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修羅場で学んだ 読み、書き、話す、聞く

プレジデントオンライン / 2020年5月7日 11時15分

JT代表取締役社長 寺畠正道氏

■5年目でやってきたマンチェスターへの異動

日本たばこ産業(JT)はドメスティックな会社と思われがちですが、海外たばこ事業は世界約80カ国に拠点があり、130カ国以上で事業展開しています。グループ全体で従業員は6万人を超え、日本人以外のメンバーが4万人を超えています。

先ほどもブラジル、スイス、台湾、ロシアから来たメンバーとランチをしていました。もちろんコミュニケーションは英語です。国は違っても、英語というツールがあれば意思疎通できるので便利ですね。振り返れば私の経歴の4割強も海外勤務になっています。

とは言うものの、入社当時の私は、英語の「読み・書き」、いわゆる受験英語はできても、「話す・聞く」ことはまるで苦手でした。

最初の配属先は京都の関西工場。当時は独身で、週末に時間があったので、趣味のゴルフの練習に加え、英語の勉強をやろうと、自費で英会話教室に通いはじめました。会社の制度には、一定期間勤務し、選抜試験を受けて合格すれば海外に行けるという研修制度があって、当時はTOEICで600点以上を取れれば合格するくらいのレベルでしたので、少しだけ真面目に勉強しはじめたのです。

入社5年目に念願のイギリスのマンチェスター工場建設のプロジェクトに参加することになりました。

■なんとなく言っていることがわかるようになるまで半年

現地に実際に行くと、驚くほど英語が聞き取れず、通じない。英語で映画やニュースを見ても、多少はわかるようになったつもりでしたから、まったく通じないのはショックでした。マンチェスターの英語には訛りがあって、ロンドンが標準語だとしたら関西弁のような感じで、アクセントも発音も違います。耳にしているのが本当に英語なのかと疑ったほど(笑)。なんとなく言っていることがわかるようになるまで半年くらいかかりました。

新工場の建設プロジェクトは土地の契約をしたり、建設や機械の購入の手続きをしたり、現地の人を雇って訓練計画を立てたりする仕事。金額も大きいので、契約内容を間違えるわけにはいきません。しかし、言葉が通じませんから、最初はこれでいいのか?と毎回内容を紙に書いて相手と確認していましたね。

それでも、さまざまなトラブルがありました。発注した高価な機械が送られてくる途中で盗難に遭って、届けを出したり、保険の求償をしたり、機械がない状態をカバーする処理に走り回ったり、しかもそれらを英語でやらなければいけないのですから、まさに修羅場の連続。

きわめつきは、現地での妻のはじめての出産。病院でドクターが話す専門用語を、辞書を片手に聞いて、どの方法で出産するかを検討する。そのような際どい状況を乗り越えることが一番の勉強法だったのは間違いありません。

数々のトラブルに直面したことで、英語も正しい文法を意識するよりも、実際にどうしたら言いたいことが伝わるのか、どうすれば伝わったかどうかを確認できるのかを考えるようになりました。それが私の英語でのコミュニケーションのベースといえるかもしれません。

JTグループの海外本社はスイスのジュネーブにあり、従業員の国籍だけ見ても50を超えています。世界各地から優秀なメンバーが本社に集まり、グローバル企業で上を目指そうというハングリーな人がポジション争いをしています。そこでは、英語ができても、仕事ができなければ何の役にも立ちません。仕事ができるというベースがあったうえで、英語力がツールとして備わっている。英語は十分条件ではなく、あくまで必要条件ですね。

海外でのビジネスで、英語に加えて問われるのが「胆力」だと思います。日本人は子どもの頃から、まず自分から謝りなさいという教育を受けますよね。でも、海外の人たちはすぐには謝らない。むしろ、まず自分はこう思うときちんと主張しなさいという教育を受けている。

■考えていることを伝え、理解させなければいけない

たとえば人事評価でも、日本人の自己評価は、「ちょっとできませんでした」と、やや低めに出してくるのを上司が「いやいや、おまえはもっとやったよ」と引き上げることが多いのですが、海外の人の自己評価は、「私は120%やりました」というところから、上司は「いやいや、そうは言うけれど、あなた、ここはできませんでしたよね?」と下げることのほうが多い。まるで逆のプロセスです。

人事評価でも企業同士のM&Aでも、交渉は、ロジカルに伝えられないと、相手は納得しません。なぜダメなのか? どうすべきなのか? リーダーとして考えていることを伝え、理解させなければいけない。そのためには、数字も必要ですし、論理も必要。ロジックが構築できていないと、議論になりませんし、反論もできません。押してくる相手を、どういなしながら押し返して交渉のベースにのせるか。これには、結構な胆力がいるわけです。

胆力を育むのは、やはり経験だと思います。いろんな経験をするには、好奇心を持ってさまざまなことに触れたいと自ら感じることがベースになります。イギリス時代には、仕事だけではなく、ゴルフや釣りなどプライベートなコミュニティにも参加し、交流を深めていました。さまざまな意見を持った人と話をするというのは、人間力を上げていくうえで大事なことですね。

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寺畠 正道(てらばたけ・まさみち)
JT代表取締役社長
1965年、広島県生まれ。京都大学工学部卒業後、89年日本たばこ産業(JT)へ入社。海外たばこ事業の買収案件などを担当。JTインターナショナル(スイス本社)の副社長を経て、2018年1月より執行役員社長、同年3月より現職。

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(JT代表取締役社長 寺畠 正道 構成=遠藤 成 撮影=大槻純一)

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