「公務員になれば一生安泰」神話はもう崩壊している
プレジデントオンライン / 2020年4月3日 15時15分
■公務員志望の若者を批判する老害よ、まずは落ち着け
来年の春に向け、大学4年生たちは就職活動を進めている。民間企業への就職活動は、コロナ騒動でスケジュールが混乱している他、ウェブによる説明会や選考など新しい手法の導入が進んでいる。
ただ、大学生の進路は民間企業への就職だけではない。公務員への就職をする人たちがいる。公務員と一言で言っても、国家公務員、地方公務員、さらには警察官や消防士など多様であるし、それぞれに種別がある。中には専門性が高く、「こんな仕事があったのか」と驚くようなものもある。
さて、若者が公務員の道に進む際に、皆さんはどのような印象を抱くだろうか? おそらく、次のような印象を抱くのではないだろうか。
「若者が公務員を選ぶとは。安定志向そのものではないか」
「若者はなぜ、チャレンジしなくなったのか。保守的な選択ではないか」
「ハイリスク・ハイリターンのベンチャー企業に飛び込んで、自分を試してみてはどうか。公務員は残念すぎる」
これもまた、毎年、ネット上で盛り上がるテーマである。いかにも、若者に説教をする中高年の老害芸のような話だ。そして、誤解も甚だしい。現実は公務員を選ぶことは安定志向だとは言い切れない。現状のキャリア形成に関する考え方からもずれている。ハイリスクである。なんせ、将来が先行き不透明である。一方、それでもこの世界に進みたい若者というのは、社会貢献、
■そもそも国と自治体が不安定なのに、公務員が安定なわけない
「公務員は安定している」論が嘘であることを明らかにしつつ、今どき公務員を選ぶ若者の気持ちを代弁することにしよう。読んだ後には、公務員を目指す若者の未来よりも、自分の未来が不安になることだろう。
「公務員は安定している」と言われる。が、現実はそうではない。その安定の前提となる、国や自治体が揺らいでいるからだ。
深刻なのが、地方自治体である。「東京一極集中の解消」「地方創生」が叫ばれ続けている。ただ、現実的に「地方消滅」のリスクが大きい。元岩手県知事、元総務相であり現日本郵政代表執行役社長の増田寛也氏による『地方消滅』(中央公論新社)がベストセラーとなった。
少子化対策や、外国人労働者の拡大などが叫ばれるが、人口減少社会は現実のものとなっている。『年収は「住むところ」で決まる』(エンリコ・モレッティ/プレジデント社)がベストセラーになったが、世界的に都市部に人口が集中する流れになっている。
■増える、キャリア官僚に「なりたくない」東大生
島根県が大正時代の人口を割り込んだ件や、北海道の夕張市の破綻などが話題となったが、明日は我が身という自治体は枚挙に暇がない。これは都市部でも同様である。毎年、人口が増加する東京都においても増減数は区や市によりメリハリがある。市部においては、立川市などは人口が増えているが、減少が懸念される市もある。23区内も同様で、区による格差は明確だ。23区の再編論も何年かに一度、政治家などの間で浮上する。
地方公務員は安定していると思い就職しても、その自治体自体が地盤沈下する可能性がある。実はカチカチ山状態になる可能性があるのだ。
官僚についてもそうだ。官庁に関しても、今後も統廃合の可能性はある。平成では大蔵省、通産省、厚生省、労働省、
そもそも、官庁に関しては魅力的な職場かどうかという問題がある。よく「東大生の官僚離れ」が報じられる。とはいえ、実際は毎年、キャリア官僚試験においては東大からは300名を超える合格者が出ている。2位の京大とはダブルスコア以上になる年もある。ただ、キャリア官僚合格者にしめる東大生の割合は減っている。この10数年でのピークは平成22年卒の32.5%だったが、現在は20%以下となっている。
■GAFAが企業を超え、国となった
いまや国家という枠組みが揺らいでいる。地政学上のリスクだけではない。そもそもGAFAに代表されるプラットフォーマーが台頭している。これらの企業はもはや、グローバル企業をこえ、一つの国ではないかと思う瞬間がある。各種サービスの利用料は税金のようにも見えるし、提供するサービスは社会のシステムを規定しているかのようにも見える。東大や京大の学生が官僚ではなく、こちらの世界を志向することは納得感がある。国という枠組みを超えた、世界的なサービスに関わることができるし、圧倒的な働きがいがあり、給料もとびきり良い。閉塞感も感じられない。
日本の官僚は出世が遅く、給料も安い。しかも将来に先行き不透明感が漂う。東大生の官僚離れは、まっとうな判断の結果だろう。
公務員が安定していると言われるが、もし公務員として就職したとして、あなたは一生公務員なのだろうか。そうとは言い切れない。
昭和の後期から平成、令和の時代を振り返ってみよう。民営化のラッシュだった。国鉄、電電公社、専売公社、郵政の民営化の他、
