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家庭内で孤立しがちなオジサンに知ってほしい3つのコツ

プレジデントオンライン / 2020年4月8日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Motortion

定年退職後、家庭や地域で孤立しないためにはどうすればいいのか。心理カウンセラーの下園壮太氏は、「そのためのコツは3つある。いずれも50代から始めることが大事だ」という――。

※本稿は、下園壮太『50代から心を整える技術』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

■“残念なシニア”にならないために

今まで人生の中心は仕事だった。組織の中で人間観を培ってきた。それは、決して無駄なことではありません。発生する問題を解決し、適材適所で人を活用し、期限内にタスクをこなすことで、あなたの価値観は形成されてきました。

一方、定年以降は、あなたが暮らす環境ががらりと変わっていきます。人は1人では生きていけません。家族や地域、趣味のコミュニティでの人間関係をあらためて築くことにもなります。新たな居場所を開拓する際には、初めての人と関わる機会も増え、もっと歳をとると、人に頼らざるを得ない生活がやってきます。

だからこそ、あなたの「価値観2.0」を、これから生み出す必要があるのです。

今、人というものについて等身大で理解する御利益は大きい。“残念なシニア”になり、たえずイライラしていたり、孤立したり、むなしさしか感じない生活は苦しいものです。周囲に呪いや憎しみをまき散らす、『もののけ姫』に出てきたタタリ神のようになりたくない。そのためにも、これまでの経験でカチカチに固まっている価値観を、いったん、ほぐしなおしてみましょう。

価値観の修正は大きな課題です。それを行うにはモチベーションとまだ修正できる余地が必要です。幸運なことに、50代には価値観ほぐしを練習できる場がたくさんあります。

■不安はモチベーションだ

うつからのリハビリのときに、人は「死ぬほどつらい」という経験を繰り返すからこそ変化のモチベーションが高く、しかも何度も襲ってくる不安の波のたびに練習ができるので大きく価値観を変えられる、というケースがあります。

50代のあなたの今の不安はモチベーションになります。また一筋縄ではいかない社会の「現場」にいる今だからこそ、あなたは多くのトレーニング機会が持てるのです。自分が仕事でやらかしたミス。記憶力の低下。あまり働かない部下への苛立ち。モチベーションにあふれているように見える同僚への嫉妬心。

仕事を離れても、地域のトラブル、介護や子育ての問題、パートナーや家族とのいさかい、疲れが抜けない自分への自信低下──。

怒りの感情に乗っ取られそうになったり、立ち直れないほど落ち込んだり、シビアな状況のときこそ、価値観ほぐしの練習です。場数を踏むほど、価値観は柔らかくなっていきます。その練習ができるのが、50代なのです。これから歳を重ねるにつれ、どうしても、価値観が固くなり、効果にも限度が出てきます。

ああ、どうして今こんなことが起こるかなぁ、とうんざりしたら、

「人は、困ったときにしか大切なことを学べない」

この言葉をつぶやいてみてください。そして、「練習、練習」と取り組んでください。

50歳は価値観ほぐしのまたとないチャンスなのです。

■職場での立ち位置も変えていける

「その日の汚れ、その日のうちに」のように、その日起こったトラブルを自分でとらえなおすことができる。価値観をほぐすと、疲労や感情への価値観も変わるため、自分のケアを後回しにしていた人が、その場で自分をケアできるようになります。すると、心も体も疲れにくく、リカバリーしやすくなるのです。

職場での立ち位置も変えていけます。「完投型のピッチャーになりたかったけど、ここぞというときに活躍する抑え投手的立場もなかなかおいしい」と、与えられた持ち場の楽しみを見つけられるようになります。

「人はこうあるべきだ」という価値観をほぐせば、変化があっても、予想外の出来事が起こっても、寛容になり、おおらかでいられます。老後に向けて広げておきたい心地よい人脈も、自ずと広がっていくでしょう。

