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「外出自粛はすべてに優先する」という専門家を信じてはいけない

プレジデントオンライン / 2020年4月3日 18時15分

記者会見する新型コロナ政府専門家会議の尾身茂副座長(左から2人目)ら=2020年4月1日、厚生労働省 - 写真=時事通信フォト

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、外出自粛の呼びかけが広がっている。精神科医の和田秀樹氏は「そうした見解は、政府の専門家会議を根拠にしているが、メンバーのほとんどが感染症の専門家で、他分野の声が届きづらい。感染拡大防止だけを目的にすると、経済苦による自殺などを見落としてしまう。もう少し冷静な対応が必要ではないか」という——。

■コロナ対策を指揮する安倍首相を感染症専門家の「言いなり」か

新型コロナウイルスにまつわるパニックのような状態が世界中に広がっている。

現状、日本は欧州などに比べれば感染者数も死者数も少ない。その意味で、政府や国民の「慌て方」はいかがなものかと前回の記事で述べた。感染爆発するかどうかの重大局面であることは承知しているが、やはりもう少し冷静な対応が必要ではないか。

安倍政権の対応を見ていて、もう1点、首をかしげたくなることがある。それは特定分野の専門家の意見に従いすぎていないかということだ。

現在、政府が国民に休校や自粛を呼びかける際に、おおむね新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の提言に従っていると言っていいだろう。座長の脇田隆字氏は国立感染症研究所の所長、副座長の尾身茂氏は世界保健機関(WHO)の感染症対策部長を歴任した感染症の大御所だ。そのほか、日本医師会の常任理事や大学の呼吸器内科の教授、弁護士なども入っているが、ほとんどが感染症の専門家である。

彼らが担当することに異論があるというわけではない。ただ注意が必要なのは、「医学」においてはある専門分野の人が勧める治療などが、ほかの医療の専門分野については逆効果となることが少なくないということだ。

■感染症の専門家の意見だけを聞いていればいいのか

新型コロナから話はそれるが、たとえば、「善玉・悪玉コレステロール」だ。あまり正しく認知されていないが、これは体にとって善玉か悪玉かという分類ではない。動脈硬化の研究者や循環器内科の医師にとっての善玉・悪玉ということである。要するに善玉コレステロールの値が高ければ動脈硬化になりにくく、悪玉コレステロールの値が高いと動脈硬化になりやすい。

しかし、同じ医学であっても、循環器系とは異なるジャンルの免疫学者に言わせるとコレステロール値が高い人ほど免疫機能が高いということになる。つまり、がんや感染症になりにくくなる。新型コロナについても該当する可能性がある。おまけに皮肉なのは、悪玉と言われているコレステロールのほうがむしろ免疫機能を高めるとされていることだ。

3人の医療スタッフが頭をかしげている
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

ホルモン医学の世界では、コレステロールがさまざまなホルモンの材料になるとされている。特に男性ホルモンをつくる主な材料は悪玉コレステロールである。男性ホルモンの値が低下すると性欲や意欲が低下するだけでなく、筋肉がつきにくくなり、記憶力も落ち、また人付き合いもおっくうになることが知られている。薬でコレステロール値を下げるとED(勃起障害)になるというのもよく聞く話だ。つまり、悪玉を含むコレステロールが少ないとさまざまな弊害が起こるのだ。

■ある分野の「常識」は別の分野の「非常識」

わたしの守備範囲である精神科の領域でもコレステロール値が高いほうがうつ病になりにくいことが知られている。これも悪玉のほうがいいとされている。ついでにいうと、コレステロール値はやや高めの人が、いちばん死亡率が低いこともわかっている。

要するに、善玉コレステロール、悪玉コレステロールというのは動脈硬化についてのみ通じる話で、身体全体について言える話でない。にもかかわらず、コレステロールについて論じられる際に、ほとんどが循環器内科や動脈硬化の専門家の意見ばかりが取り上げられ、コレステロールが多いのはよくない、悪玉は特によくないという考え方が定着してしまった。

これと似たようなことが今回の新型コロナ騒動でも起こっているのではないだろうか。

■外出自粛の自宅閉じこもりでセロトニン値低下→うつ病リスク

人々の行動を規制するためのガイドラインを考えるための専門家会議であるはずなのに、心理的悪影響を検討する心理学者や精神科医も入っていない。また、症状を軽くすませるための方法論を検討したり、どういうふうに免疫力がつくのかを考察したりする免疫学者も入っていない。こういう形で、人々の行動指針を決めていいのかというのが医師としてのわたしの素朴な疑問である。

テレビ番組に出演するコメンテーターやゲスト解説者もほとんどが感染症学者で、どうやって感染を防ぐかという話に終始している。その結果、街を出歩く若者を断罪するような風潮が形成されている。感染爆発するかどうかの鍵は若い世代であることは知っている。だが、前回記事でも書いたように、人々が家に長期間閉じこもることによる精神医学的・免疫学的な悪影響がほとんど語られないのはおかしい。

