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なぜ安倍首相は記者会見で血の通った言葉を使わないのか

プレジデントオンライン / 2020年4月7日 13時15分

2020年4月6日、新型ウイルス肺炎が世界で流行 安倍首相、緊急事態宣言を発令へ - 写真=ロイター/アフロ

新型コロナウイルスの対応をめぐって、安倍首相が記者会見を繰り返している。それに対して批判の声が多い。どこに問題があるのか。コミュニケーションストラテジストの岡本純子氏は「布マスクを付けた記者会見は大失敗だった。まずは見た目を意識してほしい。そのうえで血の通った言葉遣いに変えるべきだ」という——。

■アベノマスク=給食マスクで世界に嗤われてしまった安倍首相

人呼んで「アベノマスク」。安倍晋三首相が4月1日に発表した新型コロナウイルス対策の施策「1世帯2枚の布マスク配布」が波紋を広げている。

施策の内容にも問題はあるが、筆者は「発表の仕方」に問題があったと思う。一言でいえば、それは「官僚式」そのものだった。血が通っておらず、大局観に欠けている。国会ではそれで間に合うかもしれないが、「国民向け」には不適格だ。

新聞各紙は7日にも緊急事態宣言が出される見込みだと報じている。その今こそ、首相として望ましいコミュニケーションとはどんなものなのか。今回、リーダーシップコミュニケーションの「7カ条」を提案したい。

1.見出しが9割と心得る

今回のマスク施策は、医療機関への配布を優先させるためには理解できる面もあった。しかし、クローズアップされたのは「布マスク2枚」ばかりだった。

一部では「メディアの切り取り」と批判する声もあったが、これは発信側の戦略ミスである。100言おうが200言おうが、相手が受け止めるメッセージは1つか2つ。聞き手の記憶には残るのは、最も目立ち、ニュース性のあるメッセージ、つまり「見出し」になる要素だけなのだ。

あの日の首相の発言は、誰が聞いても、「布マスク2枚」に注目してしまうだろう。なぜ布なのか、なぜ2枚なのか、その費用に見合うのか。そうした疑問が次々と浮かんでしまう。

コミュニケーションの肝は「自分が何を言うか」ではない。「相手が何を聞くか」である。情報発信のプロであれば、大局観をもって「見出し」を先読みする想像力、自分の望むメッセージを聞き手の脳裏に焼き付ける戦略が必要なのだ。安倍首相およびそのブレーンは何をしているのだろうか。

■「……まいります」連発の安倍首相の語尾には何も宿っていない

2.納得のいく「なぜ」を提示せよ

確かに、マスク不足の中で、1枚でもありがたいという人はいるだろう。しかし、多くは、「なぜ、今」「なぜ、布マスクなのか」と思ったはずだ。人を説得したいと思うのであれば、「なぜ」を明確に説明しなければいけない。

なぜ、その施策が重要なのか。意味や根拠について、十分に語る必要があるのだ。安倍首相はそれを完全に怠った。

発言の際、布マスクの効果を科学的・経済的エビデンスをもって示していれば、印象はまったく変わったはずだ。「足りないから」「手に入りそうだから」では聞き手が納得できない。

3.「見え方」に徹底的にこだわれ

「百聞は一見にしかず」というが、言葉と絵では、その伝わる力は全く違う。心理学的に言えば、文字や言葉よりも画像を含む情報伝達のほうがより記憶に残りやすいという「画像優位性効果」(Picture Superiority Effect)という理論があるが、安倍首相らが得意とする「官僚式」は、この「絵を見せる」という意識が非常に低い。

スライド・図・グラフ・写真・動画などで、わかりやすく直感的に脳に突き刺さる「絵」を見せる。前回記事で紹介したアンドリュー・クオモNY州知事の場合、スライドを巧みに切り替えたり、会見場所としてベッドの並んだ病院を選んだりと、「絵」を戦略的に活用している。

機を見るに敏な小池百合子都知事は早速、会見動画を配信する際に、図表・データのスライドを一緒に流すようにしたが、安倍首相はこの手法を好まないようだ。

「見え方」については、もう一つ。視覚効果ということでは、発信者のビジュアルイメージも徹底的に計算するべきだ。

あの会見で安倍首相は、顔に合わない極小サイズのマスクを付けていた。ネットでは「給食マスクか」と揶揄(やゆ)する声が出るほどで、ゴムの結び目まで見えていた。国家のトップの威信を傷つけてしまうもので、とても医学的な感染防止効果があるように見えない。

あの場面でしっかりと口元を覆うものであれば、印象もかなり違ったはずだ。強いリーダーシップを発揮するためには、「見え方」も徹底的にこだわらなければならない。

4.語尾の無駄遣いをやめよ

筆者は企業経営者などリーダーシップ層にコミュニケーションのコーチングをしているが、先日、ある大企業のトップがこう言った。

「思い切った言葉を発することができるのは、創業経営者だ。われわれサラリーマン経営者はなかなか言い切ることができない」

2020年4月6日、新型ウイルス肺炎が世界で流行 安倍首相、緊急事態宣言を発令へ
写真=ロイター/アフロ
2020年4月6日、新型ウイルス肺炎が世界で流行 安倍首相、緊急事態宣言を発令へ - 写真=ロイター/アフロ

