イマドキの新入社員が「電話に出るのが怖い」と訴えるワケ
プレジデントオンライン / 2020年4月10日 15時15分
■電話応対の研修は需要が高い
「はい! ○○○○(会社名)でございます」
電話がかかってきたら、コール1回か2回ですぐに出ること。「入社後、最初の仕事は電話に出ることです」と言われた人は多いのではないでしょうか。
加えて、それに出るのは、なぜか新人か若手社員だと言われてきました。ですから今でも、新入社員研修で電話応対に時間をかける企業は多くあります。
これまで約30年かけ、のべ10万人以上の方々にビジネスマナー研修を行ってきて感じるのは、時代が平成から令和に変わっても、新入社員の皆さんは電話応対の研修に真剣に取り組んでいるということです。
今年2020年の新入社員研修は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、集合型の研修を中止する企業が数多くあります。ところが、この電話応対というカリキュラムは、リモート型に変更してでも実施したいというご依頼をいただきます。
これほどニーズがあるということは、電話応対は重要と認識しているんだな、と思いますよね。ところが、これには別の理由が潜んでいます。
■新入社員が電話に出ない2つの理由
6年くらい前から、企業の管理職クラスの方々の「最近の若者は電話が鳴っても出ない」という相談が増えました。
それなら、「電話に出てください、と言えばいいのでは?」と思うことでしょう。最初は私もそう返しました。
すると、皆さん同様にこうおっしゃるのです。
「それが、言っているんです……。しかし、そう言うと『どうして私が電話に出なきゃいけないんですか? 他の人が出ればいいんじゃないんですか?』と言われてしまうんです……」。
入社直後の電話応対研修では、あんなに熱心だった新入社員たちが、なぜ電話に出なくなってしまったのでしょう?
そこで、企業のコンサルティングを行う中で、そうした若者たちの考えを伺ってみると、大きく2つのタイプに分類できました。
一つ目は、「うまく電話応対ができないから」というもの。
「恥ずかしい」「会社に迷惑をかけてしまうから」などの理由から電話に出ないという“ちょい勘違い”タイプ。
二つ目は、「面倒臭い」「固定電話に出たことがないから」といった“完全自己中”タイプ。
これら二つのタイプの原因は、一見異なるように見えますが、実は根底は同じ。どちらも「電話に出るのが怖い」という恐怖の感情が根づいているのです。
■「テレワークだから電話はいらない」といえるのか
さらに、新型コロナウイルスの問題が発生し、テレワークが増えている現在は、「テレワークの時代だから、そもそも電話に出なくても仕事はできますよね」との声もあります。
確かに、現在のビジネスにおけるコミュニケーションツールは、Eメールが主軸になりました。なので、このように言われてしまうと、上司や先輩たちは返す言葉が出てきません。
その一方で、テレワークになったからこそ、社内外問わず電話を行う機会も生まれます。そこで企業としては、電話応対の仕方をしっかり身につけてもらう必要があると考え、リモート型にしてまでも研修を行いたいのです。
また、企業の大きさ、職種に関係なく、こんな意見を寄せられます。テレワークでも社内の人たちとのコミュニケーションは、WEB会議やビジネス用のSNSでなんとかできるが、社外の人たちとは、相手の環境の問題もあるので、なかなかコミュニケーションがとりにくく困っている、とのこと。
こうした状況は、電話ができるようになるだけでほぼ解決します。考えてみてください。以前は、Eメールも、WEB会議もなかったわけです。それでも電話があれば仕事はできていたのですから、まずは、できることを考えてみましょう。
■電話応対は「第二の受付」
例えば、メールで送った資料を見ながら、電話でコミュニケーションをとる。あるいはお取引先と互いに了承の上、LINEでのグループ通話を行うといった具合です。
その時、相手がやる気のないような声のトーンであったり、たどたどしく、不安にさせるような応対をされると、「この会社はダメだな」という印象を与えてしまいます。
つまり、電話応対はその会社のイメージを植え付け、かつ、業績の判断基準にもなるほどに、大変重要なものなのです。
電話応対は、今でも「第二の受付」と呼べるくらい、重要な位置にあるのです。
このことを上司や先輩の方々が、若手の皆さんに納得のいくよう、説明することができているか。そこが彼らの電話恐怖症を克服するキーポイントとなります。
私は、マナーの定義を「相手の立場に立つこと」としています。その相手とは、人だけではありません。製品といった物や、電話や机などの什器備品も含めます。
その相手が喜ぶこと、満足すること、心や気持ちが温まることを想像する。そして、それを言葉や行動、物などの形で表現し、伝えること。これがマナーです。
