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NY駐夫からの警告、東京が「外出禁止」になったら生活はどう変わるか

プレジデントオンライン / 2020年4月2日 17時15分

スーパーの床に貼られた6フィートを知らせるテープ。

東京がロックダウンされたら、私たちの生活はどうなるのだろうか。ニューヨークに隣接するニュージャージー州に在住の小西一禎さんは「感染爆発が懸念される日本で今起きていることは、こちらの2週間前の出来事ではないか」と指摘する――。

■会話好きの米国人から笑顔が消えた

不要不急の外出が禁じられてから、約10日が経過した米国・東部のニューヨーク(NY)、隣接のニュージャージー(NJ)両州エリア。全世界で最多となった米国の感染者数のうち、トップのNY、2位のNJとも感染者数は指数関数的に激増しており、事態は一段と深刻さを増している。マスクやハンドサニタイザーなどを除き、物資の買いだめは一段落したが、会話好き、冗談好きの米国人が淡々と買い物を済ませている。まったく見通しがつかない状況を踏まえ、じわじわと市民生活に影を落とし始めてきたとの印象を受ける。

「面白い写真撮ってるね。コメディみたいだ。オレも撮ろう」。NJにある量販店の棚一面から、トイレットペーパーやティッシュが一切なくなった写真を撮影していた私に、同世代の男性が冗談を飛ばしてきたのは、ほんの2週間前のこと。別れ際こそ「Take care(気を付けて)」と交わしたものの、しばらく楽しい会話で盛り上がった。

当時はまだ、店内のそこかしこで客同士の会話があり、客と店員の会話があり、店員同士も笑顔を浮かべながら大声で話していた。それが、できる限りの自宅待機を求める「外出禁止令」が出されてからは、人懐っこいはずの米国人がどことなくよそよそしい。客からも、店員からも、歩いている人からも笑顔と会話が消え、どこに行ってもピリピリした雰囲気を感じ取るのは、アジア系住民の私だけではないはずだ。

■人気スーパーがとった徹底的な感染予防対策

老若男女から支持を集める人気スーパー「トレーダージョーズ」は、客ひとりが店外に出たら、ひとりを入れる入場制限を導入した。大型カートや買い物カゴは、店員によって念入りに消毒スプレーが吹きかけられ、客に手渡される。地面や床には、6フィート(約1.8メートル)ごとに貼られたテープが新たに登場。店外での入場待ち、店内でのレジ待ちの客に対し、当局が推奨する「ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)」を取るよう、店員が呼び掛ける。

6フィートの距離を保ちながら、スーパーへの入場を待つ買い物客。
6フィートの距離を保ちながら、スーパーへの入場を待つ買い物客。

小さい子どもがいる家庭やお年寄りなどを中心に、買い物に出向くのを恐れる人は、オーガニック食品の品ぞろえで有名な「ホールフーズ」などの宅配サービスを利用し、感染予防のリスクを少しでも減らそうとしている。ただ、注文が殺到し、遅配などが起きているという。

■外出は週3回、帰宅後は服を洗濯しシャワーを浴びる

筆者は気分転換も兼ねて、家族代表として週に3回ほど買い物をしているが、入念に行動しているつもりだ。今や、ほとんどの人がマスクを着けているので、堂々とマスクを着用。ハンドサニタイザーを常に持ち歩き、小まめに使用して手を清潔に保っている。消費期限を確認しながら、商品はできるだけ奥から取り出し、滞在時間も必要最小限で済ましている。

酒屋のレジに突然現れたパーテーション
酒屋のレジに突然現れたパーテーション

帰宅後、着ていた服はすべて洗濯し、シャワーで髪の毛を洗い流す。購入した商品は冷蔵庫に入れる前に、パッケージがあるものはすべて消毒液を付けたキッチンペーパーで表面を拭き取る。フルーツや野菜は水洗いし、パンはジップロックにそのまま入れている。「ここまでやるのか」と思われるかもしれないが、二児を抱える父親として、用心し過ぎてもし過ぎることはないと思っている。

