国分寺の地域通貨「ぶんじ」が全国から注目を集めているワケ
プレジデントオンライン / 2020年4月14日 9時15分
国分寺地域通貨「ぶんじ」。使うときに贈り手が裏面にメッセージを書いて渡すというルールがあり、裏面がいっぱいになると「コンプリートぶんじ」として新しいものに変えてもらえるが、そのまま持っている人が多いという。 - 撮影=プレジデント社書籍編集部
※本稿は2020年2月28日に収録された「地域資本主義サロン」での対談をまとめたものです。
■街で暮らすことが楽しくなる地域通貨
【影山】最初、企画のために集まったメンバーが10人ほどいました。その後、入れ替わりもありながら、「企画メンバー」としてメーリングリストに参加してくれている人は今、60人、70人ぐらいいます。これをやることで地域経済を活性化させるとか、ボランティアワークを可視化するとか、社会的な意義っていうこともそれはそれでもちろんあると思うんですが、やっぱりこれを持っていることで街に暮らすことが楽しくなるというのが原点にある。
![柳澤大輔『鎌倉資本主義』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/4/200/img_b44c259c66cc4d168677d6f1a47a53cc135690.gif)
【柳澤】持っているだけで楽しくなる?
【影山】たとえばですね、ぶんじの表面にドラゴンボールの星を描いた人がいるんです。
【柳澤】ここに描いてもいいんですか?
【影山】はい。ぶんじは落書きし放題なので。それが流通していて。
【柳澤】自分に回ってきたらうれしいですね。ラッキーカード(笑)。
【影山】そうですね。ああ、見つけた! ってなりますよね。これを7種類そろえると神龍が出てくる、とかね。でも、これ持っている人、渡さないんですよね(笑)。
【柳澤】ずっと抱え込んじゃってると。
【影山】いまどうなってるかというと、持っている7人というのが徐々にわかってきて、みんなで集まって神龍(世界中に散らばるドラゴンボールを7つ集めると出現する、どんな願いもかなえてくれる龍)の話をすると。
【柳澤】流通はしないけど新しい関係性ができていますね。
■いい使われ方をした通貨がわかるようになる
【影山】あとこれを使って、賭けもやったんですよ。去年僕が去年立川のハーフマラソンに出るにあたって、2時間を切れるかっていう賭けをしたんです。賭け金はぶんじで。僕はふだん全然運動していないので、圧倒的に「2時間切れない」ほうに賭ける人が多かった。こんちくしょう、絶対2時間切ってやると思って2週間ぐらいは本気でトレーニングしました。結果、2時間7分だったんですけど。
【柳澤】(笑)
【影山】それで「2時間切れる」に賭けてくれた方のぶんじが「切れない」に賭けた方に渡されました。
【柳澤】そのときはどんなメッセージが書かれたんですか?
【影山】賭けに参加した方は僕へのメッセージを書いてくれました。
【柳澤】そうか、頑張ってくれと。
【影山】頑張って、2時間切れとか、こけろとか書いてありました(笑)。僕がそこに、今度こそ2時間切るから待ってろ!みたいなことを書く。
【柳澤】そして「これは2時間切れなかったときのお金」という記録が残るわけですね。
【影山】そうそう、それが2019年だった、ということもわかるんです。
【柳澤】よくお金には色がないといわれますけど、すごくいい使われ方といい流れしかない通貨があったりとか、賭けにばかり使われている通貨とかがわかるんですね(笑)そういうのを見ながら、このぶんじをどうやって使うかを考えるようになってくるんですよ。
![地域資本主義サロン)『鎌倉資本主義』の著者で、地域固有の魅力を資本と捉えた「地域資本主義」という考え方を提唱する面白法人カヤック代表取締役社長の柳澤大輔がホストを務めるオンラインサロン。この日も全国からまちづくりに関心のあるメンバーが集まった。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/1/670/img_f1acbcf87e0a837d1ab201bff777db67633786.gif)
■「コンプリートぶんじ」がラッキーアイテムになっている
【影山】使い方の話でいうと、この裏にずっとメッセージを書いてくとどこかでスペースがなくなって書けなくなっちゃうんです。そういう状態を「コンプリートぶんじ」って呼んでいて、それを事務局に持ってきてくれれば、新しいものと交換できることになっているんです。
【柳澤】そうなんですね。
【影山】でも、実際にはほとんど交換されることがない。みなさんコンプリートされた状態のものを持っておきたいと思うらしいんです。持っていると願いごとがかなう……みたいな都市伝説がひろまったりとか。
【柳澤】お守りみたいに。いろんな人の手に渡ったすてきな通貨っていうことになるんですね。そういうのって、やる前はわからなかったけど、やり始めたらどんどん進化してきたという感じなんですか?
