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テレビ局員からディズニーCEOになった私が守り続けた"10の原則"

プレジデントオンライン / 2020年4月9日 11時15分

2012年6月5日、食品広告についての新基準を発表する、米ウォルト・ディズニー社会長でCEO(当時)のロバート・アイガー氏 - 写真=EPA/時事通信フォト

米ウォルト・ディズニー社会長で前CEOのロバート・アイガー氏は、もともとはABCテレビの社員だった。組織の最底辺で昼メロの雑用係をやったこともあるという。なぜそこからCEOに上り詰めることができたのか。アイガー氏が守り続けてきた「リーダーシップの10の原則」とは——。

※本稿は、ロバート・アイガー著、関美和訳『ディズニーCEOが実践する10の原則』(早川書房)の一部を再編集したものです。

■これは「世界一幸せな仕事」だ

私は同じ会社で45年も働いてきた。最初の22年は全米ネットワークテレビ局のABCで働き、1995年にディズニーがABCを買収してからの23年はディズニーで過ごしてきた。そしてこの14年間は、CEOという人もうらやむ仕事についている。ウォルトが1923年にディズニー社を創立して以来、CEOは私を含めて六人しかいない。

これまでには難しいことも、悲劇的な出来事もあった。だが私にとってディズニーの経営は、誰かの言葉を借りれば「世界一幸せな仕事」だ。私たちは映画、テレビ番組、ブロードウェイ・ミュージカル、ゲーム、衣装、おもちゃ、そして書籍も作っている。またテーマパークやアトラクション、ホテル、クルーズ船も建設し、運営している。世界中の14のパークでは毎晩、パレードやショーやコンサートを行なっている。私たちの仕事は楽しい体験を作り出すことだ。これほど長いことディズニーで働いていてもいまだに、「これは夢だろうか? どうしてこんな幸運に恵まれたんだろう?」と思うことがある。

ディズニーランドではその昔、チケットの種類と値段がアトラクションの人気順にAからEまで分かれていて、一番人気のアトラクションに乗れるチケットはEチケットと呼ばれていた。ディズニーでの私の仕事はまさに、Eチケットだった。ウォルト・ディズニー・カンパニーという巨大な人気アトラクションに14年間乗り続けているように感じている。

■プリンセス像の話をしたと思ったら、マーベル映画の話をする日々

とはいえ、ディズニーも営利企業であり、四半期業績を問われ、株主の期待に応じることを求められている。また、世界中ほとんどすべての国でビジネスを展開していることに伴う、さまざまな責任や義務からも逃れられない。これという大事件がない時でも、常に時代に適応し、姿を変えていく力が、ディズニーの経営には必要になる。

CEOの仕事は幅広く、投資家に成長戦略を描いてみせ、テーマパークの巨大な新アトラクションのデザインをイマジニアのクリエイターと共に考え、編集段階の映画について意見を伝え、保安警備や企業統治の体制について議論し、チケット価格や社員の給与体系についても話し合わなければならない。毎日が変化と挑戦の連続で、次々と気持ちを切り替えなければ仕事はこなせない。

たとえば、現代のディズニープリンセスにどんな特徴が求められるか、それをどのように表したらいいのかについて語ったあと、そのことは頭から追い払って次の議論に集中し、今後8年間のマーベル映画の候補作を話し合わなければならない。しかも、そんな風にスケジュール通りに物事が進む方が珍しい。思いもよらない危機や失敗に見舞われることがほとんどだ。いつも何かしらの事件や事故がどこかで起きている。

■私流の「リーダーシップの原則」を書いた

もちろん、これはディズニー社に限ったことではなく、どんな企業や組織でも同じことだろう。何かが起きない日の方が珍しい。この本は、ごく簡単に言えば、私流のリーダーシップの原則を書いたものだ。人や組織のいい面を育て、悪い面を抑えるような一連の原則が、ここに書かれている。

私は長いこと、本の執筆には乗り気になれなかった。つい最近まで私なりの「リーダーシップの法則」なり、経営に対する考え方なりについて、人前で話すのを避けてきた。それは、自分が偉そうに語れるほどのことをまだ充分にできていないと感じていたからだ。だが、45年間仕事をしてきて、特にこの14年を振り返った時、私の経験を語ることで、幅広い層の人たちの役に立つかもしれないと思いはじめた。

事業を経営する人、チームを運営する人、誰かと協力して共通の目的を追求する人にとって、この本が助けになればと思っている。私はメディアとエンターテイメント業界でしか働いたことはないが、私の経験には普遍的な教訓があると感じている。たとえば、リスクを恐れず、創造性を育(はぐく)むこと。信頼の文化を築くこと。好奇心を燃やし続け、周囲の人に感動を与えること。変化を否定せず、喜んで受け入れること。経営については、何よりも、誠実に正直に取り組むこと。向き合いたくないことにも、正面から向き合うこと。

そう言うと抽象的に聞こえるかもしれないが、長いキャリアの中で私が実際に経験した逸話や事例を読めば、これらの教訓がより具体的で身近に感じられるだろう。大企業の経営者を目指す人だけでなく、仕事や私生活で少し大胆になりたい人やもっと自信を持ちたい人にも、本書は役に立つはずだ。

