」を目指して、一歩、前に進みましょう。

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下園 壮太(しもぞの・そうた)
心理カウンセラー
1959年、鹿児島県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。陸上自衛隊初の「心理幹部」として多くのカウンセリングを手がける。著書に『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)など多数。

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(心理カウンセラー 下園 壮太)

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