【影山】まさにそうですね。仕掛け人が一人二人じゃなかったし、都度かかわってくる人がいろんなアイデアを持ち込んでくれたりして、最初は考えてもいなかった使い方が出てきました。
■地域通貨は何人で使うのがちょうどいいのか
【柳澤】これを持っていて使うだけでこの街に住んでいて楽しいってことになるのはわかるんですけど、この楽しさが実感できるようになるにはどれくらいの規模が必要と思いますか?
【影山】いま、500人ぐらいの参加者がいます。このくらいの人数がいると、こっちが渡したいと思ったときに受け取ってくれる人と出会える確率がかなり高まります。僕はこうやってぶんじを名刺入れに入れているんですが、使える機会が少ないと入れている意味がないとうか……。
【柳澤】入っていること自体忘れちゃいますもんね。
【影山】でも、街のどこかで使う機会があると思えばいつも持っていようと思う。国分寺は12万人の都市ですけれども、感覚的に500人というのはいい数字になってきたなと感じています。もう1つ大事なのは多様性という意味で、お店をやっている人、お客さんで来る人、さらに野菜をつくっている人、それを運んでくる人など、いろんなかかわりをする人が街の中にいてくれることが、1回使って終わりじゃなくて、その先の2次流通みたいなことも可能にしてくれていると感じています。
【柳澤】だから500人ぐらいでも十分面白い体験でもあるなという感覚があるんですね。逆に12万人全員が使うとつまんなくなるような……。その辺ってどのぐらいの感じなんですかね。
【影山】そこは僕らも未知の領域ですけど、可能性としては通貨がいくつかに分岐してくことはあるかもしれないと思います。
【柳澤】それは場所ごとに、とかそういう意味ですか?
【影山】場所ごとかもしれないし、テーマ的に地元の農業を応援するなど食にまつわるものを対象にした通貨を設計したり、場合によっては自然再生可能エネルギーだったりを地域の中に流通させていく局面で使うのに向いているものとか。10万人ぐらいの単位だったらそれ1つの通貨でできるかもしれないですが。
![(左)面白法人カヤック代表取締役CEOの柳澤大輔さん、(右)クルミドコーヒー/胡桃堂喫茶店店主の影山知明さん](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/e/670/img_bea25231a8c3fbf0ebefbac1efc89c35685792.gif)
■コミュニティが流通の土壌になった
【柳澤】僕らが「まちのコイン」を去年1カ月間実験したときは参加者が700人ぐらいだったんですけど、700人でも十分手ごたえはありました。どこまで広がるのか、どのぐらいだと面白くなくなるのか、というのはわれわれもわかってないんですけど、やっぱり「おらが街」感があるエリアの中で使われるというのが面白さを保つ秘訣かもしれないですね。
【影山】そうですね。僕、植物のモチーフでものごとを捉えることが多いんですけど、土があってこそ種は芽を出せると思うんですよね。ぶんじのようなシンプルな地域通貨って紙に印刷できたら誰にでもつくることはできるんですよ。ただ、そうやって流通させるには、社会関係資本という土壌が必要なんです。
【柳澤】それはもともと関係性のあるチームメンバーで始めたということですか、それともこれをやりながら仲間が増えたっていうことですか。
【影山】そこは相乗効果があると感じていて。
【柳澤】ニワトリと卵的な感じですか。
【影山】そうです。最初に集まったメンバーの狭い範囲のなかでお互い気持ちよく使うっていうことができた。そしてその環に入ってくる人が増えてくると、そことの関係性も育っていって。木が育ちながら同時に土も作っていくっていう感覚です。土がつくられていくからより大きな植物が育つ。
■面白い地域通貨があるからそこに移り住む
【柳澤】実際、うちの地域でもやりたいっていう相談がきたりするんですか?
