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橋下徹「収入のある者が『家にいるだけで人命が救える』と訴える欺瞞」

プレジデントオンライン / 2020年4月15日 11時15分

※写真はイメージです。 - 写真=iStock.com/Fokusiert

新型コロナ対策特措法に基づく緊急事態宣言は出たものの、外出や営業の自粛をめぐり各所で混乱が続いている。根本的な原因は何か。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(4月14日配信)から抜粋記事をお届けします。

(略)

■政府や知事たちは「明日の飯が食えなくなる人」のことを考えているか

政府や各知事が、全国いたるところで外出自粛要請と営業自粛要請をバンバンかけまくっている。

「命を守るために家にいてください!」
「STAY HOME!」
「家にいるだけで人の命を救うことができる」

しかしそのような掛け声をかけている人たちは、基本的にはある程度収入があり、明日の飯に困らない人たちばかりだ。

彼ら彼女らにとっては「家にいるだけで」で済む。明日の飯が食える人にとっては、家にいることでとにかく感染拡大を止めたい。それは自分の命の安全にもつながる。

一方、営業自粛によって明日の飯が食えなくなる人たちにとっては、「家にいるだけで」では済まない。自分の生活が犠牲になる。

(略)

ここを、政府や各知事、そして中央省庁や都市部の役所の役人たちは真に理解しているのだろうか?

(略)

■政治家は制度の羅列ではなく、「結論」をしっかり示せ

安倍政権の政府や、与党国会議員は、今、政府が様々な支援策を用意していることを並べ立てる。しかしその支援策は、給料がびた一文減らない役人たちが作っており、明日の飯に困る人たちの状況が分からないのか、机上の論に基づいて様々な条件が付せられている。そしてこれまた給料がびた一文減らない国会議員たちが、その支援策を誇らしげに語る。

制度は道具だ。だから制度は役人が作るもの。

しかしその制度(道具)を使えば、国民はどういうことが保障されるのか、その結論をしっかりと示すことが政治家の役割だ。

今の安倍政権や国会議員たちに決定的に欠けているのはこの点だ。

営業を自粛した事業所の労働者は所得の何割が補償されるのか。家賃はどうなるのか。労働者は自分の所得がどうなるのかが気になるし、事業主は店を閉めても発生する固定費の支払いに追われる。

さらに、事業をこれからも継続していけるのか否か。

ここに向けてのメッセージが絶対に必要だ。

西村康稔・新型コロナ対策担当大臣は、「事業補償はできないし、世界各国でもそういうことをやっている国はない。雇用調整助成金制度が所得補償の意味合いを持つし、中小企業や個人事業主には給付金制度を用意した。個人にも生活支援制度を作った。その他にも様々な支援策を用意している」と説明する。

これは役人的な説明だ。「事業補償」と言ってしまうと、営業利益まで補償しなければならなくなると認識し、それを避けているのだろう。しかし、この緊急時に、役人的にそこまで緻密に言葉を吟味しなくてもいい。

政治家は、国民が一番不安に思っていることに対して、ズバッとメッセージを発するのが仕事だ。

労働者は所得。事業主は固定費と今後の営業の継続性。彼ら彼女らの最も気がかりなところについて、その結論について保障し、政治家としての責任を示すのが政治家の役割だ。

(略)

ところが今は、西村大臣が列挙する支援策(道具)を活用しても、自分の生活がどのような結論になるのかが全く見えない。だから国民は不安に駆られる。

たとえていうなら、西村大臣は段ボール箱にぐちゃぐちゃに入った道具を見せて、これで大丈夫だろう? と言っているような状況だ。

そうじゃない。それら道具を使って、どんな作品(結論)を仕上げるのか、そこを見せるのが政治の役割だ。

雇用調整助成金制度があるから大丈夫! と言っている政治家はダメだ。この制度は、自由市場が保障されている環境の中で、事業者の経営がうまくいかなかったことの自己責任をも考慮し、給料の6割以上を払う休業手当のうち、日額8300円ちょっとを上限として一部補助を出すものだ。労働者にとっては原則6割の給料だけが補償される。事業主にとっては日額8300円以上は自分たちの負担。労働者の給料を6割以上払おうと思えば、それはすべて事業主負担として重くのしかかる。そしてこの制度を使うかどうかは、事業主の任意に任されている。