よし、価値観をほぐすぞ! と、決意してもすぐにほぐれるものではありません。実は、これは相当、地道な作戦となります。「簡単じゃないのが、定年後の人生」。徐々に少なくなっていくエネルギーを切り詰めながら進む「撤退戦」の中でのメンタルワークです。でも、安心してください。50代からの「価値観ほぐし」というミッションを成功に導きやすくするコツをお教えしましょう。

■価値観ほぐしのコツ①ゆっくり、繰り返し変えていく

定年という大きなターニングポイントを、人生をがらりと切り替える転換の時期、とばかりに急ハンドルを切ろうとする人がいます。起業する、引っ越す、身体負荷の強いことにチャレンジする、しかも準備もなしに。これは厳しい。

なぜなら、50代以降は、「環境変化」だけで、大きなストレスとなるからです。

若い頃は、引っ越しをするのも楽しい。新しい家で生活したりいろいろな人と知り合えたりすることにワクワクしたりします。でも、今はどうでしょう、引っ越しをしようとすると、手続き、荷造り、荷ほどき、新生活を軌道に乗せるまでのあれこれを想像するだけで、疲れます。これからの人生では「変わることはストレス」なのです。

抑圧というストレスから解放され、通勤からマイペースな生活になるという「楽になる変化」ですらストレスになります。私自身、56歳で退職してからしばらくして、講演中に突然、声が出なくなるなどの喉の不調に見舞われました。「楽になる変化なんだから、退職後の生活にすぐに適応できるに違いない」と思っていましたが、甘かったのです。結局、喉の不調が治るまで半年ほどかかりました。

ゆっくり、じっくり、価値観をほぐしていこう、と思ってください。直面する出来事に対して、対処のやり方を変えてみる。本当に自分の価値観が変わったなぁ、としみじみ思えるようになるまでには、数年はかかるでしょう。

■一説では何かを習得するのに1万時間は必要

人が、初めて取り組むものに対して「習得できた」と思えるまでには、1万時間が必要だ、という考えがあります。これは、米国のマルコム・グラッドウェル氏が著書『天才! 成功する人々の法則(原題:Outliers)』(勝間和代訳、講談社)の中で「世界レベルの技術に達するにはどんな分野でも、一万時間の練習が必要だということだ」と述べたもの。

あなたの今ある価値観も、子どもの頃からそれこそ1万時間以上かけて培い、あなたを支えてきたものです。それを揺さぶり、ほぐすには、繰り返しの練習が必要になります。ちなみに退職後の自由時間は8万時間ほどあるそうです。繰り返し練習さえすれば、これから8個も新しいことをプロレベルまで高められる可能性があるのです。

仏教の読経も、繰り返しのたまものです。修行では1日3回は読経の時間を持ち、何回も何回も繰り返し、お経を読むそうです。「般若心経」の色即是空(目に見えるものは変わらないようで変わり続ける)、空即是色(変わり続けるものは、確かに存在しているものである)──人は歳をとり病気にかかって死んでいくけれど、生まれてから現在までの自分はどれも自分で、死んでしまっても自分であることに変わりはない、と説く言葉ですが、一回聞いて「ほう」と思っても、価値観は変わりませんよね。やはり病気や死は怖いままです。しかし、お坊さんは、何千回も、何万回も唱えることによってようやくその考えを、しみ込ませることができるのです。

価値観ほぐしは、試験を受ける前に、単語を丸暗記するのとはわけが違います。平穏に暮らしていて、不意に何かが起こったときに瞬時に判断するものさしになるのが、価値観。心の根底にある「構え」のようなものですから、根付かせ、使えるようになるまでには時間がかかります。

ゆっくりとハンドルを切り、繰り返し練習しましょう。今から始めれば、時間は十分にあります。

■価値観ほぐしのコツ②過去を否定せず、プラスしていく

急ハンドルと同様にやってしまいがちなのが「これまでの自分のやり方は間違っていた」と、自分の過去を否定してしまうことです。心の仕組みについて学ぶと、即座に過去の自分を否定しようとする人がたくさんいます。「これまでは自分はこんなに苦しかった。その理由がわかった。違う人生を歩もう」、こんなふうに、全部手放してからっぽにすれば、新しいものが入れ替わるように入ってくる、と思ってしまう。苦しんでエネルギーがなくなっている人ほど、そうやって楽になりたいと願います。

