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退職金を「年金方式」で受け取ると税金で大損する

プレジデントオンライン / 2020年4月27日 9時41分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FluxFactory

退職金は、一時金で一括して受け取る方法と、年金として分割で受け取る方法がある。どちらがお得なのか。元国税調査官で税理士・産業カウンセラーの飯田真弓氏は、「税金面で優遇を受けられるのは一時金だ。勤続年数が長いほど税金が安くなる仕組みになっている」という――。

■退職金は一生に一度、大きなお金を手にするチャンス

会社に仕えて、家族を支えてきたサラリーマンが一生に一度、大きなお金を手にするのは、退職金だ。

平成29年4月、人事院は、「民間の退職金及び企業年金の調査結果並びに国家公務員の退職給付に係る本院の見解の概要」の中で、退職給付制度がある企業を92.6%と発表している。

今回は退職金の受け取り方について考えてみたいと思う。

退職金にかかる税金は、受け取り方で変わってくる。

まずは自分が勤めている会社の退職金制度を理解しておくことが必要だ。就業規則の「退職金規程」を確認しておこう。

退職金規程で「一時金のみ」と定められていれば選択の余地はない。一方で、一時金でもらうか、年金にするか、一時金と年金を組み合わせるか、自分で決められる場合もある。税金の観点で考えると、一時金は「退職所得」、年金は「雑所得」として処分される。かかる税金はそれぞれどれくらいなのか。

例として、勤続年数37年で、60歳で定年退職し、退職金2000万円をもらえる場合の10年間の税金を考えてみよう。

一時金の「退職所得」の計算式は以下の通りだ。

●退職所得の計算
(退職一時金等の収入金額-退職所得控除額)×1/2=退職所得の金額

●退職所得控除額
退職所得控除額の計算の表

【国税庁HPより】

「退職所得」は5万円となり、この5万円にかかる所得税・住民税は7552円となる。つまり、1999万2448円が手取りでもらえることになる。

一度に2000万円もらうのに、1995万円に対しては税金はかからない。「退職所得」は、税負担が軽くなるよう配慮されており、他の所得と合算せずに分けて計算を行う「分離課税」とされているからだ。

■年金方式は他の公的年金等収入と合算して税額を計算する

では、退職金を分割の年金で受け取った場合はどうなるのか。

一般的に年金は、「雑所得」という所得の種類に分類される。ただし、退職年金が「公的年金等」に該当する場合は、税控除を受けることができる。控除額を超えた分が「雑所得」として課税される。

たとえば、2000万円の退職金全額を、10年で分割して受け取る場合で考えてみよう。条件として、年金の運用分が210万円(運用率2%で計算)、公的年金の収入金額が年350万円、年金以外に収入はなく、所得控除は社会保険料が60万円と基礎控除48万円のみ、復興特別所得税は加味しないことにする。

この場合、10年間、毎年21万1350円を税金として納めることになる。

一方、一時金の場合、課税対象は公的年金だけなので、毎年6万3500円を収めることになる。1年で14万7850円、10年で140万7850円の差になる。退職金を一時金でもらった場合の所得税2552円を差し引いても、147万5948円の差だ。

■国民健康保険税も高くなる

それだけではない。住民税も高くなる。その差は1年間あたり、30万8850円-12万7000円=18万1850円。10年間だと181万8500円。退職金を一時金でもらった場合の住民税5000円を差し引いても、その差は181万3500円にものぼる。

さらに、国民健康保険税は前年の所得金額によって変わってくる。市区町村によって計算方法が変わるが、退職年金によって、納める金額が1年間で6万円増えたと仮定すると、10年で60万円の差となる。

退職金を年金でもらう場合、雑所得に該当するので、雑所得が増えた分だけ、国民健康保険税も高くなるのだ。

所得税、住民税、国民健康保険税の10年分の差を合わせると388万9448円となる。

退職金を一時金として受け取るか、年金で受け取るかを考える際、所得税・住民税だけではなく、国民健康保険税も考慮に入れて選択しなければならないというわけだ。

■まとまったお金を手にしても気が大きくならないように

シミュレーションの結果、一時金の方が納税額がかなり少ないという結果が出た。それでは、なぜ年金方式が存在するのか。

年金方式は2%程度(運用率は会社により異なる)で運用され、その運用益が支給額に上乗せされるため、額面だと年金方式の方が高くなるのだ。

しかし、一時金は税金面で優遇されているので、手取りは一時金の方が高くなる。ファイナンシャルプランナーの深田晶恵氏も、プレジデントオンラインの記事「退職金は“年金受け取りより一時金”なワケ」(2019年3月5日配信)で、「年金受け取りより一時金受け取りが有利」と指摘している。

税金面で多大なメリットがある一時金受け取りだが、冒頭でも説明したとおり、控除額は勤続年数によって違ってくる。勤続年数が長いほど控除額が多いが、短いほど少ない。転職が当たり前になった時代でも、税制は「定年まで1つの会社に勤め上げる」という昔ながらの働き方をする人に有利なまま、アップデートされていない。だが、今後も改正の動きはないのかというと、そうでもないようだ。

2019年10月2日の日本経済新聞に、「甘利自民税調会長『働き方による差是正』、退職金課税の見直し議論」という記事があった。

退職所得への課税は終身雇用を前提としている。甘利氏は転職を繰り返す人の増加などを念頭に「ライフコースの変革に向け適切な税体系がどうあるべきか議論したい」とし、2020年度税制改正で所得税の見直しを議論する考えを示した。

■国としてもガイドラインを作るべきだ

また、大和総研政策調査部主任研究員の神尾篤史氏は、「所得税改革の次なる論点は?  働き方に中立的な税制に向けた取り組み」の中で、退職所得控除のあり方について言及している。

給与所得控除や基礎控除に続いて、退職所得控除についても見直す時期が来ているというわけだ。

退職金の受け取り方は、全くもって個人の自由だ。大切な退職金を一時金で受け取ったはいいが、運用方法が分からず、甘い言葉をかけてくる営業マンに一任することは避けたい。

国としては、一時金で受け取るのと、年金で受け取る場合の税負担が、10年で数百万円も差があることについてのガイドラインを作成するべきだろう。

退職金は長年勤めた自分へのご褒美でもある。個人レベルでも、退職後も幸せに暮らすためどのように運用するのか、時間をかけて、検討することが必要だと思う。

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飯田 真弓(いいだ・まゆみ)
税理士
元国税調査官。産業カウンセラー。健康経営アドバイザー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生で、26年間国税調査官として税務調査に従事。2008年に退職し、12年日本マインドヘルス協会を設立し代表理事を務める。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』『税務署は3年泳がせる。』(ともに日本経済新聞出版社)、『調査官目線でつかむ セーフ?アウト?税務調査』(清文社)、『「顧客目線」「嗅覚」がカギ!選ばれる税理士の”回答力”』(清文社)(近日発売)がある。

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(税理士 飯田 真弓)

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