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コロナパニックにならないシンガポールは日本と何が違うのか

プレジデントオンライン / 2020年4月7日 9時15分

街中に着席禁止などの表示がはられている。他人と1m以上の間隔を空けるように政府から通達が出ている。

■シンガポールの4段階警戒レベル

中国・武漢市に端を発した新型コロナウイルスは世界に感染が拡大し続け、感染者の数は急激に増加しています。シンガポールでもそれは例外でなく、人口約570万人のシンガポールでは、2020年4月4日の段階で累計感染者数は1189人となり、1000人を超えました。ただ、感染者数に対して死者はわずか6人となっており、、医療水準が高いレベルであるということもあるでしょうが、シンガポールの致死率は世界保健機関(WHO)が2%程度としている基準と比べても低くなっています。

その背景には、02年から03年にかけて流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)での苦い経験があると言われています。シンガポールではSARSによって33名の死者を出し、市民生活にも大きな影響を与えました。その教訓から今回の新型コロナウイルスの流行では、先手先手で感染拡大防止策を講じています。

筆者はシンガポールで生活をしながらライターをしていますが、メディアやSNSを通じて知りうる日本との対応の違いをいくつかの視点から論じたいと思います。

※この記事が公開された7日から、シンガポールでも外出自粛措置が始まりましたが、クアラルンプール(マレーシア)やバンコク(タイ)といった近隣都市のように外出が禁止された訳ではなく、外出をできる限り控えるようにというあくまで要請レベルに留まっています。

まず触れたいのは、国のトップがメッセージを発信するタイミングとその内容について、です。

シンガポールには4段階の感染症の警戒レベル(DORSCON)があり、2月7日には上から2番目の「オレンジ」に引き上げました。これを受けて、スーパーなどでは買いだめに走る一部の国民の姿も見られましたが、リー・シェンロン首相はすぐに国民向けビデオメッセージを発表。「恐れはウイルス以上の害をなす可能性がある。マスクの買い占めや根拠のない噂の流布などは人をパニックに陥らせ、事態を悪化させかねない」と平常心を求めました。

■安倍総理の記者会見とシェンロン首相の記者会見の違い

語りかけるようなそのメッセージは世界各地のメディアにも取り上げられ、シンガポール国民の平静を保つことに寄与しました。

3月12日には2度目のメッセージを発表し「収束するまでに1年かそれ以上になる可能性がある」と言及したうえで、更なる経済的な支援策の拡充を準備していると明かしました。

一方で、安倍晋三首相が開いた記者会見は、予定調和な答弁に終始し、国民からは不満の声があがりました。不要不急の外出を控えるよう要請している政府に対して「記者会見自体が不要不急ではないか」との批判も。シンガポールの政府対応とは雲泥の差と言えるでしょう。

シンガポール政府が新型コロナウイルスの拡大をある程度抑えられている要素として、次の4つがあると考えています。その4つとは、

(1)入国制限策の迅速な導入
(2)感染者の徹底した隔離
(3)感染者情報の公開と感染ルートの解明
(4)市民生活への財政的支援

です。

特に国民生活に密接に関係するものとして(1)入国制限策の迅速な導入と(2)感染者の徹底した隔離は、日本がコロナウイルス禍を乗り越えた際に参考とすべき点ではないでしょうか。

(1)入国制限策の迅速な導入

シンガポールはチャンギ国際空港という世界有数のハブ空港を抱えており、入国制限をすること=ビジネス需要や観光需要の減退に繋がるという事情がありますが、素早く入国制限に踏み切ったことは感染拡大の抑制に効果的だったように思います。

シンガポールで初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されたのは、1月23日。武漢から入国した66歳の中国人の男性でした。シンガポール政府はこれを受けて、1月29日には過去14日間に湖北省に滞在したことがある人などの入国を禁止し、さらに2月1日にはその対象を拡大し、中国大陸に滞在した外国人(永住権や長期滞在ビザを持つ人を除く)と中国のパスポートを持つ人の入国を禁止しました。

■中国を入国禁止にするまでわずか8日

感染者が初めて確認されてから、当時の「震源地」だった中国からの入国を禁止するまでにわずか8日。それもあり2月の1カ月間の新規感染者数は86人に抑えられていました。ただ、3月に入ると、すでに感染が拡大していたヨーロッパやアメリカから入国した人の感染確認が続き、残念ながら感染者数は3月になってから急激に増えてしまいました。

