コロナ禍の「強制在宅勤務」を「テレワーク」だと思ってはいけない
プレジデントオンライン / 2020年4月3日 11時15分
■これは「テレワーク」と呼べるのか
コロナ騒動で拡大が促されたものといえば「時差出勤」や「テレワーク」である。コロナに期待したり、感謝したりするのは不謹慎そのものだが、とはいえ特に後者に関しては「これでテレワークが広がり、日本の働き方が変わるのでは?」と期待する声もよく聞く。
しかし、筆者はこの「コロナで働き方が変わる」論については、慎重に向き合わなくてはならないと、この騒動の初期から警鐘を乱打してきた。これによりテレワークを体験する人が増えるのは良いことだと評価する人もいることだろう。実際、ビデオ会議サービスのZOOMなどを活用しパフォーマンスが上がったという声もよく聞く。
一方で、このテレワークの広がり方は理想とは程遠いものであることを確認しておきたい。そして、コロナ克服時にこそ働き方における真の改革は行われることだろう。今回のコロナによるテレワーク拡大の問題点と、この働き方の有効活用について考えることにする。
皆さんの中でも、企業からの指示によりテレワークを実践している人も多いことだろう。ただ、まず前提としておさえておきたいのは「これは、テレワークと呼べるのか」というそもそもの問いである。結論から言うと、現状、会社員が勤務先から言い渡されて行っているのは「強制(毎日)在宅勤務」であり、「テレワーク」のかなり限定された類型である。
■そもそも「テレワーク」の正しい定義は何か
そもそもテレワークとは何か。日本テレワーク協会によると、「情報通信技術(ICT)を活用した時間や場所にとらわれない柔軟な働き方」を指す。ただ、この定義自体がすでに問題をはらんでいる。
いまや多くの業務がICTを利活用するものであり、逆にそうならないものが少ない。肉体労働や、ホスピタリティを生かした労働も、大方はICTを利活用している。例えば、宅配便のドライバー兼配達員は荷物の管理などのために端末を活用しており、肉体だけでなく、高度にICTを活用した労働者である。
オフィスからの離れ方に関しても種類がある。大きく分けると、在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務だ。
在宅勤務は文字通り、自宅で仕事をすることを指す。モバイルワークは、直行直帰型の営業担当者などを想像するとわかりやすい。ノートPCやタブレット、スマートフォン、その他業務用端末などを持ち歩き、外で働くスタイルだ。サテライトオフィス勤務は、自宅でも勤務先でもない第3の場所を活用して働くスタイルである。企業が用意した出張所、契約したシェアオフィスなどで働くスタイルだ。官庁やテレワーク協会などの定義でも、この3つの類型が示されている。
やや余談だが、シェアオフィスと聞いて皆さんはどのような場所を想像するだろうか。例えば、昨年業績悪化で話題となったWe Workに代表されるような、都市部にあるおしゃれなオフィスを想像するかもしれない。あるいは、カフェ風のスペースだ。ただ、シェアオフィスはそれだけではない。最近は、カラオケボックスチェーンも参入している。今は新型コロナ感染を恐れて近寄らない人も多いだろうが、もしカラオケボックスに行く機会があったら、シェアオフィスサービスがないか、チェックしてみよう。対応しているお店なら、HDMIケーブル、ホワイトボードなどを借りることができる。
■本来は頻度や距離を組み合わせた上で行われる
テレワークはその利用頻度によっても分類できる。完全にテレワークなのか、週に数回など定期的なものなのか、家族の育児や介護、自身の通院などさまざまな事情に合わせた突発的なものなのかによっても異なる。
どれくらい距離が離れているのかという問題もある。あくまで通勤が前提であって、何かあったときに駆けつけられるレベルなのか、日本国内ならどこでも良いのか、海外にいてもOKなのかなどの違いがある。
業種や職種によって、テレワークの中身も異なる。中には、根本的に自宅ではできない業務というものがある。特殊な機材を必要とするものなどだ。対面での販売の仕事などもできない。さらには顧客の都合にもよる。
言うまでもなく、これらは組み合わせた上で行われるのが現実だ。しかし、現在起こっていることは「強制自宅勤務」にすぎないのである。これを「テレワークだ」と呼ぶのはやや無理があるのだ。
■テレワークに対する誤解の数々
この約1カ月間、都市部を中心に在宅勤務をせざるを得ない状況が続いている。前述したように、いま行われているのはテレワークのごく一類型でしかない。「(毎日)強制在宅勤務」である。ただ、テレワークを体験する人が増える中で、その幻想も崩壊していくことに、私はかすかな期待を抱いている。
学術論文や、各企業においての検証でも指摘されているが、テレワークの幻想というものは次の点である。
