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コロナ大恐慌で地獄が始まる…それでも安倍政権は消費減税だけはしたくない

プレジデントオンライン / 2020年4月9日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RomoloTavani

■世界的な経済危機でも、米国には希望の光

新型コロナウイルス問題が深刻化・長期化しつつある中、その経済的影響が強く懸念されている。世界中で都市封鎖が実施されており、各国の生産活動が一時的に停止することにより、株価は数年前に逆戻りして雇用は信じられない規模で失われた。具体的には、世界経済の中心地である米国が3月26日公表した雇用統計において失業者数は跳ね上がり、ムニューチン財務長官が1929年の大恐慌以来初めて20%を超えるかもしれない、と警告する事態となっている。つまり、これは世界的に未曽有の経済危機がやってきたということを意味する。

ただし、米国は当面は深刻な事態であるものの、中長期的な視点に立つと底堅く回復していく見通しがある。ホワイトハウス・上下両院は約220兆円に及ぶ緊急経済対策を既に可決しており、両者は更なる経済対策も視野に協議を行う構えを見せている。また、トランプ政権が実現してきた減税と規制廃止は、米国の産業競争力を向上させて経済の底力を高めてきている。そのため、経済状況が一度上昇軌道に戻り始めればFRBの金融政策との相乗効果を発揮して、米国経済は劇的に復活する可能性がある。米国の現在の景気悪化は深い谷の中でも将来的な希望の光を見出すことできるものだと言えるだろう。

■日本は将来的な見通しについて光明が見えない

しかし、将来的な見通しについて全く光明が見えない国が存在している。それはわれわれの国である日本だ。日本の直近の景気状況は2019年10~12月期GDP改定値は年率7.1%減となっている。政府はGDP減少の理由について様々な屁理屈を述べていたが、誰がどうみても10月1日から始まった消費増税が影響していることは明らかだろう。アベノミクスの第二の矢であった機動的な財政政策は逆方向に砕け散った上に、第三の矢である規制改革に至ってはまともに飛んだ形跡すら見当たらない。したがって、米国経済と違って日本経済はその足腰が弱った状態で新型コロナウイルスに伴う経済危機に直面していることになる。日本政府は自ら転んで骨折したところで、更に交通事故にあったくらい悲惨な状況だ。

後述する4月7日に示された危機意識の欠落した補正予算だけでなく、その陰で3月17日に政府から衆参議員運営委員会理事会で示された日本銀行政策委員会の審議委員人事案も注目すべきだ。退任する布野幸利氏に代わって消費税増税容認派と目される中村豊明氏が政府から人事案として示されたのだ。同氏は日立製作所取締役を務めた人物であり、産業枠として経済界の代表として送り込まれる人物である。日本銀行政策委員会の審議委員は金融政策決定会合の結果を左右し、一度任命された後は5年間の任期中にそのポストを追われることはない。当然ながら、日本経済に与える影響は極めて重要なポストだ。

■当たり前の人事決定プロセスがない日本

米国ではFRB理事の承認プロセスでは連邦議会によって徹底的な振るいにかけられる。過去の金融政策に関する発言はもちろん、その素行についても細かく審査される。直近でもトランプ大統領が指名した人事案は人選の問題が指摘されて首尾良く運んでいない。現在の承認プロセスにある人物も過去の金融政策に関する発言と現在の金融政策に関する方針に関しての整合性について連邦議員から問題視されている。日本のように産業枠などの割り当てではなく、理事候補者の見識・人物が公開の場で問われるのだ。その影響力の大きさから行われるべき当たり前のプロセスが踏まれている。

中村豊明氏は12年社会保障と税の一体改革に関する特別委員会公聴会において、日本経済団体連合会税制委員会企画部会長として出席している。その際、消費税率の引き上げが伴う三党合意について、消費税増税派である経団連の税制改革の責任者として増税賛成の見解を述べた人物である。