つまりここが最大の問題点なのだが、「事業主の不可抗力で休業した場合には休業手当を支払う義務がない」という解釈が成り立っている。緊急事態宣言が下されて自粛要請がかかったことで休業した場合には、不可抗力の休業とみなし、事業主は休業手当を支払わなくてもよくなるというのだ。雇用調整助成金制度を使わずに休業手当を支払わないということも可能なのである。

結局、雇用調整助成金制度によっては、必ず労働者の所得が一定補償されるというものではない。ここを理解していない国会議員が多すぎる。そして雇用調整助成金制度があるから大丈夫! と無邪気に叫んでいる。

だから本来政治が、「緊急事態宣言中の解雇は禁じる。休業手当の支払いと雇用調整助成金制度の活用を事業主に義務化する」という法律を作らなければならないのだ。

(略)

政治とは「国民に結論を保障する。その結論を達成するために、国民(自治体)に強制する法律を作る。強制する以上は、金の手当ても含めて全責任を取る」というものだ。

政府や与党国会議員は支援策を列挙するだけではダメだ。国民に対してどんな結論を保障するのか、まずそれを示すことが出発点だ。

(略)

■市場をストップし犠牲者を出すなら、共産主義的なサポートが必要だ

今回、新型コロナウイルス感染症の爆発的な感染拡大を防ぐために、政治行政が自由市場をストップさせた。政治行政から補助金ももらわず、自分の力で営業していた人たちに対して、政治権力の力で、その自由にストップをかけたのである。

橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)
橋下 徹『トランプに学ぶ 現状打破の鉄則』(プレジデント社)

(略)

自由市場をストップさせたということになると、これは半ば共産主義体制ともいえる。共産主義体制は政治行政が国民の暮らしを保障するのが根幹だ。

僕はイデオロギーには左右されない。自由市場が保障されている平時においては、ある基準軸があるとすれば、切磋琢磨の点で、その基準軸から一番離れたところ、つまり一番激しく切磋琢磨を求める政治的立場だ。しかし、自由市場が政治によってストップされた場合には、今度は基準軸から切磋琢磨とは反対の方向に一番突き抜けていく。つまり共産主義的な考えになっていく。

政治家時代、あれだけ補助金の削減をやり、切磋琢磨だ、自己責任だと言い続けていた僕が、なぜ今回は、徹底して生活保障をせよ、と主張するのか。

それは政治が自由市場をストップさせたからだ。

だから僕は、緊急事態宣言中の「解雇の禁止」というところまで振り切った考えを持つ。平時においては、もっと解雇を認めろ‼(解雇規制の緩和)と叫んでいたが、政治が自由市場をストップさせた瞬間に、解雇は禁止だ‼ という主張になる。

イデオロギーに固まるのではなく、状況に応じて政治的スタンスを変える。そしてその振れ幅が最も大きい。

収入がある者は、家にいるだけでいい。様々な自粛要請が発出されても通常通り企業活動ができる企業も別段困難を伴わない。

しかし、自粛要請によってダイレクトに営業停止になってしまったところはどうするのか?

収入がある者、通常通り企業活動ができる者は、結局、自粛要請によって営業停止になる人たちの犠牲によって安全を享受することになるのである。

これは一部の者を犠牲にして、一部の者が安全を享受していることに他ならない。

これは明らかに不公平だ。

この不公平を正すには、収入のある者たちは、自分たちの安全を享受する代償として、犠牲になった一部の人たちのサポートを徹底的に行わなければならない。

それが税によるサポート、休業に伴う補償というものである。

この税の使い方によって後に国民全体の負担が大きくなるにせよ、今、国民全体が安全を享受するためには、一部の者が被る犠牲を国民全体で分かち合うことは当然のことであり、これが僕の考える「ある種の共産主義体制」である。全体の安全のために犠牲になる一部の人たちに対しては、徹底した税によるサポートをしなければならない。

(略)

(ここまでリード文を除き約3200字、メールマガジン全文は約1万5500字です)

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.195(4月14日配信)の本論を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【新型コロナ特措法問題】明日から飯を食えなくなる人に「自粛」を押し付ける緊急事態宣言の大きな欺瞞》特集です。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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