■医療従事者やこの状況で働く人々を全米が応援

イタリアなど欧州で起きている医療崩壊が、米国でも現実の問題として浮かび上がっている。自宅待機の対象外である必要不可欠な職業として挙げられた医療従事者や飲食業、宅配業者を支援する動きが、NYのみならず全米各地で広がっており、超大国・米国における社会的な裾野の広がり、連帯を痛感するような事象が起きている。

日本でもおなじみのスターバックスコーヒー、クリスピー・クリーム・ドーナツは最前線で働く医療従事者の方々に対する無償提供を始めた。アプリ上で寄付を募り、医療従事者や飲食業者を支援する取り組みも行われている。NY・マンハッタンなど高層アパートがある地域を中心に、毎日午後7時になると、この現況下でも働く人々に対し、2分間にわたって拍手を続け、歓声交じりで賛辞を贈るという実に米国らしいイベントが行われており、SNSで幅広く拡散されている。

一部スーパーは開店直後の時間帯を、高齢者や妊婦らだけに店舗を開放し、必要なものをゆっくりと買い物できるよう配慮している。自然災害や今回のようなウイルス禍でパニックが起きた場合、一段と弱い立場に置かれかねない方々を忘れることなく、優しい視線を注ぐ企業の姿勢には学ぶこと大だろう。

■テント製の臨時病院に病院船……映画のような光景が現実に

4月1日現在、NYの感染者数は8万3712人、NJの感染者数は2万2255人に上っている。もはや、よほどの数にでもならない限り、驚かなくなっている自分がいる。NY、NJ両州知事は連日、記者会見に臨み、市民に対し情報を提供。米国の3大ネットワークに加え、CNNでも生中継されており、強いリーダーシップを示して不安解消に努めるだけでなく、市民が聞きたくないようなネガティブ情報も、具体的な数字を交えて正確に伝えている。

マンハッタンの中心で、広大な面積を誇るセントラルパークでは、テント製の臨時病院が突貫工事で完成。NYとNJの間を流れるハドソン川の埠頭(ふとう)には、米海軍の病院船が到着し、映画のような光景が連日繰り広げられている。

先日、子どもが通う現地校の保護者間で「大統領が軍を投入し、2週間全土を封鎖すると72時間以内に宣言する」旨のテキストメッセージが一斉に流れた。すぐに、デマと判明したが、さすがに背筋が凍った。信じがたい風景、不確実な情報が氾濫する中、情報の真贋を見極めながら、在米日本人としてさらに慎重に対応するのが肝要だ。

日々の状況を伝えるニューヨークのメディア。
日々の状況を伝えるニューヨークのメディア。

アジア、欧州の惨状をひとごとと受け止めていた、ないしは、受け止めたかった米国人の狼狽(ろうばい)ぶりを見るにつけ、あっという間に国境を超えて、自分事となることの恐ろしさが改めて身に染みる。感染爆発が懸念される日本で今起きていることは、こちらの2週間前の出来事ではないか。自分自身はもとより、何よりも大切な人を守るために、どうか当事者意識と緊張感だけは忘れることなく、対処してほしいと切に願う。一人ひとりの責任感にあふれた行動が、周囲を助けることになるのだから。

次回は、今回のウイルス禍を受け自宅待機が続く米国で、働き方や家事分担にどのような影響が及んでいるかなどについて報告したい。

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小西 一禎(こにし・かずよし)
米国在住・駐夫 元コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員 共同通信社政治部記者
1972年生まれ。7歳の長女、5歳の長男の父。埼玉県出身。2017年12月、妻の転勤に伴い、家族全員で米国・ニュージャージー州に転居。96年慶應義塾大学商学部卒業後、共同通信社入社。3カ所の地方勤務を経て、05年より東京本社政治部記者。小泉純一郎元首相の番記者を皮切りに、首相官邸や自民党、外務省、国会などを担当。15年、米国政府が招聘する「インターナショナル・ビジター・リーダーシップ・プログラム」(IVLP)に参加。会社の「配偶者海外転勤同行休職制度」を男子として初めて活用し休職、現在主夫。2019年1月~9月、米・コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員。研究テーマは「米国におけるキャリア形成の多様性」。ブログでは、駐妻をもじって、駐夫(ちゅうおっと)と名乗る。

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(米国在住・駐夫 元コロンビア大学大学院東アジア研究所客員研究員 共同通信社政治部記者 小西 一禎)

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