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「格差」は人種を超えて共感できる社会問題

プレジデントオンライン / 2020年4月10日 11時15分

「パラサイト 半地下の家族」(2019年) - 写真=Collection Christophel

■「格差」は人種を超えて共感できる社会問題

アカデミー賞の作品賞を韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が受賞した(4部門受賞)。防空壕の目的で造られた半地下の家に住む貧困層の家族。彼らは身分を偽って、丘の上の大豪邸に住む富裕層の家族にとりいる。お陰でみごと食い扶持にありつくが、運命は次第に大きく狂ってゆく。展開が予想を裏切るサスペンスだ。

この映画ははじめから欧米に浸透し、高い評価を受けて話題が先行、興行成績も絶好調だった。これまで外国語の映画が作品賞を取ったことはない。本作品がアカデミーの高い壁を乗り越えた裏には、効果的なPR活動と韓国映画が着実に築いてきた評判があった。

アカデミーはなぜ『パラサイト』に作品賞を与えたのか。それは、いま米国でもっとも政治的な課題が格差社会だからだ。人種、ジェンダー、同性愛などのLGBTQをはじめさまざまな社会問題があるなかで、格差が人々の中心的な関心になっている。その理由は端的に、将来の成長や収入増の夢を失った中産階級が分配に大きな関心を寄せるようになったから。格差は人種の違いを超えて多くの人が共有できる論点だということだ。

■アジアの格差問題に、欧米の中産階級が共感

過去に奴隷制度があった米国では、人種問題と言えばまず黒人の権利が意識される。そして、近年政治意識を強めたのがヒスパニック系。アジア系は政治的な難民としてスキルの高い移民が多かったことから、マイノリティとしての政治意識はまだ低い。しかし、映画界では近年、中国という巨大マーケットを意識した中華系シフトが起きており、アジア系の男女を主人公に据えた作品も登場するなど存在感を高めている。成長するアジアのストーリーの上に、欧米の中産階級が共感できる格差問題がのった。『パラサイト』が受賞するに至った道のりは必然であったと言えるだろう。

『パラサイト』の優れた点は、貧困家族がそれぞれ運に恵まれないが才覚がある一方、陳腐な悪人としても描かれている点だ。家族は互いにずけずけとものをいう一方、温かく愛しあっている。対する富裕層の家族も「シンプル」な良い人たち。ただ、彼らは出自も容貌も恵まれているからこそ邪気がないのであって、その無邪気さが貧困家族を無意識に追い詰めてゆく。

アカデミー賞の栄誉に輝こうとも、この映画に救いはない。出席したハリウッドセレブが身にまとう衣装や宝石、大豪邸はまさに映画のなかの富裕層と重なり、彼らが「シンプルに」作品を称賛して賞を授与するのも、その人の好(よ)い性格を裏打ちしているにすぎない。

だからといって、この映画を作ることに意味がないわけではない。階級差やそこにあらわれる人間の本質を抉り出した過去の名作小説も、必ずしも貧困層自身によって書かれたわけではないからだ。それでも作品を褒め称えるにあたって、アカデミーよりはいくばくかの恥じらいを自分に残しておきたい、というのが私の感想だった。

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三浦 瑠麗(みうら・るり)
国際政治学者
1980年、神奈川県生まれ。神奈川県立湘南高校、東京大学農学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。著書に『21世紀の戦争と平和』(新潮社)、『日本の分断』(文春新書)など。

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(国際政治学者 三浦 瑠麗)

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