みずほ銀行頭取「ニューヨークで学んだ英語上達3原則」
プレジデントオンライン / 2020年4月27日 11時15分
■「よし、僕も挑戦しよう」と決心した
英語が苦手科目だった私が、米国に留学しようと思い立ったのは大学2年のときです。友人から「スタンフォード大学に短期留学してきた」と聞き、テレビ番組『兼高かおる世界の旅』で外国に憧れていましたから、「よし、僕も挑戦しよう」と決心したのです。
地方出身の貧乏学生ですから、もともと学費と生活費は自分で稼いでいました。歌手のボディーガードや戦隊ヒーローものの悪役など風変わりな仕事も経験しましたよ(笑)。数十万円の留学費用は築地の魚市場で3カ月ほど働いて確保しました。
サンフランシスコ国際空港に降り立ったのは1983年の夏。ゴールデン・ゲート・ブリッジを渡り、スタンフォードの広大なキャンパスにゴルフ場やスタジアムがあるのを見て、スケールの大きさに圧倒されました。米国の繁栄と自信に満ちた様子に興奮し、「将来は世界で活躍するビジネスマンになりたい」と思ったものです。
寮生活では米国人の学生と同室でした。日中は各国からの留学生たちと英語のクラスに通い、寮に戻ればルームメートと話す。もちろん、2カ月間の短期留学で英語がマスターできるはずはありません。ただ、そうやって若い頃に海外へ出て、異文化に触れるというグローバル・コミュニケーションの原体験が貴重だったと思います。
■ウォール・ストリートに立って決心した
早稲田大学を卒業して第一勧業銀行(当時)に就職すると、日本橋の茅場町支店に配属されました。自転車で取引先を回り、預金を集めてくる仕事です。その頃から「海外の仕事に就きたい」とずっと手を挙げていました。暇さえあれば、専用ラジオで米軍のFEN(現AFN)を聴いて準備をしていました。
希望が叶ったのは入行5年目、89年からニューヨーク支店勤務になりました。いざ赴任すると留学中に学んだことは忘れているし、基礎的な勉強だけでは通用しない。「実体験に勝る学習なし」と痛感しました。
必死に英語を学び直しながら気づいたのが“英語上達の3条件”です。
第1は、文法をいったん忘れること。文法は大切ですけれど、それに縛られると会話に躊躇してしまう。コミュニケーションの神髄は、上手に話すことではなく、自分の考えを相手に伝えることです。
第2は、街に飛び出すこと。当たり前ですけど、街は英語で溢れている。他人の会話が聞こえてくるし、ポスターの宣伝文句も自然と目に入る。私が話すのは“ダフ屋の英語”だと言われたことがあって、それはディスカウントストアで値段交渉をしたり、ヤンキース・スタジアムで隣り合わせた米国人のファンと一緒に応援したり、そんなことを繰り返したからかもしれません。実体験を重ねるには積極性がなにより大切。「成功の反対は、失敗ではなく、挑戦しないこと」が私の持論です。
第3は、日本について勉強すること。コミュニケーションでは相手のことを勉強するのは当然です。しかし一方で、日本のことを尋ねられることも多い。現在の政治、経済だけでなく、伝統文化や歴史、芸術についてもよく質問されます。そのときに「知りません」では会話の相手を落胆させます。自分の言葉でしっかり説明できるのは、グローバル・コミュニケーションでは基本中の基本です。
街で生きた英語を学ぶかたわら、私は自費でニューヨーク大学の夜学に通い始めました。ウォール・ストリートに立ったとき、「ここの優秀なバンカーたちと対等に渡り合うには、金融の勉強が必要だ」と感じたからです。金融分野に強い同大学で、ファイナンス専攻のMBAコースに入りました。
周囲からは「英語もままならないのにMBAなんて無謀だ」「業務のために赴任したのだから、勉強しなくていい」という声も聞こえてきました。上司のひとりに社費留学の経験者がいて、支店長に「MBAはそんなに甘くありません。私はフルタイムで勉強してやっと卒業できたぐらいです。こいつは絶対に途中で諦めますから、とりあえず通わせてやってください」と説得してくれました。
■睡眠時間は2時間から3時間を3年つづけた
そう言われると、私も途中で投げ出すわけにいきません。9時から17時までは通常の業務、それから21時頃まで夜学に通い、またオフィスに戻って時差があるので0時頃まで日本との業務に当たる。そこから3時頃まで大学の宿題に取り組むので、睡眠時間は2時間から3時間。この生活を3年つづけました。
まだ娘が幼い頃で、家事や子育ても助けてあげられず、反省しています。無事に卒業したときは、マラソンで最後ふらふらになった最終走者が入ってくるような感覚でした。教授からも「諦めないでよく頑張った」と褒められ、卒業式では、仲間たちから最も大きな拍手をもらいました。自己投資に相応の金額がかかりましたが、あの3年間で英語力にも金融知識にも自信を持つことができました。
英語を学ぶメリットは、“もう1つの思考回路”が持てること。私自身、英語を話すときはいつもと違う思考になっていると感じます。たとえば、結論から先に伝える、「イエス」と「ノー」を明確にする、これだけでも大きな違いでしょう。英語を話さない場合でも、「これは海外で通用する説明か」「ダイバーシティーインクルージョンの観点から見て大丈夫か」といったスクリーニングは強く意識しています。
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みずほ銀行取締役頭取
1961年生まれ。福岡県立筑紫丘高校、早稲田大学商学部を卒業後、85年第一勧業銀行(現みずほ銀行)に入行。ニューヨーク大学経営大学院、マサチューセッツ工科大学経営大学院にてMBAを取得。2017年4月より現職。
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(みずほ銀行取締役頭取 藤原 弘治 構成=伊田欣司 撮影=大槻純一)
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