![影山知明『ゆっくり、いそげ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~』(大和書房)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/1/200/img_91139d4037fed5cfcf5cb8b03de9256d216689.gif)
【影山】最近、結構来ますね。神奈川だと大磯とかね。面白いところでは、
【柳澤】そういうときはどんなアドバイスするんですか。
【影山】それは僕らがどういうふうに使っているかとか、実際にやっている人はどんな顔つきでそのことを話しているかを見てもらうのが一番いいと思っています。地域通貨というのは地域ごとに特徴のある通貨なので、それぞれ違ってあたりまえなんです。
【柳澤】ぶんじがクルミドコーヒーのお客さんや取引先から広まったように、最初にコアなコミュニティがあったほうがいいと思いますか。
【影山】そういうところはあるかもしれません。
【柳澤】あとは時間をかけたほうがいいのか、一気に広まることもあるのか。
【影山】それは個人間をメインに捉えるか、お店で使うことをメインに考えるかで違ってくるでしょうね。
【柳澤】確かにそこはだいぶん違いますね。
【影山】そういう意味でぶんじはハイブリッドなんですが、先行したのは個人間の使用ですね。いま、ようやくお店で使うことが定着しつつあります。
【柳澤】どっちがスタートかで微妙に性質も変わるものなのかな。
【影山】通貨単位がいくらぐらいが適正か、といったことも参加者の顔触れによって違ってきますね。
【柳澤】100ぶんじか、500ぶんじか、という話ですね。こうやってみると通貨ってほんとうにさまざまな可能性がありますね。僕は今後、面白い地域通貨があるからそこに移り住もうという人も出てくるんじゃないかと思っています。
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東京都国分寺市 クルミドコーヒー/胡桃堂喫茶店 店主
1973年西国分寺生まれ。東京大学法学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、ベンチャーキャピタルの創業に参画。その後、株式会社フェスティナレンテとして独立。2008年、西国分寺の生家の地に多世代型シェアハウスのマージュ西国分寺を建設、その1階に「クルミドコーヒー」をオープンさせた。同店は、2013年に「食べログ」(カフェ部門)で全国1位となる。2017年に「胡桃堂喫茶店」を国分寺駅にオープン。本屋も併設した。国分寺市の地域通貨ぶんじプロジェクト発起人の一人。ミュージックセキュリティーズ株式会社の取締役等も務める。著書に『ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済』がある。
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面白法人カヤック代表取締役CEO
1998年、学生時代の友人と面白法人カヤックを設立。2014年12月東証マザーズ上場(鎌倉唯一の上場企業)。鎌倉に本社を置き、Webサービス、アプリ、ソーシャルゲームなどオリジナリティあるコンテンツを数多く発信する。著書『鎌倉資本主義』で、しなやかなつながりで幸せを実現する地域資本主義へのシフトを提案。近著に『リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来』。2017年に設立した子会社、株式会社カヤックLIVINGでは、まちづくりに関わる人や関心のある人が継続的に学び、共有し、ステップアップできる場としてオンラインサロン「地域資本主義サロン」を2019年12月にスタートした。
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(東京都国分寺市 クルミドコーヒー/胡桃堂喫茶店 店主 影山 知明、面白法人カヤック代表取締役CEO 柳澤 大輔)
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