現在、検討されているのは水道事業の民営化であり、賛否を呼んでいる。もちろん、コストや、安定したサービス供給という点で論争を呼んでいる。民営化だけでなく、外部化という流れもある。たとえば、公園の運営などに関わる外部への依頼である。
■民営化にAI化。安定とは程遠い現実と向き合おう
いずれにせよ、現状、公務員が担っている業務が民営化、外部化するということは考えられる。常に仕事があると思っていて良いわけではない。
さらに、キャリア組はともかく、一般職などに関してはAIに置き換わる可能性だってあるだろう。ルーチンの業務はウェブ化、AI化の流れにより雇用が激減してもおかしくない。
このように、試験に合格して公務員になれたところで、自分たちの仕事がなくなっていくリスクと向き合わなくてはならない。これもいま、目の前にある現実である。安定とは程遠いのが現実だ。
キャリア形成に関する環境が不安定であること。これも公務員の問題だ。これは民間企業にも共通する点ではあるし、公務員の種類にもよる。
現在、無期無限定の日本的雇用システムに対する賛否の声がある。人事権を組織が強くもち、異動のある雇用システムは、キャリア形成もワーク・ライフ・バランスやクオリティ・オブ・ライフという概念を華麗にスルーする可能性がある。もちろん、多様な経験を積むことができるし、人脈も広がるが、必ずしも専門性が磨かれないし、個人の生活上の事情もスルーされる。その古きよき、そして悪しき働き方が温存されているのが、公務員の働き方である。
■もはや「堅物」「保守的」という官僚・役人像はないのだ
私は千葉県の私学で教員をしつつ、評論家、コンサルタントとして活動している。仕事柄、日常的に公務員と仕事をしている。政府の各種委員会に参考人として、自治体に講演の講師として呼ばれることがよくある。さらには、取材の目的で彼らの話を聴きに行くこともある。
メディアでは「官僚」「役人」と括られ、叩かれる彼らだが、実際に仕事をしてみて不愉快な想いをしたことが一度もない。むしろ、大変に聡明な上、使命感が強い。さらに大胆なプランを提案する「攻めている」方も中にはいる。起業家や、広告代理店の社員と話しているかのような気分になることすらある。
実際に、法案になる前のものも含めると、官僚たちは実にユニークなプランを多様な人を巻き込んで実現している。参考人や委員として参議院や官庁に呼ばれたことが何度かあるが、事前の打ち合わせも当日の議論も「攻めてる」と感じることは一度や二度ではない。「堅物」「保守的」という官僚、役人像はそこにはない。
よくも悪くも「これは官庁、自治体の職員の仕事なのか?」という案件も担当することになる。地域のB級グルメ、ゆるキャラ、スポーツチームの誘致や運営などにも関わる。一方、彼らと接していて切なくなるのが異動である。仕事上、接点のある方は必ず異動がある。しかも、必ずしもこれまでの専門分野とは関係ない部署に異動する。
■今、最もロックなのは公務員志望の君だ!
なお、よく地方公務員の魅力として「地元で働くことができる」ことが挙げられる。ただ、これは必ずしも正しくない。都道府県の職員の場合、そもそもエリアが広大で、同じ県ではあるが、必ずしも実家から通えるエリアではないということもある。さらに、中央官庁などへの出向や、東京や海外の事務所勤務などもあり得る。
このように、多様な経験を積むことができる一方で、必ずしも地元で働くことができるわけでも、専門性が磨かれるわけでもないのが、公務員の仕事である。
ややちゃぶ台を返したようなことを言う。このような現状をみた上で、公務員を志望する若者を批判していいのだろうか。「安定しているから公務員」という若者には、この記事を通じてそうではないことに気づいてもらいたい。一方で、ハイリスク・ローリターンなのにも関わらず、国や地域に貢献したいと言う若者たちは、まるで社会起業家のようにすら思えてくる。
いまさら安定した仕事でも、未来が約束しているわけでもない公務員に進む若者を見ているとロックだなと思う。よく「もう一度、就活するならどこに行きますか?」と言われることがある。私の選択肢の一つは「公務員」だ。
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千葉商科大学国際教養学部准教授、働き方評論家
1974年札幌市出身。一橋大学商学部卒業、同大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2020年4月より現職。著書に『僕たちはガンダムのジムである』『「就活」と日本社会』『なぜ、残業はなくならないのか』『社畜上等! 会社で楽しく生きるには』ほか。1児の父。
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(千葉商科大学国際教養学部准教授、働き方評論家 常見 陽平)
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