■理由を教えてあげることもビジネスマナー
電話に出ない若者に「電話に出てください」といっても、なぜ出ないといけないのか理由が伝わっていなければ電話には出ません。ならば、ベテランの私たちがきちんとその理由を伝えて差し上げることも、ベテランのビジネスマナーといえます。
「え? 電話にできることは、当たり前でしょ」「そんなことまでやらなきゃいけないの?」とさまざまなご意見が聞こえてきそうですが、現代は、そこまでしなければならないのです。
「テレワーク時に、他社の方とのコミュニケーションを電話でとらなければならない時もあるから」などと、若者の立場に立ち、電話応対の重要性を納得のいくように伝えてまいりましょう。
それには、まず上司や先輩方のマナー力は必須です。まずはその視点から、彼らにとって固定電話はどのようなものなのか考えてみましょう。
2019年5月31に総務省が発表した「通信利用動向調査」のデータをもとに、日本の固定電話の保有状況を世帯ベースでまとめたガベージニュースによると、40代は約60%、50~64歳は約80%、65歳以上は85%以上の人々が固定電話を保有しています。一方、30代は26.2%、20代に至っては、なんと7.6%しか保有していません。
この数字から、若年層にとって固定電話がいかに身近なものではないことが分かります。そう、彼らにとって、固定電話は得体の知れない未知の世界のものなのです。
■若い世代はパブリックな場に電話する機会がなかった
また、若い世代であればあるほど、携帯電話同士の会話、つまり個人間の会話しか知らないため、会社や他人の家といったパブリックな場に電話する機会がないという点も見逃せません。
昔は友達に電話をするにも、直接繋がることはできませんでした。まず相手の家にかけて、友達の家族が出てきて気まずい思いをしたことはありませんか? このやりとりで失敗して、電話に関するメンタルが鍛えられた方も多いはずです。
若い世代はこうした過程を経ていないため、われわれより固定電話に対する苦手意識があります。ましてや、社会人としての振る舞いが求められるならなおさらです。
面倒かもしれませんが、新人たちの恐怖心を取り除き、応対の仕方を教え、できたら褒めてあげる。それにより、彼らは安心し、自信がつき、さらには「会社で電話に出ることが周囲の人たちの役に立っている」ということを励みに邁進していくことでしょう。これも、社内コミュニケーションのひとつとして、楽しみながら取り組んでいただけたらと思います。
■外出できない今は練習のチャンス
非常時になりつつあり、外出が思うようにできない昨今ですが、逆を言えば何かを学んだり、練習するのに絶好の機会でもあります。新人や若手の人たちは、オフィスで固定電話をとる練習を、今自宅でできるのです。
目の前に鏡を置き、電話が鳴ったときをイメージして、感じのよい表情を鏡で確認しながら、明るい声のトーンで「はい! ○○○○(会社名)の××でございます!」と言うトレーニングをするもよし。先輩が電話をかけて、マンツーマンの電話応対レッスンをして差し上げるもよし。
電話は声だけのコミュニケーションですが、良い声のトーンを出すには、良い表情は欠かせません。ほほ笑みの表情は、ほほ笑みの声となってあらわれます。笑顔は、体内でがん細胞を破壊するナチュラルキラー細胞(NK細胞)を増やす効果もあります。つまり、良い声のトーンで電話に出ることは、免疫力を高め、あなたの体も守ることにも繋がります。
ここまで読んでいただいたあなたなら、もし身近に固定電話に出るのが怖いという部下や後輩がいても、理由はもう理解できたはずです。
あとは彼らに出てほしい理由を説明し、加えて、「自身の健康を守るためにも、恐怖心などのネガティブな感情とはおさらばしよう」と伝えるだけで、不安は軽減することでしょう。しっかりと説明を行うことも、ビジネスマナーのひとつなのです。彼らとともにビジネスマナー、ビジネス電話を楽しみましょう!
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マナーコンサルタント
ヒロコマナーグループ代表。マナー西出ひろ子としても活動。大妻女子大学卒業後、国会議員などの秘書職を経てマナー講師として独立。31歳でマナーの本場英国へ単身渡英。オックスフォード大学大学院遺伝子学研究者のビジネスパートナーと起業し、お互いをプラスに導くヒロコ流マナー論を確立させる。帰国後、300社以上の企業にマナー研修を行う。著書に『かつてない結果を導く超「接待」術』(青春出版社)など著者累計100万部超。『入社1年目ビジネス文書の教科書』(プレジデント社)が近日発売予定。
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(マナーコンサルタント マナーズ 博子)
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