■「10の原則」が私を助けてくれた

この本には、私の経験がほぼ時系列で描かれている。ABCで働きはじめた日から、私は14人の上司のもとで20の仕事を経験した。組織の最底辺で昼メロの雑用係もやったし、ネットワーク局の経営者として時代の先端を行くような番組も生み出した(業界の歴史に残るような大コケもした)。働いていた会社が二度も買収される憂(う)き目にあったものの、経営者として何度か企業を買収する立場にも立った。ピクサー、マーベル、ルーカスフィルム、そして直近では21世紀フォックスが私たちの傘下に入った。

私はスティーブ・ジョブズと共にエンターテインメントの未来について構想を練り、ジョージ・ルーカスが築いたスター・ウォーズの神話を語り継ぐ役目を負うことになった。メディアを創造し、伝え、楽しむ方法がテクノロジーによってどのように変わっていくのか、また今どきのファンに感動を与えながらも100年近く続いてきたブランドに忠実であり続けるにはどうしたらいいかを、毎日のように考えてきた。そして、ディズニーというブランドと世界中の数十億の人々とをつなぐため、懸命に真剣に働いてきた。

そのすべてが終わりに近づいた今、私が学んだことを振り返ってみると、真のリーダーシップに必要な10の原則が浮かび上がってくる。私を助けてくれたこれらの原則が、読者のみなさんの役に立つことを願っている。

■優れたリーダーは「悲観的」にならない

1.前向きであること

優れたリーダーに共通する大切な特徴のひとつは、前向きさ、つまり熱意を持って高い目標に取り組むことができるということだ。難しい選択を迫られた時や、理想的な結果が出ない時でも、前向きなリーダーはただ悲観ばかりに囚(とら)われることはない。悲観的なリーダーは人々をやる気にさせることも、チームを活気づけることもできない。

2.勇気を持つこと

勇気がなければリスクは取れない。変化と競争の激しい業界では、リスクテイクは必須であり、イノベーションは欠かせない。そして真のイノベーションは、人々が勇気を持った時にはじめて生み出される。買収にも、投資にも、資本配分にも勇気が必要だし、クリエイティブな判断では特にそうだ。失敗を恐れると、創造性は破壊される。

3.集中すること

最も重要で価値の高い戦略や問題やプロジェクトに、時間と労力とリソースを注ぎ込むことは極めて大切だ。またその優先順位をはっきりと頻繁に周囲に伝えることが欠かせない。

4.決断すること

どれほど難しい決断であっても、必要以上に遅らせてはいけない。リーダーは多様な意見を尊重しながらも、タイムリーに決断を下し実行する必要がある。リーダーが優柔不断だと、仕事が進まず何も生み出せなくなってしまうばかりか、チームのやる気が失われてしまう。

■好奇心、公平さ、思慮深さ、自然体…

5.好奇心を持つこと

心の奥深くに強い好奇心があると、それが新しい人や場所や考え方との出会いにつながり、市場とその変化に対する気づきと理解をもたらしてくれる。イノベーションのきっかけは好奇心だ。

6.公平であること

強いリーダーは誰とでも公平に丁寧に接する。他者に共感できなければリーダーは務まらない。また、リーダーは近寄りやすい存在であることも大切だ。努力の甲斐なく失敗してしまった部下には挽回(ばんかい)のチャンスを与えるべきだ。リーダーが厳しすぎるとチームに恐れと不安が充満し、風通しが悪くなってイノベーションが止まってしまう。恐れの文化は組織をダメにする。

7.思慮深いこと

優れたリーダーの特徴の中で、あまり評価されないのが思慮深さだ。思慮深さとは、知識を身につけるプロセスである。思慮深いリーダーの意見や判断は信頼できるし、正しいことが多い。つまり、思慮深さとは時間をかけ、情報を集めた上で意見を形成したり判断を下すことにほかならない。

ロバート・アイガー著、関美和訳『ディズニーCEOが実践する10の原則』(早川書房)
ロバート・アイガー著、関美和訳『ディズニーCEOが実践する10の原則』(早川書房)
8.自然体であること

ありのままのあなたでいよう。正直でいよう。自分以外の誰かのふりをしてはいけない。敬意と信頼は、嘘(うそ)のないリーダーによって育まれる。

9.常に最高を追求すること

最高を追求するということは、どんな犠牲を払ってでも完璧を求めるのとは違う。凡庸なものを受け入れず、「ほどほど」で妥協しないということだ。改善の余地があると思ったら、もっといいものにするために力を注ごう。ものを作る仕事であれば、最高の作品を目指そう。

10.誠実であること

組織の中で、人やプロダクトに対して公平であり誠実であることは、何よりも大切だ。大きなことにも小さなことにも倫理的に高い基準を設けられるかどうかが、組織の成功を左右する。言い換えると、小さなことをないがしろにすると、すべてがダメになるということだ。

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ロバート・アイガー ウォルト・ディズニー・カンパニー会長・元CEO
1951年生まれ。1974年、ABCテレビ入社。スタジオ雑務の仕事から昇進を続け、41歳でABC社長に就任。ディズニーによるABC買収を経て、2000年にディズニー社長に就任。2005年よりCEO、2012年より会長。2020年2月、CEOを退任。2019年タイム誌「世界で最も影響力のある100人」および「ビジネスパーソン・オブ・ザ・イヤー」に選出された。

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(ウォルト・ディズニー・カンパニー会長・元CEO ロバート・アイガー)

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