コロナショックで真っ先に失業するのが若者である理由
プレジデントオンライン / 2020年4月2日 17時15分
■生産の停止にまで踏み込んだイタリアとスペイン
新型コロナウイルスの感染拡大にともない、欧州の景気が腰折れ状態となっている。感染者数の拡大に歯止めがかからないイタリアでは3月21日、生活必需品を除く生産を4月3日まで停止させることになった。イタリアの後を追うように、スペインでも3月30日から4月9日までの2週間、同様の措置をとることになった。
ジョンズ・ホプキンス大学の特設サイト(COVID‐19 Tracker)によれば、日本時間4月2日5時55分時点でイ
そもそも両国を含めた欧州各国の景気は昨年後半に底入れし、年明けには加速に転じる萌芽が見られていた。徐々に持ち直すかと思われた後でコロナウイルスの感染が急激に拡大し、経済活動は需給の両面で腰折れ状態に陥った。その結果、欧州委員会が公表する景況感指数は最新3月で各国とも大幅に低下、景気は急激に悪化することになった。
感染者数が多いイタリアとスペインの場合、生産の停止にまで踏み込んだことから欧州のなかでも経済活動の停滞が著しい模様だ。感染拡大がいつ収束するかにもよるが、両国の経済は年前半、年率換算で10%近いマイナス成長となる可能性も十分に意識される。なお同様の対策がドイツやフランスでも実施された場合、欧州景気はより一段と冷え込むだろう。
■スペインでは若年層の失業率が再び50%を超える事態も
当然のことだが、景気が冷え込めば雇用も悪化する。イタリアやスペインといった南欧諸国の場合、特にそのしわ寄せが若年労働者層、いわゆる若者におよぶと警戒される。こうした傾向は欧州を中心に先進国一般で観察されるが、それでもイタリアとスペインに代表される南欧諸国ではこうした傾向が強い。いったいなぜだろうか。
そもそも南欧諸国は、家父長制(男性の家長が絶対的な権力を持つ家族制度)が強い社会として知られる。一家の長に相当する中高年の男性は、正規の無期雇用というかたちで就業することができる。一方で、女性や若年層は非正規ないしは正規でも有期雇用という形での就業を余儀なくされるのである。
そのため、景気が悪化した場合に雇用整理の対象になりやすいのは、女性や若年層となる。先の債務危機の際、スペインでは財政緊縮策を採用したこともあり、最悪期に相当する2012年から13年にかけての失業率は25%程度まで上昇したが、若年層(15歳以上24歳以下)の失業率は50%を超える忌々しき事態となった。
イタリアやスペインといった南欧諸国では脱税が横行しており、政府の統計に反映されない経済(闇経済)がGDPの2割程度の規模まで発達していることで知られる。そのため現実には、飲食や観光などで違法(雇用主が社会保険料を払わない、など)に就業していた若者も多数存在しており、実際の失業者は統計の印象より少ないといわれた。
それに家族と同居していた若者の場合は、家長(父)による庇護を受けることもできた。しかしながら正規の職を得ることができたのは景気が回復した後、この間に彼らは着実に年齢を重ねた。当然、生涯年収はその分だけ少なくなったし、結婚や出産、住宅購入などライフイベントのタイミングも後ずれを余儀なくされたわけである。
■過去に類がない大失業が若者を襲う危険性
コロナショックという言葉ができあがるほど、コロナウイルスの感染拡大で各国の経済はマヒ状態に陥っている。ヒトとモノが動かない経済危機が長引けば長引くほど、雇用はどんどん失われることになる。若者にそのしわ寄せがいきやすいイタリアやスペインの場合、過去に経験したことがない規模の失業問題が若者を襲うかもしれない。
懸念されることは、先の債務危機の際、失業にさいなまれる若者を救ったセーフティネットが、今回のコロナショックでは機能しにくいと考えられることだ。先の債務危機の際は、飲食や観光などで違法就労が可能であったが、状況が改善すればさておき、ヒトとモノが動かない現在ではそうした状況はまず見込みがたい。
それに、先の債務危機の際に失業した若者を救った家長(父)からの所得移転もかつてほど潤沢ではないと考えられる。コロナショックが生じるまでスペイン景気は堅調に推移していたが、その間に失われた貯蓄を十分に回復させることができた家計は多くはなかったはずだ。程度の差はあれ、イタリアやギリシャでも同様のことが指摘できる。
もちろん、コロナウイルスの感染拡大に早く歯止めがかかれば、若者を中心に失われる雇用は限定的となるだろう。しかしこのことは、言い換えれば、事態の収束までに時間を要すれば要するほど、若者が被る痛みは重くなるということを意味している。若年層の失業率が50%をはるかに上回る未曽有の事態に南欧諸国が陥るかもしれないわけだ。
■日本の新卒採用も厳しさを増す。社会的安定の確保を急げ
日本も他人事ではない。3月以降、失業率はまちがいなく上昇するだろう。それに、4月からの入社直前に内定を取り消された若者も少なくないようだ。2020年度の新卒採用は、残念ながら非常に厳しいものになる。経済的には仕方がないのかもしれないが、一方で社会的な安定を考えればこうした事態をただ放置するわけにはいかない。
今回のコロナショックを受けて、各国政府は失業・休業手当の拡充を試みている。他方で、若者の雇用対策という観点では、具体的な取り組みがなされていないケースがほとんどだろう。若者の雇用を守った企業には潤沢な助成金を出すなど、若者の雇用を確保するための具体的な支援が求められるところである。
また企業サイドも、若年層の雇用を確保する取り組みに注力すべきだろう。一家を支える中高年の雇用確保はもちろん重要であるが、同時に社会を持続可能なものにさせるためには、若年層の雇用を維持していく必要がある。企業もまた政府の政策頼みではなく、より大局的な観点に立ち、若年層の雇用の確保と維持に努めていくことが望まれる。
筆者はミレニアル世代に属するが、幸運なことにバブル崩壊後の就職氷河期を脱した後の2000年代半ばに職を得ることができた。それからほぼ10年ごとに大きな経済ショックが世界を襲い、心が痛いことであるが、そのたびに若者の雇用が犠牲となってきた。労働市場の流動性は確かに大切だが、一方で社会的安定を確保できる仕組みの構築が、世界的に急がれているといえよう。
それに、今回の経済危機で各国は大型の経済対策を用意しているが、その元手はまちがいなく将来世代への借金だ。そのツケの何もかもを若者や子供に背負わせるわけにはいかない。こうした点をわれわれ一人一人が今一度自覚し、若年層の雇用の維持と確保に努める必要があるのではないだろうか。
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三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 研究員 土田 陽介)
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