3月4日には韓国やイタリア北部、イランに滞在歴のある人の入国を禁止し、3月16日にはASEAN各国や日本などからの入国者に対して14日間の隔離措置を取り始めましたが、政府は欧米からの入国制限も早めにしておくべきだったと感じていることでしょう。

(2)感染者の徹底した隔離
バーのテラス席。四角は立つ位置を示す。
バーのテラス席。四角は立つ位置を示す。

日本人の感覚から、もっとも驚かされるのは感染者に対する隔離策の徹底ぶりです。まず、入国が制限されている地域から入国した人(現在は全ての国からの入国が一部の人を除き禁止されています)には自宅待機措置(Stay‐Home Notice、SHN)が取られます。

これは、日本政府が実施しているような「要請」ではなく「強制的な」隔離です。SHNは14日間を基本とし、その間は一切の外出を禁止する非常に厳しいもので、近所のスーパーへの買い物に出掛けるのも禁止。保健省から1日数回、スマートフォンへの電話やアプリ、ショートメールなどを通じて連絡があり、1時間以内に所在地を返信しなければなりません。

では、生活はどうするのかといえば、必需品や食料は宅配サービスを利用するなど親族や会社の人に頼ることとされています。日本で緊急事態宣言が発出された後もここまでの徹底ぶりはできないでしょう。

SHNを破ったらどうなるでしょうか。罰金や懲役刑が科される可能性はもちろん、永住権や就労ビザが剥奪されるうえ、再入国が永久に禁止されることもあります。実際、保健省にSHNの期間中の所在地について虚偽の申告をしたとして、中国人夫婦が起訴されました。

■シンガポールは「消費増税しません!」

(3)感染者情報と感染ルートの徹底公開

シンガポールの保健省(MHO)は、感染が確認された場合には、その情報を同省のウェブサイトで公開します。そこには、感染者の年齢や性別はもちろん、国籍と海外渡航歴、さらには勤務先の住所や居住地まで記載されることがあります。こうすることで感染が確認された人の近くに住む人へ警戒を呼びかける狙いがあるのでしょう。

また、感染者の行動確認調査も徹底的に行われ、感染元を特定したうえで、濃厚接触者と見なされれば、自宅隔離措置や出勤停止措置の対象になります。接触者特定のために政府は3月20日にアプリを無料配布。このアプリはスマートフォンに導入すると、近くにいた人を感知し記録し、もし感染者が出た場合は、アプリに記録された情報を元に追跡するというもの。

(4)市民生活への財政的支援

新型コロナウイルスの拡大に伴う経済的な影響と市民生活を考慮して、シンガポール政府は早々に、日本の消費税に当たる7%のGST(Goods and Services Tax、物品サービス税)の引き上げを21年には行わないと明言しました。これは、GSTが近々引き上げられるのではないかという懸念を払拭した形です。

さらに、企業が従業員を、解雇することを避けるための支援策として、20年末まで従業員の月給の25%を政府が肩代わりするほか、立場の弱いフリーランス(個人事業主)にも月額1000シンガポールドルを支給することを決めました。

シンガポールでは矢継ぎ早に各種の施策が導入されるので、先週施行された制度が今週にはガラッと変わる、などということは珍しくありません。現在では、カラオケやバーは4月末まで強制的に休業とさせられたり、10人以上の集まりは禁止されたりして市民生活にも大きく影響を与えていますが、「何としてもコロナウイルスの拡大を抑える」という政府の本気度が感じられるからか、不満の声はあまり聞かれません。

「すぐに導入する」という、そのスピード感と徹底的な措置に関して、日本が見習うべき点だと思います。

現金給付に際して所得制限を設けるのか、さらには現金ではなく商品券にしたらどうか、といった部分で議論するのではなく「一律に現金給付をする」そして「減税をする」ということを素早く決められないのが残念でなりません。

新型コロナウイルスに対する日本政府の一連の対応に失望したという日本国民は少なくないはずです。今回の危機を乗り越えた先の日本が、シンガポールのようにスピード感のある国になることを願っています。

(星蘭 三歩)

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