安倍首相も似ている。首相の発言や発表は、そのまどろっこしい言い回しが実に官僚的で、それをそのまま棒読みするのも特徴だ。

「お願いしたいと思います」「行っていく考えであります」「ご協力をいただきますよう、改めてお願いします」「要請することといたしました」……。

なぜ、「お願いいたします」「行ってまいります」「ご協力ください」「要請いたします」とシンプルに言えないのか。また、一文も長ったらしいため、明らかに読みにくそうだ。だから、こちらも聞きにくい。「真のリーダーシップは語尾に宿る」。これは筆者の持論だが、首相の語尾には何も宿っていない。

こうした「官僚的様式美」は丁寧さを重んじる日本的コミュニケーションの「型」なのだろう。それは時として、責任を回避しようとする卑怯(ひきょう)な心の表れと疑われてしまう。リーダーは言葉の無駄遣いを即刻やめなければならない。

■人間・安倍晋三(65)にコロナに立ち向かう「熱量」を感じない理由

5.鬼気迫る「すごみ」を見せよ

佐々木紀(はじめ)国土交通大臣政務官は、4月4日、ツイッターで外出自粛要請中でも高齢層が外出しがちだったなどとする他人の記事を引用し、「国は自粛要請しています。感染拡大を国のせいにしないでくださいね」と発信した。

「発信している。でも言うことを聞かない人がいる」と言いたいのだろうが、それを本気で伝える努力をしているのだろうか。首相にしても、都知事にしても、まだまだ「鬼気迫る危機感」が伝わってこない。

全身から。顔の表情から。言葉以上の「気」「エネルギー」が伝わらなければ、人の心は動かない。生死を分ける戦いにおいて、司令官は「すごみ」をまとわなければならないのである。

2020年4月6日、新型ウイルス肺炎が世界で流行 安倍首相、緊急事態宣言を発令へ
写真=ロイター/アフロ
2020年4月6日、新型ウイルス肺炎が世界で流行 安倍首相、緊急事態宣言を発令へ - 写真=ロイター/アフロ
6.リアルな言葉で語りかけよ

最前線に立つ者だからこそ抱く危機感を、国民に肌で感じてもらうためには、リアルな声を伝えなければならない。そのためには現場の人間に語らせるのがいちばんだ。

3月23日の都知事の会見を見ていて、筆者の思わず戦慄(せんりつ)したのは、大曲貴夫国立感染症センター長の短いコメントだった。

「8割の人は軽い。2割の人は入院。5%は集中治療室必須。話せていた人が数時間で悪化する。やっぱりかかっちゃいけない。ぼくは強くそう思う」

医師、患者、病院スタッフ、そういった現場の「リアルな声」は、最もシンプルで強い。若者に届きにくいというのであれば、若い患者の声を伝えればいい。

「説明」では人は動かない。語り掛けや対話の中で、自ら気づきを得たときに、人の行動はようやく変わる。「私、言いましたから」では何の意味もない。ひとごとにさせないためにあらゆる手を尽くす必要がある。

7.引き出しを分けて、ラベルを貼れ

「官僚式」のさらなる大きな特徴は、詰め込み主義だ。話す内容に抜け漏れがあってはならぬと、あらゆる情報を羅列する。そのため聞き手はポイントがわからなくなり、混乱する。

情報を種別ごとに引き出しにわけ、要点をラベルとして、貼っておく。「まず、感染対策について申し上げます」「教育についてですが」「経済対策について」と整理すべきだ。情報の取捨選択・優先順位付けをすることで、お皿にごちゃまぜ、てんこ盛り状態を回避しなければならない。

他にも挙げていけばキリはない。あの左右のプロンプターを交互に見て読み上げるスタイルもやめてほしい。国民の目をしっかり見て、真摯(しんし)に向き合い、自分の言葉で語ってほしい。「人間・安倍晋三」として国民に相対すれば、その気持ちは必ず伝わるはずだ。そのためには「官僚式」を即刻やめるべきだ。

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岡本 純子(おかもと・じゅんこ)
コミュニケーション・ストラテジスト
早稲田大学政治経済学部卒、英ケンブリッジ大学大学院国際関係学修士、元・米マサチューセッツ工科大学比較メディア学客員研究員。大学卒業後、読売新聞経済部記者、電通パブリックリレーションコンサルタントを経て、現在、株式会社グローコム代表取締役社長(http://glocomm.co.jp/)。企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化を支援するスペシャリストとして、グローバルな最先端のノウハウやスキルをもとにしたリーダーシップ人材育成・研修、企業PRのコンサルティングを手がける。1000人近い社長、企業幹部のプレゼンテーション・スピーチなどのコミュニケーションコーチングを手がけ、「オジサン」観察に励む。その経験をもとに、「オジサン」の「コミュ力」改善や「孤独にならない生き方」探求をライフワークとしている。

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(コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子)

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