ここにきて週刊誌などでは、これまでと異なる視点でコロナ騒動にアプローチする動きが出てきた。たとえば『週刊女性』(4月7日号)には「次はコロナうつが襲ってくる」という見出しの記事があった。これも不安を煽(あお)るものと言えなくもないが、「心理的な悪影響」を完全に無視するよりは良心的だと私は考える(同号では、免疫学者にインタビューして免疫力を高める方法も紹介していた)。『週刊ポスト』(4月3日号)では「このままでは感染死の10倍の自殺者が出るぞ」というセンセーショナルな見出しが出ていた。

「10倍」という数字はともかく、過度な外出自粛の精神面での悪影響や日光を浴びないことでのセロトニン値の低下を考えると、うつ病のリスクが高まるのは間違いない。

■「コロナ関連死」が8000人でも何も不思議はない

わたしは先日、医師のかたわらに長年手がけている教育事業の売り上げがコロナ騒動の影響で激減したため緊急融資を申し込んだが、過去3年分の決算をみて審査するという返答だった。政府が金融機関に無審査融資を促していないということだが、まるで業績が悪い会社は売り上げが落ちたらそのまま潰れろというような物言いで不快だった。実際、私のところには融資しないという結論がきた。今の売り上げは下がっているのは認めるが、過去の業績が悪いということが理由だった。結局のところ、政府は大企業のフォローは手厚いが、中小には冷たい。

もし、実際にここ数年、業績不振の会社がコロナ騒動で倒産の危機に陥っている中小企業があるとすれば、その経営者の不安は計り知れない。売上激減・景気低迷に加え、資金繰りの不安が強くなることとで、うつ病となり、それが自殺の大きな要因になることは十分に考えられる。

コロナウイルスのために自宅で孤立している若い女性
写真=iStock.com/bymuratdeniz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bymuratdeniz

景気が比較的よいとされる昨年までのデータ(内閣府と警察庁調べ)の推移をみると「経済・生活問題で自殺する人」は例年4000人前後おり、多い年には人8000以上になっている。おどすわけではないが、2020年に8000人に近い数の自殺者が出ても不思議でないのではないか。それは「コロナ関連死」といってもいい。

つまり、前出の週刊誌が書いていたように、もしコロナ感染死が数十人レベルでとどまるなら「10倍の自殺者」というのは決して大げさな話ではない。

感染者を減らすことはもちろん重要なミッションである。だが、それと同時に重視すべきは死者を減らすことだろう。死亡原因は、感染して重い肺炎になることだけではない。そのことを、政府はもっと配慮すべきだ。

■「専門バカ」体質の蔓延が日本をダメにする

日本には「専門バカ」ということばがある。

辞書には「ある限られた分野の事柄には精通しているが、それ以外の知識や社会的常識が欠けていること。また、その人」と解説されている。わたしはもっと広い意味で、自分の専門分野での常識がすべて正しいと思い、ほかの分野のことを考慮しないことというような意味としてこのことばをとらえている。

日本では、このように感染症に限らず、経済的な問題でも、教育の分野でも、専門家に任せればいいという考えが蔓延している。しかし、他分野の人の意見や素朴な疑問をぶつけたほうが有意義なことも多いはずだ。

すべての方により良いヘルスケアサービスを提供する方法を一緒につなぎ合わせる
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PeopleImages

経済政策の審議会で、わたしに限らず心理学者が呼ばれるという話は聞いたことはない。あるいは、テレビのさまざまな討論番組で、わたしが専門と思われている教育や老年医療の分野で呼ばれることはあっても、不況回復のようなメンタルの要因が強いと思われる分野でも、呼ばれたことは一度もない。

いっぽう、海外では、たとえば経済の分野で心理学を取り入れるということがトレンドになっている。

心理学を取り入れた経済学の理論である行動経済学は21世紀になってから3回もノーベル賞を受賞しているし、その開祖の一人のダニエル・カーネマンはプリンストン大学の心理学の教授の肩書でノーベル経済学賞を受賞している。

■新型コロナ対策に免疫学者や呼吸器内科学者、精神医学者もいていい

複数の専門分野の研究者が共同して研究にあたる学際的研究というのも、各学部のセクショナリズムが強い日本ではなかなか進まない。医学部にいたっては、医学を専門とする人同士であっても、専門分野が違う人の共同研究というのはほとんど聞かない。

今回の新型コロナのケースでいえば、免疫学者と感染症学者と呼吸器内科学者と精神医学者というのが共同で研究して、患者の治療や精神的後遺症の予防も含めた総合的な対策を立てるという話は聞いたことがない。

わたしの経験上、専門分野での地位が高いほど、自分の専門分野に関しては、他分野の人の話を聞こうとしなくなる。ビジネスエグゼクティブの人たちも、成功者ほど、自分の分野には口を挟まれたくないだろう。

知らないうちに「専門バカ」体質になっていないかの自己チェックは、賢い人をバカにしないために重要なものだと信じる。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)

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