■コロナ禍でも続ける、政府のふざけた回答

20年3月24日参議院財政金融委員会において、浜田聡参議院議員が上記の公聴会での発言について問題視すると、政府は「経団連の立場を述べただけで中村氏の意見では必ずしもない」という趣旨の回答をしたが、これほどふざけた回答はないだろう。同氏は経団連の税制委員会の責任ある立場にあったことは明らかだからだ。百歩譲って立場に応じて財政金融政策の見識が左右される人物を国会に推薦すること自体があり得ないことだろう。日銀政策委員会の審議委員は政府の税財政政策に関して直接権限を持つわけではないが、日銀の決定が日本政府の税財政政策に影響を与えることは自明だ。

つまり、新型コロナウイルスに伴う経済危機が顕在化していた3月17日、日本政府はこの期に及んで増税派と見られても仕方がない人物を経済政策の重責を担うポストに推薦したのだ。昨年の消費増税はコロナウイルス問題と同様に日本経済に深刻なダメージを与えており、この政府人事案は示す行為は危機感がないというよりも社会常識が欠落した所業だと言えるだろう。

■商品券からして、政府与党と国民の乖離は著しい

また、政府与党の経済危機への対策案としての補正予算も極めてインパクトに欠けるものだ。政府は補正予算を取りまとめる過程において、その内容について何度も観測気球の報道記事を垂れ流してきた。その際、未曽有の経済危機に際して、自民党農林部会や水産部会からは和牛商品券などの業界利権丸出しの主張が行われる姿は国民の眼からは極めて奇異なものに映った。新型コロナウイルス問題が表面化した1月段階で準備を始めるべき経済対策について4月に入ってもまだ議論していることにも驚かされるが、日銀人事に示された程度の税財政策に対する問題意識なのだから、政府与党と国民の意識との乖離は著しいものだと想定するべきだろう。


 自民党若手有志による消費減税を柱とする政策要望の記者会見も開催されたが、執行部は与党案として消費増税減税並みの給付を行うことで応じただけだった。むしろ、政府与党として断固たる消費減税の拒否の姿勢を見せつけた状況となっている。実際、これらの若手議員は消費税減税へのゼロ回答はもとより、今回の問題だらけの補正予算に賛成票を入れるだけの事実上マシーンでしかない。実際、消費減税法案の作成を参議院法制局に依頼するという具体的な行動を起こしたのは、100人超存在するとされる自民党若手有志ではなく、僅か2名の会派でしかない前述のN国の浜田聡参議院議員だったことは何とも皮肉だ。

■せめて与党・野党を問わず減税派議員は、日銀人事に反対票を

仮に今回減税に失敗した場合、今後、消費減税は未曽有の経済危機の時ですら選択できなかった政治的な禁忌として扱われていくことになるはずだ。緊急時ですら手も足もでなかったことは平時では尚更難しいものとして記憶されてしまうことになる。むしろ、それが狙いで一連の与党内でのプロセスが行われているのではないかと穿った見方をしたくもなるものだ。

せめて与党・野党を問わず減税を主張している国会議員は、政府が示した日銀人事に反対票を入れることくらいの筋を通したらどうだろうか。この人事は目先の経済対策だけでなく、今後5年間の金融政策の方向性を左右するものだ。党議拘束を理由に減税派の国会議員らは過去に増税を支持した人物に対して賛成票を入れるなら、表面上は減税派だけれども本音は増税派とみなされても仕方ないだろう。

世論調査では国民が経済対策として求める政策は消費税減税が圧倒的だ。今、試されていることは、国会議員が消費減税を求める国民の真の代表であるか否かということである。誰のため・何のための政治なのか、明確になる瞬間だと言えるだろう。

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渡瀬 裕哉(わたせ・ゆうや)
早稲田大学招聘研究員
国内外のヘッジファンド・金融機関に対するトランプ政権分析のアドバイザー。米国共和党保守派やトランプ政権と深い関係を有する。

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(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉)

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