しかし、50代まであなたを支えてきた価値観をまるっきり変えるのは不可能です。本当はこれがやりたかった、残り人生50年、あきらめないでやろう、と思ったとする。しかし、もうこれまでの経験、人とのつながり、家族、住まいがある中で、すべてを手放して挑戦しても、満足したり成功したりする確率は低いでしょう。それはあなたが張ってきた根を断ち切る行為であり、知らないうちに得ていた栄養も失うことになるかもしれません。

■変えられない価値観には「うまく付き合う」

あなたの価値観は、あなたが生きてきた歴史そのもの。自信を支えたり、あなたらしさを作っている大切な要素です。しかし、このままでは苦しいから変える必要がある、と思えば、変えられる部分もあります。二者択一ではなく、バランスの修正と考えるとよいかもしれません。

嫌で捨ててしまいたいけど、どうしても変えられない価値観もあります。誰かに甘えたい、とか、人にどうしても威張りたいんだ、という部分が実はその人にとってとても大事である場合、それを手放そうとすることは、自らの幹を否定するようなもの。無理矢理変わろうとせず、うまくつき合う、というイメージで取りかかってみましょう。

私の好きな言葉に、「ニーバーの祈り」というものがあります。

「神よ 私たちに、変えられるものを変える勇気と、変えられないものを受け容れる冷静さと、その2つを見極める知恵を与えたまえ」(神学者 ニーバー)

あなたにとって変えられるもの、変えられないものは何かを考えてみましょう。

■価値観ほぐしのコツ③デバイスはそのままで、アプリを足していく

古いパソコン、使い込んだスマホ。50代以上の自分を、そんなふうにたとえて理解すると、しっくりくることがあります。もう機種変更はできないけれど、あと50年稼働させなければならないデバイス。ハードディスクには思い出もたっぷり詰まっていて、ちょっと負荷を大きくすると、熱くなってフリーズする(笑)。

でも、使わなくなったアプリをアンインストールして、代わりに新しいアプリを入れれば、わりとサクサク動くようになります。もちろん、新しい機種(若い人)ほどサクサクは動かないけれど。それが、あなたの「価値観2.0」の目指すところです。

やりたいことはたくさんあっても、たくさんのアプリを入れるとそれだけで動けなくなるのがあなたのデバイスの現実ですが、工夫次第です。

新しいアプリは、価値観でもあり、生きがい探しでもあります。試しにインストールしてみて、本体に負荷がかからないか、使いやすいか、動作確認をしてみる。今ひとつだなと思ったらすぐ削除して、別のアプリを探せばいい、ぐらいの気楽な構えでとりかかります。

■「否定」ではなく「付け足し」をする

前の自分もいいけれど、ほかにも違う自分を付け足していくのが、価値観ほぐしです。

下園壮太『50代から心を整える技術』(朝日新書)
下園壮太『50代から心を整える技術』(朝日新書)

料理でいえば、もう基本のだしはととのっている。あとはスパイスを足していくだけ、そう思うと、ちょっと気分がアガるかもしれません。

よく、うつになった人が「私の考え方が私をうつにしていたんですね」と反省しますが、私は「違いますよ」と言います。「その考え方はあなたにとって必要で、今までのあなたを支えてきたんです。でも、これからは“いつでも必要なもの”ではなくなる。TPOに合わせて使うものになるのかもしれません。TPOというアプリを1個付け足しましょう」というふうに。

価値観ほぐしは、否定ではなく、付け足しである。

この言葉も、ぜひ繰り返し、思い出してください。

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下園 壮太(しもぞの・そうた)
心理カウンセラー
1959年、鹿児島県生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊入隊。陸上自衛隊初の「心理幹部」として多くのカウンセリングを手がける。著書に『自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れをとる技術』(朝日新書)など多数。

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(心理カウンセラー 下園 壮太)

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