→減るのは通勤時間である。一方、労働時間はむしろ増える可能性が高いことが、各企業の取り組みでも明らかになっている。移動時間がゼロになる分、仕事に集中してしまうからだ。テレワーク開始当初は、慣れずに仕事に時間がかかることすらある。細切れの時間が積み重なり、結果として長時間になることもある。もちろん、中には集中して仕事を終え、昼寝やヨガをしているという声も聞くが。労働時間が「必ず」減るわけではないし、むしろ増える可能性があることを理解しておきたい。
・ワーク・ライフ・バランスが充実する
→よく、育児や介護、さらにはプライベートと両立できるという言説がある。これも必ずしも、そうならない。むしろ、修羅場である。特に、小中高の休校と重なっている家庭は大変だ。仕事が忙しいときに限って子供は泣くのである。仕事とプライベートの境目が見えなくなることも問題である。
・柔軟に働くことができる。
→打ち合わせの時間など、相手に拘束される。また、労働時間が曖昧になっていくという問題が発生する。
■仕事そのものを見直す必要性も
→今回は「強制在宅勤務」に近いので、必ずしもそうならない。しかも、自宅は理想の働く環境とは言えない場合もある。仕事効率、快適性、知的生産性、健康、機密保持などの観点から問題のある部屋もある。仕事に適さない姿勢を取り続け、健康を害することもある。
・いまや、スマホとノートPCがあれば在宅勤務は可能
→たしかに、可能ではある。ただ、安心、安全な環境とはいえない。在宅勤務のためにも、ツールとルールが必要である。厳密には安全なネット接続環境が必要となる。例えば、メッセンジャーアプリ、チャットツールなども安全性が高い業務用のものを活用しなくてはならない。情報漏洩リスクを避けるために、認証の仕組みを導入したり、端末上にデータが残らないための仕組みを導入しなくてはならない。
このように、突貫工事の(毎日)強制在宅勤務では、これらの問題点が顕在化するのだ。なお、テレワークはあくまで手段である。そもそものワークそのものを見直す必要もあるだろう。ただ、働き方改革が単なる時短運動、早帰り運動と化してしまったのと同じような過ちを私たちは犯してしまわないだろうか。これは気をつけるべき点である。
■少しでも在宅勤務をスムーズに行うためにできること
そうとはいえ、今の状況では在宅勤務をせざるを得ない。どうすれば少しでもうまくいくだろうか。取り組んでいる人に、コツを聞いてみた。
→メールはいまやレガシーツールとなりつつある。メールからメッセンジャーに切り替え、コミュニケーションを簡潔にしよう。
・一番不利な人の立場で考える(メディア企業勤務)
→遠隔から参加している、育児・介護などと両立しているなど、一番不利な立場にある人がストレスを感じないようにコミュニケーションする。必然的にゆっくり、簡潔に話す必要がある。
・ビデオ会議では、リアクションを大げさに(大学教員)
→ちゃんと聴いている風にすると、互いにストレスがなくなる。
・ビデオ非表示を容認する(外資系IT企業勤務)
→化粧をしていない、部屋着で生活している、疲れてイライラしているなどの理由からビデオにうつりたくない人がいる。その場合、自分の姿を非表示にする権利を容認する。
■今の試行錯誤を次につなげよう
→ストレス解消の意味でも、孤立化を防ぐ意味でも、仕事に関係ない話を推奨する。
・ストレス解消のグッズを用意しておく(フリーランス)
→ヨガマットなどを用意。運動不足を解消する。
・やってはいけないことを決める(メディア企業勤務)
→例えば、個人情報を扱う仕事など。
・遊び心を大事にする(IT企業勤務)
→ZOOMの背景を変えるなど。
まだまだあるが、この辺で。とにかく、テレワークを行うにあたり最適かどうかを自分でデザインすること、ノウハウをいかに生かすかがポイントとなる。
最後に。現状は「(毎日)強制在宅勤務」にすぎない。コロナ後にこそ真の改革が行われる。テレワークの本質は、働く場所、目的、頻度などの組み合わせにあるからだ。現状の試行錯誤を生かし、会社と社会のあり方を変えよう。
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千葉商科大学国際教養学部准教授、働き方評論家
1974年札幌市出身。一橋大学商学部卒業、同大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2020年4月より現職。著書に『僕たちはガンダムのジムである』『「就活」と日本社会』『なぜ、残業はなくならないのか』『社畜上等! 会社で楽しく生きるには』ほか。1児の父。
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(千葉商科大学国際教養学部准教授、働き方評論家 常見 陽平)
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